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幼少期
フラウ夫人からの贈り物です。
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宣言通りに更新することができてほっとしました…。
—————————————
まあそれはそれとして、ちょっと言いたいことがある。
もう、色々起こりすぎて頭の中えらいことになってるからさ、一回ガス抜きしておかないといい加減パンクしちゃうと思うんだよね。
一人になってから静かに整理するには、ちょっとぐるぐる考えすぎた。
これはもう今すぐ発散しないとダメだよね、うん。
端的に言えば、もう限界!!ってことだ。
(……うあーーーーっ!!!もーーーーーーっ!!!)
前世ただのそこら辺にいるふっつーーーの女子高生なんだよ、私!?
…いやちょっと、女子校でもないのに女子校の王子様的な存在だったって点では普通ではなかったかもしれないけど…。
…と、ともかく!!
(流石にキャパオーバー!キャパオーバーだからっ!!ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!あほぉぉぉぉぉぉ!!!)
想像以上の立場の重さと責任の大きさ、その他もろもろのプレッシャーからちょっとだけ現実逃避するくらいは許されるだろう。
意味もなく何に対してかよく分からない罵倒を思いきり心の中で叫んで溜まったストレスを少々強引に振るい落とした私は、ちょっとすっきりして息をついた。
私の様子をずっと心配そうに見つめていたセイル兄様は、それを見てほっとしたように表情を緩めて放置されていた「問題」に水を向けることにしたらしい。
…自分でやっといて何だけど、今の様子を見て大丈夫だと判断するのはどうかと思うよ、セイル兄様…。
「…話は変わりますが、父上。先程「陽動」と言っていましたが…それなら、影で動いていた者の行動が本命だったということですよね?その者は何をしたのですか?もしかして、フラウ夫人の言っていた贈り物と何か関係が…?」
あーそうだった、その問題が残ってたよね。
侵入者の本当の目的、それからフラウ夫人の言っていた「贈り物」とは何だったのか。
ただ、さっきとは違ってお父様の雰囲気が張り詰めたものではなく、なんていうか…困惑と呆れと複雑さとが混ざったみたいな感じなのが気にかかる。
…まあ表情は全く変わってないから私の気のせいかもしれないけど。
「…そのことだが、陰で動いていた者が残していったのであろうと思われる物がこの部屋の執務机の上に置かれていた。…これだ」
そう言って、お父様は美しい銀細工の箱を私たちの目の前にある机の上に置いた。
その箱をセイル兄様と二人で開けて中を覗き込むと、そこにあったのは…。
「…こ、れ…薔薇、ですか…?」
茎の折れた、恐らく元は白色だったであろう血に濡れた薔薇が、一輪。
白、と断言できないのは、その花弁が血に染まり、紅色にも赤黒色にも見え、ところどころからしか元の白色を窺い知ることができないからである。
薔薇の香りと血の錆臭い臭いが混じり、何とも言えない臭いとなって漂ってくる。
美しい銀細工の箱の中には他に何も入っておらず、ただその一輪の薔薇だけが禍々しく異彩を放っていた。
「…どういう意味、なのでしょうか」
血に濡れた薔薇、ということで異様さと不気味さを感じるものの、私には意味が分からず首を傾げる。
けれど、植物が好きでその知識量が植物博士と言っても過言ではないほど豊富なセイル兄様は、その意味を正確に読み解いてしまったためか、顔色も悪く眩暈をこらえるような顔をしていた。
そんなセイル兄様に聞くのは若干気が引けたものの、気になるのでこの薔薇の意味を聞いてみる。
すると兄様は慄くように薔薇を見やり、青ざめながら答えてくれた。
「…これは多分、複数の意味が掛けられているんだ。まず、一輪の薔薇ということでは、その意味は『一目惚れ』。これは良いとして、その次…元の白色の意味は『純潔』だけど、それが血で染められているから紅色で『死ぬほど恋焦がれています』、血が黒っぽくなって赤黒色で『死ぬまで恨みます』や『憎悪』、黒で『貴方はあくまで私のもの』『決して滅びることの無い愛』という意味がある。…それと、“折れた白薔薇”は…」
そこで一度口を噤んだセイル兄様は、残りの言葉を言いたくなさそうにしながらも、一息で言い切った。
「“折れた白薔薇”は、『死を望む』という意味を持つんだ」
「………」
…もう、何を言ったらいいのか分からない。
けれど、この一輪の薔薇に込められた想いがどれだけ深く重く複雑なものなのかはよーく分かった。
想いというより、これはもはや異常なまでの執着だ。
それにしたって、なんて恐ろしいんだろうか。
メッセージカードすら添えられずただこの薔薇一輪だけというのが、あっさりしているようで逆に粘着質な執着を感じさせるのは何故だろうか。
なんかこう…なんか、こう…!怖い!!
