乙女ゲームを知らない俺が悪役令嬢に転生したらこうなった

八(八月八)

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03.部活…とは?

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 生徒手帳を見る限り、この学園には

 野球部・サッカー部・バレー部・テニス部・陸上部・水泳部・弓道部・剣道部・空手部・馬術部
 文芸部・吹奏楽部・美術部・演劇部・天文部・茶道部・手芸部・外国コミュニケーション部・ボランティア部

 があるらしい。

 数はそんなに多くないけど、俺がいた高校には無かった部活もある。
外国コミュニケーション部とか何だ?英語部の派生か?
 うーん、経験から言うと剣道部・サッカー部・陸上部辺りが得意だしやりたいが、今の俺はお嬢様だからな。サッカー部も男子しかないみたいだし。
お嬢様らしく、なおかつ運動出来て、俺自身も楽しめる部活…………

 となると、これっきゃない!


「あ、彩華様本当に行かれるのですか……?」
 不安そうな千里ちゃんと、困惑顔の瑠璃子ちゃんを従え、俺はうろ覚えながらも迷いのない足で目的地を目指した。
 千里ちゃんの不安は部活動に対するものかなと思うけど、瑠璃子ちゃんの困惑は俺のこの姿にだろう。

 この何とも言えない小豆色な上下ジャージ姿の俺のせいだろう。

 この時代……と言うか、このスタイリッシュで煌びやかなお金持ち学校でなぜ小豆色のジャージ。後で聞いたところによると、お金持ち生徒は皆体育の時は自前のブランドジャージで参加するらしい。
 今日は体育が無かった俺達は持ち合わせておらず、ロッカーに放置されていた新品のイモジャーを見つけて着た訳だが。
二人には断固拒否され、俺のみの着用となっている。
 でもお金持ち学校のジャージだけあって、伸縮性抜群で着心地は良いんだけどな。
学校で着ないなら部屋着にしようかな。

 辺りが開けてきて、柵が見えて、俺は目的地に着いた事を把握した。
「おお~~」
 思わず歓声が漏れる。
 学校の敷地内だというのに広がる広大な広場にではなく、並ぶ立派な馬たちにだ。
 
つやつやな毛並みをした立派な馬達が、侵入者である俺に注目している。
 思えば本物の馬を間近で見るのは、父親が生きている頃に、まだ歩き始めの妹と両親と一緒に牧場に行った時以来かもしれない。
 馬術部なんて、なかなか普通の高校には無い部活だもんな。
これは体験するしかないだろう!

「何をしている」

 本物の馬に興奮して近付いたら、後ろから鋭い声を掛けられた。

 振り返るとそこには、立派な白馬がいた。

「何をしていると聞いている。勝手に馬に触るな」
 綺麗な白馬に目を奪われていると、更に上から再び声が降りかかる。

 見上げると、陽の光と共にキラキラ輝く白金の髪の毛。
逆光で顔が見えにくいが、乗馬服に身を包んだ男が馬上からこちらを見下ろしていた。

「一条様!」
 馬から離れた場所から動かなかった千里ちゃんから上がった声で、馬上の男が一条という名である事を知る。
 一条……一条?
どこかで聞いた事がある名前だな。

「馬達に何か仕掛けでもしていたのか?残念だが、鹿乃は今日馬術部には来ないぞ」
 え、ヒロインちゃん馬術部なの?
「一条様、婚約者である彩華様に対して、その言い草は無いんではありませんこと?」
 千里ちゃんと同じく馬の傍には決して来なかった瑠璃子ちゃんが一歩踏み出し、キツい声色で馬上の男に反論した。

 婚約者…………あー!
説明書に書いてたな、婚約者いるって!
 えーと、下の名前何だっけ?
何か王様みたいな名前……王……違う、皇……皇……皇紀だ!

「ふん、婚約者と言っても親が決めただけだ。
 お前のようなプライドだけの高慢な女となんて……」
 そう言って皇紀は俺を改めて見下ろし、言葉を止めた。

「……お前、何だその恰好は」

「ジャージです」

 胸を張って答えたら、太陽に雲がかかり、逆光で見えなかった婚約者の顰め面がハッキリと見えた。
 キリッとした整った眉に、少しツリ目気味のくっきりとした二重の目。スっと通った鼻筋は文句なしのイケメンであった。
 こんなイケメンの婚約者がいるとは、彩華も隅には置けないな。
 あ、でも親同士が決めただけなのか。お金持ちは大変だな。
 しかし彼氏通り越して婚約者か……。
どう接したらいいか分からないな……と思ったけど、婚約者の目は愛しい相手を見る様なものではなかった。

「何で学校指定のジャージなんか着て、馬術部ここに来ているんだ」
 見ての通りだと思うが。
 ジャージ着て運動部に来るんだぞ?

