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06.放送委員長は御機嫌に加わる
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「ね~、ミッキーてばぁ」
「うるさい」
今朝は通常通り起きた上総といつだって早起きな幹春は、上のやり取りを昨夜からずっと繰り返していた。委員長としての仕事がある為、登校への道のりはまだ人もまばらだ。
「今更変えられるか」
「ちょっとだけ、ちょっとだけで良いからさ」
上総の掲げる『ミッキー改造計画』はこの通り、幹春に却下され、今日も幹春は七三ダサメガネである。
「ひつこいな。俺には俺の方針があって、この格好をしてるんだ」
いやだからその方針が激しくズレていて、ダサいのだが。
しかし友達思いな上総は、直接は言わない。この友人が、鋼の精神と肉体を持っていても、その実傷付きやすく小心者な事を知っているからだ。
「メガネだけでも替えてみない?」
(訳:そのクソダサ黒縁をもう少しスッキリさせよう)
「いい。金がもったいない」
今となってはお金に不自由はしていないし、趣味(料理)にお金は惜しんでいない幹春だったが、身に着いた節約癖が他の出費(主にファッション)を拒む。
「てゆーかミッキー目は良いはずだよね?視力いくつ?」
幹春はずっとテレビやPCとは無縁であった野生児だった為、生まれつきや病気や怪我でもしない限り視力は悪くならないだろう。そう当たりを付けて聞いてみると、思った通り、答えは了だったが、その後幹春は言いよどんだ。
「この学校に入る前に、健康診断書いっただろう?その時測ったんだけど…」
「うん、やっぱ2.0?」
「…病院での視力検査は3.0までしか出来なかった」
「…うん、人類の医療がミッキーにまだ追いつけてない事は分かった」
幹春の視力がサバンナの方の狩猟民族並みだという事が判明したところで、前方から顔見知りが歩いて来た。
「お、ご両人今日も仲良いね」
「右佐美、おはよう」
「おはー」
幹春より大分小柄で、短めの髪にクリッとした目が印象的な少年の襟元には、Ⅲと金のバッジが並んでいた。
人懐っこそうに笑う少年は、名は右佐美数馬かずま。小柄であるが、れっきとした高校3年生で、その明るくお喋りなキャラ故、放送委員長を務めていた。
ノリは軽いが誠実で、その可憐な容姿もあって親衛隊も存在する。
ちなみに彼にはこの学園に入る前から彼女がおり、その事も公言していた。
「何なに?何の話?視力がどうとか言ってなかった?」
広報委員長の左川と同じ位噂好きでもあり、好奇心を隠さないキラキラした目で見られると、誰もが思わず喋ってしまうという恐ろしい相手でもある。
「何でもない」
「ミッキーにメガネ替えたら?て話してたんだ」
「かず…っ」
「ああ~~~そうだな、そのメガネってちょっと所じゃなく時代遅れ感あるもんな~」
「!?」
やり過ごそうとする幹春を逃さない為か、あっさりとバラした上総に抗議を上げる間もなく、右佐美に何かひどい事を言われた気がして幹春が固まった。
「それで視力?
今度の日曜買いに行くなら、俺良い店知ってんよ」
「……いや、いい」
密かに落ち込んだ幹春は、右佐美の提案を断り、そのままトボトボといつもより若干狭い歩幅で立ち去っていった。
「まぁ今の風紀委員長属性が薄れるのはもったいないけどな~」
「ん?」
幹春の後ろ姿を見ながら右佐美が呟いたセリフに、同じく親友を見送っていた上総が反応した。
「え、今属性って言った?」
「ん?…あっ、やべ」
「いや、え?右佐美もしかして…」
「え?あ、嘘、上総も…!?」
幹春の知らぬところで、幹春の知らない文化の同志同士が固い握手を交わした。
◇◇◇◇◇
放課後、風紀委員室に赴くと日下部はもう来ていた。
「東海林、新入生歓迎レクレーションの件なのですが…」
差し出される書類に、昨日の生徒会の一件の際の呆け具合は見られず、幹春は少しだけホッとした。幹春には分からなかったが、上総の解説曰く、自分の容姿にコンプレックスがあった日下部は、そこに欲しい言葉を貰えた事で中央に対して好印象を持ったのだろうとの事だった。
いつもの日下部に戻っていたし、中央の話も出なかったので、一時の気持ちだったのだろうと安心して仕事に臨んだ。何せ風紀委員は忙しいのだ。
学内の揉め事の取り締まり、と一言で言っても、幹春の注視する未然の取り締まりの為、規則が正しく順守されているか、問題のある生徒はいないかなど日々やる事は沢山ある。
そうこうしていたら、2年の卯月達がやって来た。
「委員長、お疲れ様です!」
「ああ…ん?お前達だけか?」
見ると、先日幹春に訴えを起こした卯月達3人しかいない。あとの2人の2年風紀委員はどうした、と聞くと3人とも顔を歪めて沈黙した。
「……震と寅生は、今日は来ないそうです」
「体調でも悪いのか?」
再び3人の目が泳ぎだす。
「?どうした」
「それが……震達、風紀委員辞めるかもって…」
「……え?」
言いにくそうに続けられた卯月の話によると、震と寅生は中央と同じクラスらしく、彼と仲良くなり学園の規律、風紀委員の在り方に疑問を抱く様になった為、風紀委員としての活動をしたくないそうだ。
(だから!学園が普通の高校と違う事なんて分かりきった事だろう!!