ひたすらに怖いんですけど!?
でも多分贈り物ってのはこのことで間違いないんだろう。
もっと公爵家の危機にそのまま繋がるようなものだったり、誰かが酷い目にあうようなものを想像していたから、それに比べればかわいらしい悪戯と言えないこともないような気がしなくもない。
…いやでも、不気味さはこっちの方が格段に上だよなぁ…。
「…正直、花言葉をこんな風に使われるのは不愉快だし嫌なんだけれどね。でも、この花からは…憎悪と執着、おぞましい程の激情が渦巻く中に、どうしようもないほどの悲哀も感じるんだ。アインもそう言ってる。これに込められた想いは、複雑すぎる……」
「………」
「…そうか」
私が薔薇に込められた執念に何も言えず涙目で慄いていると、お父様が一言そう言って私たちの目から遮るように静かに箱の蓋を閉じ、執務机の引き出しの中にしまい込んだ。
そのまま何を言うでもなく時計に目をやったお父様は「…もうこんな時間か」と言う。
部屋の外で待機していたクラハ達を呼び、私たちに部屋へ戻るよう促して、自分は机に向かった。
そんなお父様に私たちは何も言えず、素直にお父様の執務室を退室したのだった。
————————————
(それにしても、今日は本当に、本っっっっ当に、疲れた……!!)
自室に戻り、お風呂やら歯磨きやら一通りのことを済ませて寝室に入った瞬間、ベッドに倒れこむようにして寝転がる。
今日は色々ありすぎて…。
疲れた、もー無理、もー限界!!
ベッドに入って間もなく、睡魔が襲ってくるのに任せてとろとろと意識が遠くなっていく。
あー、ベッドがふかふかで癒されるぅ~…。
今日一日で溜まりに溜まった疲れがすぅっと溶けて消えていくような感じがする。
やっと休めると体の力を抜き、本格的な眠りに入る前の心地いい微睡に身を任せようとした次の瞬間、ハイルの声が私の名を呼んだ。
…うぅ~…今日はもう勘弁してぇ…。
『ティカ、ちょっといい?あの薔薇のことなんだけど』
けれど無視なんてできようはずもなく、仕方なしに私は返事をすることにした。
『…なあに、ハイル。明日じゃダメ…?』
『ごめんね、疲れてるのは分かってるんだけど、今言っておいた方がいいと思って。あの薔薇からは何か…嫌な気配がしたから』
『…嫌な気配って…?』
『…混沌の気配がしたんだ』
『混沌の気配…?ん~…?確かにあの薔薇からは混沌としたものを感じたけど~…。まあ警戒しておくことにするよ、ありがと…はい…る…』
『…うん。おやすみ、ティカ』
ハイルのその言葉を最後まで聞くことなく、私は朦朧としていた意識を完全に手放した。
…この時にこの話の重要性に気が付いていれば、あるいは事態はあそこまで悪化することはなかったのかもしれない。
眠気に負けてハイルの言葉をろくに取り合わなかったことを心底後悔する羽目になるのは、まだまだずっと先のお話。
今はまだ、誘われるままに心地よい眠りにつく私を阻むものは、何もない。
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まあそれはそれとして、ちょっと言いたいことがある。
もう、色々起こりすぎて頭の中えらいことになってるからさ、一回ガス抜きしておかないといい加減パンクしちゃうと思うんだよね。
一人になってから静かに整理するには、ちょっとぐるぐる考えすぎた。
これはもう今すぐ発散しないとダメだよね、うん。
端的に言えば、もう限界!!ってことだ。
(……うあーーーーっ!!!もーーーーーーっ!!!)