「体験入部希望です!」

 それ以外何があるってんだ。
 思いっきり眉を顰められた。

「どういう風の吹き回しだ。いつも動物は臭い、汚いと寄りつきもしなかっただろう」
 あ、彩華って動物嫌いなのか。
 でも俺は好きだし、特にトラウマとかアレルギーとか無いなら慣れだから大丈夫だろ。
「気が変わりました。皇紀様は馬術部の責任者がどなたかご存じですか?馬に乗る許可がほしいのですが」
 さすがに許可なく馬には乗れないだろうと思って聞いたのだが、皇紀は再び変な顔をした。
「責任者は俺だ」
「皇紀様が?」
 生徒なのに?と思ったが、皇紀はこの馬術部の部長で顧問からも権限を一任されているらしい。
 一生徒に権限を渡すって何かあった時拙くないか?と思ったが、生徒の自主性を伸ばす為なのかゲームだからなのか、これが普通らしい。
瑠璃子ちゃんと千里ちゃんも当然といった顔をして聞いている。

「そうなんですか。
じゃあ皇紀様、馬に乗らせてください!」
「…………本気か?」
 こちらを窺う様な視線を向ける皇紀に笑顔で頷いて見せるが、懐疑的な視線は拭えなかった。
「………好きにしたら良い。
 ただし、誰の力も借りず一人でやれ」
「そんな……っ!」
 皇紀の冷たい物言いに、千里ちゃんが顔を青くした。
 確かに、牧場の乗馬体験でも補助の人が馬を宥め、乗せてくれ、歩かせてくれた。
 そもそも馬上は結構高いのだ。
普通の女子高生なら台無しでは乗れないであろう。しかし

「良いの!?やったぁ!」
 俺は唖然とする面々を放って、喜び勇んで馬へと駆け寄る。
 馬を見て歩き、俺としっかり目を合わせてくれた栗毛色の馬に近寄る。

「乗せてくれる?」
 尋ねると、馬は変わらず俺をジッと見つめたのでそっと首の横を撫でる。
馬は気持ち良さそうに目を細めた。
 いざと鞍から馬に繋がっている紐に手を掛け、足を置く場所……何て言うんだ?に左足を掛け、地面を蹴った。
 ひらりと体が浮いて、無事鞍の上に座れた。
 10年以上前の記憶しかないからあれだけど、馬上はやっぱり高かった。
でも剣道をやっていたおかげで体幹には自信はあったので、安定感はあり、風が気持ち良かった。
 同じ目線にいる皇紀が、ぽかんと口を開けてこちらを見ている。
「歩かせて良いですか?」
「あ……ああ……」

 歩いて、と手綱を引っ張ると、馬は大人しく歩いてくれた。
振動はあるが気持ち悪いものではない。
 俺も馬も楽しくなってきて、段々と早足になり、最後には完全に広場を走り回った。


「また来ますね!
 次は瑠璃子様と千里様も体験させてください」

 ひとしきり乗馬を楽しんだ後、他の部員も集まってきて遠巻きにしているので、部活の邪魔にならない様に早々に退散する事にした。
今回はアポなしで来たしな。

 次の時は瑠璃子ちゃんも千里ちゃんもちゃんとジャージを持って来てるはずだから、一緒に出来るはずだ。
女の子がスカートで乗馬する訳にはいかないからな。
 あと実際乗馬をしてみて思ったのは、やっぱり体幹が大事だという事。
 俺は経験で姿勢を保てたが、お嬢様の彩華の体の腹筋や太ももが苦痛を訴えている。
 となるとやはり、基礎体力をつける所から始めねばならまい。
 まずは体力作りと筋肉作り。
もちろん、瑠璃子ちゃんと千里ちゃんも一緒にね!
皆で汗を流せば、イジメしようなんて考えも吹き飛ぶはずだ!




「きゃあっ!お、お嬢様、何をなさっているんですか!?」
 部屋にノックをして入ってきたメイドさん……観月さんというらしい……が俺の姿を見て悲鳴を上げた。

「筋トレです!」
 キャミソールに短パン姿で腹筋から起き上がった俺は、観月さんに笑顔で答えた。

 乗馬体験をして送迎車で家に帰ってから夕食時はまた一人だった。
 まだ見ぬ弟は生徒会に入っているとかで遅くなるらしい。
部活もやってて生徒会もやってるなんて、立派な弟だ。
 夕食も素晴らしかったのだが、どういう訳だか食欲があまり沸かずに出された半分くらいしか食べられずにコックさん達に謝る事となった。
自覚は無いけどまだこの生活に慣れずに緊張しているのかもしれない。

 夕食後クローゼットを漁るもジャージは見つからなかったので、仕方なく下着の上に着るらしきキャミソールと裾がヒラヒラした短パンを運動用とした。
 部活で運動するにしても、それを率先してやるには彩華の体は筋肉も体力も無さすぎる事が今日判明したので、体作りを家でもする事にした。
 汗をかいても自室に追い炊き機能付きのお風呂ついていて、ガス代も電気代も気にしなくて良いんだから捗るってもんだ!

 でも運動着は考えないとな。
 明日学校の帰りにでもスポーツショップにでも寄ってもらおう。
 いや、俺は激安衣料品店でも良いんだけど、何せ今お嬢様だし、送迎車の運転手さんにしま〇ら行ってとは言えないよな。

 そんな訳で、俺の悪役令嬢生活初日は、良い汗かいてお風呂入って清々しい気分で幕を閉じた。


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