それと学内の平穏の為の取り締まりは別物だろうが!!)
心の中で、中央の言い分を罵倒しつつも、表面上は冷静なふりをする。
感情を抑えるのも、この2年で随分慣れた。
「…そうか。辞めるのなら、補充がいるな」
委員会を辞める事は可能だ。内申点などが下がるが、この学園では委員会はあくまで【仕事】である為、無理やり任務に就かせたりはしない。入るのには向こうからの勧誘でない限り、審査や試験があるが、辞めるのは本人の意思と委員長の承認があれば良い。
中央に良い感情を持っていないらしい卯月達は、まだ説得してみますと言っていたが、幹春としても、嫌々やられるよりも、やる気のある人物が欲しい。
ただでさえ仕事は山盛り、おまけにその中央のせいでどんどん増える始末だ。
「…止めないんですか?」
卯月達が退室した後、2人きりになった風紀委員室で日下部が静かな声で訊いて来た。
言わずとも、震達の事であろう。
「そうだな」
幹春が風紀委員になったのは、前々委員長の強引な勧誘によるものだったが、生来の真面目さでもって仕事も後輩指導もしてきた。
風紀の仕事は学内の規律を守らせる事である訳で、それは一部の生徒からは煙たがられる存在であろう。施行する側が、毅然とした態度でなければならない。
その軸となるべき想いが揺らいでいるのなら、風紀委員の職務に綻びが生まれるし、本人もツライだろう。
だから、と幹春は思う。
「…お前も辞めたかったら、そう言ってくれ」
あの時、1年からずっと同じ風紀委員として、信念を持って職務に当たっていた日下部に、不安が募ったのだ。
しかし日下部は、あの優美で穏やかな美貌を歪ませた。
「…何ですか、それ。
私に風紀副委員長を辞めろと言っているんですか」
「辞めろとは言っていない。辞めたかったら言えと言っただけだ」
「同じ事でしょう。私が辞めたいと言ったら、震達の様に簡単に切り捨てる気なんでしょう!」
激昂され、今度は幹春が眉を顰める。
「切り捨てるって何だ。
お前が震達と同じ様に、あの中央とか言う転校生の言い分が分かると言っていたんだろう」
「そんな事で、貴方は私も切り捨てるんですか」
「だから、切り捨てるって何だ」
なぜ日下部がこうまでも怒るのか分からない。怒りたいのは、幹春の方だ。それは日下部に対してでは無いが。
「そうでしょう。引き留める事も、話し合う事も無く、私が辞めると言えば、それで終わりだと貴方は言う。
貴方はいつもそうだ。2年以上一緒にやって来た私には、欠片も頼る事無く、いつもいつも美化の上総にばかり頼っている」
言外に上総への依存を指摘され、幹春の顔が赤らむ。
唯一の理解者である上総に頼り切っている現状を、幹春だって理解している。しかしそれを人から、しかも仕事上の部下である日下部に指摘されるのは、恥ずかしすぎた。
「ほら、上総の事を少し言われただけで、それですよ」
「く、日下部だって、転校生に言われた事で赤くなってたじゃないか!」
「あれは…っ」
言いかけて、日下部は気まずげに視線を逸らした。
「…やめましょう。少し、頭を冷やしてきます」
そう言って職員室への認可書類を持って行く辺りが、日下部らしくそつがない。
何と声を掛けるべきか考えるも、なぜ日下部が怒ったのかが分からない幹春には言うべき言葉は無かった。
「辞めませんからね」という日下部の声が室内に投げ込まれ、風紀委員室のドアは静かに締まった。
◇◇◇◇◇
「…サッパリ分からん」
あさりと春キャベツの酒蒸しの殻を取りながら、憮然とする幹春の前で、上総は即座にスマホを取り出した。
「たwぎwっwてwきwたwww」
「たきぎ?