前世ただのそこら辺にいるふっつーーーの女子高生なんだよ、私!?
…いやちょっと、女子校でもないのに女子校の王子様的な存在だったって点では普通ではなかったかもしれないけど…。
…と、ともかく!!
(流石にキャパオーバー!キャパオーバーだからっ!!ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!あほぉぉぉぉぉぉ!!!)
想像以上の立場の重さと責任の大きさ、その他もろもろのプレッシャーからちょっとだけ現実逃避するくらいは許されるだろう。
意味もなく何に対してかよく分からない罵倒を思いきり心の中で叫んで溜まったストレスを少々強引に振るい落とした私は、ちょっとすっきりして息をついた。
私の様子をずっと心配そうに見つめていたセイル兄様は、それを見てほっとしたように表情を緩めて放置されていた「問題」に水を向けることにしたらしい。
…自分でやっといて何だけど、今の様子を見て大丈夫だと判断するのはどうかと思うよ、セイル兄様…。
「…話は変わりますが、父上。先程「陽動」と言っていましたが…それなら、影で動いていた者の行動が本命だったということですよね?その者は何をしたのですか?もしかして、フラウ夫人の言っていた贈り物と何か関係が…?」
あーそうだった、その問題が残ってたよね。
侵入者の本当の目的、それからフラウ夫人の言っていた「贈り物」とは何だったのか。
ただ、さっきとは違ってお父様の雰囲気が張り詰めたものではなく、なんていうか…困惑と呆れと複雑さとが混ざったみたいな感じなのが気にかかる。
…まあ表情は全く変わってないから私の気のせいかもしれないけど。
「…そのことだが、陰で動いていた者が残していったのであろうと思われる物がこの部屋の執務机の上に置かれていた。…これだ」
そう言って、お父様は美しい銀細工の箱を私たちの目の前にある机の上に置いた。
その箱をセイル兄様と二人で開けて中を覗き込むと、そこにあったのは…。
「…こ、れ…薔薇、ですか…?」
茎の折れた、恐らく元は白色だったであろう血に濡れた薔薇が、一輪。
白、と断言できないのは、その花弁が血に染まり、紅色にも赤黒色にも見え、ところどころからしか元の白色を窺い知ることができないからである。
薔薇の香りと血の錆臭い臭いが混じり、何とも言えない臭いとなって漂ってくる。
美しい銀細工の箱の中には他に何も入っておらず、ただその一輪の薔薇だけが禍々しく異彩を放っていた。
「…どういう意味、なのでしょうか」
血に濡れた薔薇、ということで異様さと不気味さを感じるものの、私には意味が分からず首を傾げる。
けれど、植物が好きでその知識量が植物博士と言っても過言ではないほど豊富なセイル兄様は、その意味を正確に読み解いてしまったためか、顔色も悪く眩暈をこらえるような顔をしていた。
そんなセイル兄様に聞くのは若干気が引けたものの、気になるのでこの薔薇の意味を聞いてみる。
すると兄様は慄くように薔薇を見やり、青ざめながら答えてくれた。
「…これは多分、複数の意味が掛けられているんだ。まず、一輪の薔薇ということでは、その意味は『一目惚れ』。これは良いとして、その次…元の白色の意味は『純潔』だけど、それが血で染められているから紅色で『死ぬほど恋焦がれています』、血が黒っぽくなって赤黒色で『死ぬまで恨みます』や『憎悪』、黒で『貴方はあくまで私のもの』『決して滅びることの無い愛』という意味がある。…それと、“折れた白薔薇”は…」
そこで一度口を噤んだセイル兄様は、残りの言葉を言いたくなさそうにしながらも、一息で言い切った。
「“折れた白薔薇”は、『死を望む』という意味を持つんだ」
「………」
…もう、何を言ったらいいのか分からない。
けれど、この一輪の薔薇に込められた想いがどれだけ深く重く複雑なものなのかはよーく分かった。
想いというより、これはもはや異常なまでの執着だ。
それにしたって、なんて恐ろしいんだろうか。
メッセージカードすら添えられずただこの薔薇一輪だけというのが、あっさりしているようで逆に粘着質な執着を感じさせるのは何故だろうか。
なんかこう…なんか、こう…!怖い!!