何してんだ、上総?」
赤ら顔で高速タイプをする上総を、幹春は訳が分からず眺めた。
上総のラ〇ンの送り相手は、本日同盟を組んだ相手。今は特別階の食堂で食事をしているだろう右佐美だったが、即行既読&返信が来た。
『うひょーーーーwww美人風紀副委員長そっちでしたかwww』
『嫉妬乙wwwwww』
『美人の嫉妬おいしいですprpr』
『舌を出す犬のスタンプ』
『舐めすぎwww』
『これ彼女に教えて良い?』
『イイヨ!
萌えは分け合わないとね!』
『ありがとうスタンプ』
『しかし東海林かぁ』
『いや、ミッキーマジでポテンシャル超高いから。
うちのミッキーなめないでね』
『出たーーーモンペ乙―』
『いつか目にモノを見せてやる』
『ミッキー改造計画?超楽しみ。
むしろ俺も乗りたい』
『大歓迎』
『握手スタンプ』
『ラ〇ンばっかしてたらミッキーが寂しそうにこっちを見てる』
『仲間にしますか?』
『もう仲間です』
『そうだったwww』
『じゃあミッキーの手料理食べるのに戻るから』
『そりゃ日下部に嫉妬されるわwww』
『幹春?俺の向かいでメシ食ってるぜ?』
『www刺されない様気を付けてw』
『キリッ顔文字』
「…上総?メシ食わないのか?」
「食べる食べる!」
(はぁ~~~ちょっと不満そうに拗ねてるミッキーまじかわ!!
しかし日下部があの姿のミッキーにとは…なかなか見る目があるじゃないか)
うんうん、と満足そうに頷きながら鰆の西京焼きを摘まむ上総に、愚痴を流されたと思った幹春は更に拗ねた。
「うるさい」
今朝は通常通り起きた上総といつだって早起きな幹春は、上のやり取りを昨夜からずっと繰り返していた。委員長としての仕事がある為、登校への道のりはまだ人もまばらだ。
「今更変えられるか」
「ちょっとだけ、ちょっとだけで良いからさ」
上総の掲げる『ミッキー改造計画』はこの通り、幹春に却下され、今日も幹春は七三ダサメガネである。
「ひつこいな。俺には俺の方針があって、この格好をしてるんだ」
いやだからその方針が激しくズレていて、ダサいのだが。
しかし友達思いな上総は、直接は言わない。この友人が、鋼の精神と肉体を持っていても、その実傷付きやすく小心者な事を知っているからだ。
「メガネだけでも替えてみない?」
(訳:そのクソダサ黒縁をもう少しスッキリさせよう)
「いい。金がもったいない」
今となってはお金に不自由はしていないし、趣味(料理)にお金は惜しんでいない幹春だったが、身に着いた節約癖が他の出費(主にファッション)を拒む。
「てゆーかミッキー目は良いはずだよね?視力いくつ?」
幹春はずっとテレビやPCとは無縁であった野生児だった為、生まれつきや病気や怪我でもしない限り視力は悪くならないだろう。そう当たりを付けて聞いてみると、思った通り、答えは了だったが、その後幹春は言いよどんだ。
「この学校に入る前に、健康診断書いっただろう?その時測ったんだけど…」
「うん、やっぱ2.0?」
「…病院での視力検査は3.0までしか出来なかった」
「…うん、人類の医療がミッキーにまだ追いつけてない事は分かった」
幹春の視力がサバンナの方の狩猟民族並みだという事が判明したところで、前方から顔見知りが歩いて来た。
「お、ご両人今日も仲良いね」
「右佐美、おはよう」
「おはー」
幹春より大分小柄で、短めの髪にクリッとした目が印象的な少年の襟元には、Ⅲと金のバッジが並んでいた。
人懐っこそうに笑う少年は、名は右佐美数馬かずま。小柄であるが、れっきとした高校3年生で、その明るくお喋りなキャラ故、放送委員長を務めていた。
ノリは軽いが誠実で、その可憐な容姿もあって親衛隊も存在する。
ちなみに彼にはこの学園に入る前から彼女がおり、その事も公言していた。
「何なに?何の話?視力がどうとか言ってなかった?」
広報委員長の左川と同じ位噂好きでもあり、好奇心を隠さないキラキラした目で見られると、誰もが思わず喋ってしまうという恐ろしい相手でもある。
「何でもない」
「ミッキーにメガネ替えたら?て話してたんだ」
「かず…っ」
「ああ~~~そうだな、そのメガネってちょっと所じゃなく時代遅れ感あるもんな~」
「!?」
やり過ごそうとする幹春を逃さない為か、あっさりとバラした上総に抗議を上げる間もなく、右佐美に何かひどい事を言われた気がして幹春が固まった。
「それで視力?
今度の日曜買いに行くなら、俺良い店知ってんよ」
「……いや、いい」
密かに落ち込んだ幹春は、右佐美の提案を断り、そのままトボトボといつもより若干狭い歩幅で立ち去っていった。
「まぁ今の風紀委員長属性が薄れるのはもったいないけどな~」
「ん?」
幹春の後ろ姿を見ながら右佐美が呟いたセリフに、同じく親友を見送っていた上総が反応した。
「え、今属性って言った?」
「ん?…あっ、やべ」
「いや、え?右佐美もしかして…」
「え?あ、嘘、上総も…!?」
幹春の知らぬところで、幹春の知らない文化の同志同士が固い握手を交わした。
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「東海林、新入生歓迎レクレーションの件なのですが…」
差し出される書類に、昨日の生徒会の一件の際の呆け具合は見られず、幹春は少しだけホッとした。幹春には分からなかったが、上総の解説曰く、自分の容姿にコンプレックスがあった日下部は、そこに欲しい言葉を貰えた事で中央に対して好印象を持ったのだろうとの事だった。
いつもの日下部に戻っていたし、中央の話も出なかったので、一時の気持ちだったのだろうと安心して仕事に臨んだ。何せ風紀委員は忙しいのだ。
学内の揉め事の取り締まり、と一言で言っても、幹春の注視する未然の取り締まりの為、規則が正しく順守されているか、問題のある生徒はいないかなど日々やる事は沢山ある。
そうこうしていたら、2年の卯月達がやって来た。
「委員長、お疲れ様です!」
「ああ…ん?お前達だけか?」
見ると、先日幹春に訴えを起こした卯月達3人しかいない。あとの2人の2年風紀委員はどうした、と聞くと3人とも顔を歪めて沈黙した。
「……震と寅生は、今日は来ないそうです」
「体調でも悪いのか?」
再び3人の目が泳ぎだす。
「?どうした」
「それが……震達、風紀委員辞めるかもって…」
「……え?」
言いにくそうに続けられた卯月の話によると、震と寅生は中央と同じクラスらしく、彼と仲良くなり学園の規律、風紀委員の在り方に疑問を抱く様になった為、風紀委員としての活動をしたくないそうだ。
(だから!学園が普通の高校と違う事なんて分かりきった事だろう!!
それと学内の平穏の為の取り締まりは別物だろうが!!)