ひたすらに怖いんですけど!?
でも多分贈り物ってのはこのことで間違いないんだろう。
もっと公爵家の危機にそのまま繋がるようなものだったり、誰かが酷い目にあうようなものを想像していたから、それに比べればかわいらしい悪戯と言えないこともないような気がしなくもない。
…いやでも、不気味さはこっちの方が格段に上だよなぁ…。
「…正直、花言葉をこんな風に使われるのは不愉快だし嫌なんだけれどね。でも、この花からは…憎悪と執着、おぞましい程の激情が渦巻く中に、どうしようもないほどの悲哀も感じるんだ。アインもそう言ってる。これに込められた想いは、複雑すぎる……」
「………」
「…そうか」
私が薔薇に込められた執念に何も言えず涙目で慄いていると、お父様が一言そう言って私たちの目から遮るように静かに箱の蓋を閉じ、執務机の引き出しの中にしまい込んだ。
そのまま何を言うでもなく時計に目をやったお父様は「…もうこんな時間か」と言う。
部屋の外で待機していたクラハ達を呼び、私たちに部屋へ戻るよう促して、自分は机に向かった。
そんなお父様に私たちは何も言えず、素直にお父様の執務室を退室したのだった。
————————————
(それにしても、今日は本当に、本っっっっ当に、疲れた……!!)
自室に戻り、お風呂やら歯磨きやら一通りのことを済ませて寝室に入った瞬間、ベッドに倒れこむようにして寝転がる。
今日は色々ありすぎて…。
疲れた、もー無理、もー限界!!
ベッドに入って間もなく、睡魔が襲ってくるのに任せてとろとろと意識が遠くなっていく。
あー、ベッドがふかふかで癒されるぅ~…。
今日一日で溜まりに溜まった疲れがすぅっと溶けて消えていくような感じがする。
やっと休めると体の力を抜き、本格的な眠りに入る前の心地いい微睡に身を任せようとした次の瞬間、ハイルの声が私の名を呼んだ。
…うぅ~…今日はもう勘弁してぇ…。
『ティカ、ちょっといい?あの薔薇のことなんだけど』
けれど無視なんてできようはずもなく、仕方なしに私は返事をすることにした。
『…なあに、ハイル。明日じゃダメ…?』
『ごめんね、疲れてるのは分かってるんだけど、今言っておいた方がいいと思って。あの薔薇からは何か…嫌な気配がしたから』
『…嫌な気配って…?』
『…混沌の気配がしたんだ』
『混沌の気配…?ん~…?確かにあの薔薇からは混沌としたものを感じたけど~…。まあ警戒しておくことにするよ、ありがと…はい…る…』
『…うん。おやすみ、ティカ』
ハイルのその言葉を最後まで聞くことなく、私は朦朧としていた意識を完全に手放した。
…この時にこの話の重要性に気が付いていれば、あるいは事態はあそこまで悪化することはなかったのかもしれない。
眠気に負けてハイルの言葉をろくに取り合わなかったことを心底後悔する羽目になるのは、まだまだずっと先のお話。
今はまだ、誘われるままに心地よい眠りにつく私を阻むものは、何もない。
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