心の中で、中央の言い分を罵倒しつつも、表面上は冷静なふりをする。
感情を抑えるのも、この2年で随分慣れた。
「…そうか。辞めるのなら、補充がいるな」
委員会を辞める事は可能だ。内申点などが下がるが、この学園では委員会はあくまで【仕事】である為、無理やり任務に就かせたりはしない。入るのには向こうからの勧誘でない限り、審査や試験があるが、辞めるのは本人の意思と委員長の承認があれば良い。
中央に良い感情を持っていないらしい卯月達は、まだ説得してみますと言っていたが、幹春としても、嫌々やられるよりも、やる気のある人物が欲しい。
ただでさえ仕事は山盛り、おまけにその中央のせいでどんどん増える始末だ。
「…止めないんですか?」
卯月達が退室した後、2人きりになった風紀委員室で日下部が静かな声で訊いて来た。
言わずとも、震達の事であろう。
「そうだな」
幹春が風紀委員になったのは、前々委員長の強引な勧誘によるものだったが、生来の真面目さでもって仕事も後輩指導もしてきた。
風紀の仕事は学内の規律を守らせる事である訳で、それは一部の生徒からは煙たがられる存在であろう。施行する側が、毅然とした態度でなければならない。
その軸となるべき想いが揺らいでいるのなら、風紀委員の職務に綻びが生まれるし、本人もツライだろう。
だから、と幹春は思う。
「…お前も辞めたかったら、そう言ってくれ」
あの時、1年からずっと同じ風紀委員として、信念を持って職務に当たっていた日下部に、不安が募ったのだ。
しかし日下部は、あの優美で穏やかな美貌を歪ませた。
「…何ですか、それ。
私に風紀副委員長を辞めろと言っているんですか」
「辞めろとは言っていない。辞めたかったら言えと言っただけだ」
「同じ事でしょう。私が辞めたいと言ったら、震達の様に簡単に切り捨てる気なんでしょう!」
激昂され、今度は幹春が眉を顰める。
「切り捨てるって何だ。
お前が震達と同じ様に、あの中央とか言う転校生の言い分が分かると言っていたんだろう」
「そんな事で、貴方は私も切り捨てるんですか」
「だから、切り捨てるって何だ」
なぜ日下部がこうまでも怒るのか分からない。怒りたいのは、幹春の方だ。それは日下部に対してでは無いが。
「そうでしょう。引き留める事も、話し合う事も無く、私が辞めると言えば、それで終わりだと貴方は言う。
貴方はいつもそうだ。2年以上一緒にやって来た私には、欠片も頼る事無く、いつもいつも美化の上総にばかり頼っている」
言外に上総への依存を指摘され、幹春の顔が赤らむ。
唯一の理解者である上総に頼り切っている現状を、幹春だって理解している。しかしそれを人から、しかも仕事上の部下である日下部に指摘されるのは、恥ずかしすぎた。
「ほら、上総の事を少し言われただけで、それですよ」
「く、日下部だって、転校生に言われた事で赤くなってたじゃないか!」
「あれは…っ」
言いかけて、日下部は気まずげに視線を逸らした。
「…やめましょう。少し、頭を冷やしてきます」
そう言って職員室への認可書類を持って行く辺りが、日下部らしくそつがない。
何と声を掛けるべきか考えるも、なぜ日下部が怒ったのかが分からない幹春には言うべき言葉は無かった。
「辞めませんからね」という日下部の声が室内に投げ込まれ、風紀委員室のドアは静かに締まった。
◇◇◇◇◇
「…サッパリ分からん」
あさりと春キャベツの酒蒸しの殻を取りながら、憮然とする幹春の前で、上総は即座にスマホを取り出した。
「たwぎwっwてwきwたwww」
「たきぎ?
何してんだ、上総?」
赤ら顔で高速タイプをする上総を、幹春は訳が分からず眺めた。
上総のラ〇ンの送り相手は、本日同盟を組んだ相手。今は特別階の食堂で食事をしているだろう右佐美だったが、即行既読&返信が来た。
『うひょーーーーwww美人風紀副委員長そっちでしたかwww』
『嫉妬乙wwwwww』
『美人の嫉妬おいしいですprpr』
『舌を出す犬のスタンプ』
『舐めすぎwww』
『これ彼女に教えて良い?』
『イイヨ!
萌えは分け合わないとね!』
『ありがとうスタンプ』
『しかし東海林かぁ』
『いや、ミッキーマジでポテンシャル超高いから。
うちのミッキーなめないでね』
『出たーーーモンペ乙―』
『いつか目にモノを見せてやる』
『ミッキー改造計画?超楽しみ。
むしろ俺も乗りたい』
『大歓迎』
『握手スタンプ』
『ラ〇ンばっかしてたらミッキーが寂しそうにこっちを見てる』
『仲間にしますか?』
『もう仲間です』
『そうだったwww』
『じゃあミッキーの手料理食べるのに戻るから』
『そりゃ日下部に嫉妬されるわwww』
『幹春?俺の向かいでメシ食ってるぜ?』
『www刺されない様気を付けてw』
『キリッ顔文字』
「…上総?メシ食わないのか?」
「食べる食べる!」
(はぁ~~~ちょっと不満そうに拗ねてるミッキーまじかわ!!
しかし日下部があの姿のミッキーにとは…なかなか見る目があるじゃないか)
うんうん、と満足そうに頷きながら鰆の西京焼きを摘まむ上総に、愚痴を流されたと思った幹春は更に拗ねた。
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