上 下
62 / 66
幼少期

フラウ夫人からの贈り物です。

しおりを挟む
宣言通りに更新することができてほっとしました…。

—————————————

まあそれはそれとして、ちょっと言いたいことがある。
もう、色々起こりすぎて頭の中えらいことになってるからさ、一回ガス抜きしておかないといい加減パンクしちゃうと思うんだよね。
一人になってから静かに整理するには、ちょっとぐるぐる考えすぎた。
これはもう今すぐ発散しないとダメだよね、うん。
端的に言えば、もう限界!!ってことだ。

(……うあーーーーっ!!!もーーーーーーっ!!!)

前世ただのそこら辺にいるふっつーーーの女子高生なんだよ、私!?
…いやちょっと、女子校でもないのに女子校の王子様的な存在だったって点では普通ではなかったかもしれないけど…。
…と、ともかく!!

(流石にキャパオーバー!キャパオーバーだからっ!!ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!あほぉぉぉぉぉぉ!!!)

想像以上の立場の重さと責任の大きさ、その他もろもろのプレッシャーからちょっとだけ現実逃避するくらいは許されるだろう。
意味もなく何に対してかよく分からない罵倒を思いきり心の中で叫んで溜まったストレスを少々強引に振るい落とした私は、ちょっとすっきりして息をついた。
私の様子をずっと心配そうに見つめていたセイル兄様は、それを見てほっとしたように表情を緩めて放置されていた「問題」に水を向けることにしたらしい。
…自分でやっといて何だけど、今の様子を見て大丈夫だと判断するのはどうかと思うよ、セイル兄様…。

「…話は変わりますが、父上。先程「陽動」と言っていましたが…それなら、影で動いていた者の行動が本命だったということですよね?その者は何をしたのですか?もしかして、フラウ夫人の言っていた贈り物プレゼントと何か関係が…?」

あーそうだった、その問題が残ってたよね。
侵入者の本当の目的、それからフラウ夫人の言っていた「贈り物プレゼント」とは何だったのか。
ただ、さっきとは違ってお父様の雰囲気が張り詰めたものではなく、なんていうか…困惑と呆れと複雑さとが混ざったみたいな感じなのが気にかかる。
…まあ表情は全く変わってないから私の気のせいかもしれないけど。

「…そのことだが、陰で動いていた者が残していったのであろうと思われる物がこの部屋の執務机の上に置かれていた。…これだ」

そう言って、お父様は美しい銀細工の箱を私たちの目の前にある机の上に置いた。
その箱をセイル兄様と二人で開けて中を覗き込むと、そこにあったのは…。

「…こ、れ…薔薇、ですか…?」

茎の折れた、恐らく元は白色だったであろう血に濡れた薔薇が、一輪。
白、と断言できないのは、その花弁が血に染まり、あか色にも赤黒色にも見え、ところどころからしか元の白色を窺い知ることができないからである。
薔薇の香りと血の錆臭い臭いが混じり、何とも言えない臭いとなって漂ってくる。
美しい銀細工の箱の中には他に何も入っておらず、ただその一輪の薔薇だけが禍々しく異彩を放っていた。

「…どういう意味、なのでしょうか」

血に濡れた薔薇、ということで異様さと不気味さを感じるものの、私には意味が分からず首を傾げる。
けれど、植物が好きでその知識量が植物博士と言っても過言ではないほど豊富なセイル兄様は、その意味を正確に読み解いてしまったためか、顔色も悪く眩暈をこらえるような顔をしていた。
そんなセイル兄様に聞くのは若干気が引けたものの、気になるのでこの薔薇の意味を聞いてみる。
すると兄様は慄くように薔薇を見やり、青ざめながら答えてくれた。

「…これは多分、複数の意味が掛けられているんだ。まず、一輪の薔薇ということでは、その意味は『一目惚れ』。これは良いとして、その次…元の白色の意味は『純潔』だけど、それが血で染められているからあか色で『死ぬほど恋焦がれています』、血が黒っぽくなって赤黒色で『死ぬまで恨みます』や『憎悪』、黒で『貴方はあくまで私のもの』『決して滅びることの無い愛』という意味がある。…それと、“折れた白薔薇”は…」

そこで一度口を噤んだセイル兄様は、残りの言葉を言いたくなさそうにしながらも、一息で言い切った。

「“折れた白薔薇”は、『死を望む』という意味を持つんだ」

「………」

…もう、何を言ったらいいのか分からない。
けれど、この一輪の薔薇に込められた想いがどれだけ深く重く複雑なものなのかはよーく分かった。
想いというより、これはもはや異常なまでの執着だ。
それにしたって、なんて恐ろしいんだろうか。
メッセージカードすら添えられずただこの薔薇一輪だけというのが、あっさりしているようで逆に粘着質な執着を感じさせるのは何故だろうか。
なんかこう…なんか、こう…!怖い!!
ひたすらに怖いんですけど!?
でも多分贈り物プレゼントってのはこのことで間違いないんだろう。
もっと公爵家の危機にそのまま繋がるようなものだったり、誰かが酷い目にあうようなものを想像していたから、それに比べればかわいらしい悪戯と言えないこともないような気がしなくもない。
…いやでも、不気味さはこっちの方が格段に上だよなぁ…。

「…正直、花言葉をこんな風に使われるのは不愉快だし嫌なんだけれどね。でも、この花からは…憎悪と執着、おぞましい程の激情が渦巻く中に、どうしようもないほどの悲哀も感じるんだ。アインもそう言ってる。これに込められた想いは、複雑すぎる……」

「………」

「…そうか」

私が薔薇に込められた執念に何も言えず涙目で慄いていると、お父様が一言そう言って私たちの目から遮るように静かに箱の蓋を閉じ、執務机の引き出しの中にしまい込んだ。
そのまま何を言うでもなく時計に目をやったお父様は「…もうこんな時間か」と言う。
部屋の外で待機していたクラハ達を呼び、私たちに部屋へ戻るよう促して、自分は机に向かった。
そんなお父様に私たちは何も言えず、素直にお父様の執務室を退室したのだった。


————————————


(それにしても、今日は本当に、本っっっっ当に、疲れた……!!)

自室に戻り、お風呂やら歯磨きやら一通りのことを済ませて寝室に入った瞬間、ベッドに倒れこむようにして寝転がる。
今日は色々ありすぎて…。
疲れた、もー無理、もー限界!!
ベッドに入って間もなく、睡魔が襲ってくるのに任せてとろとろと意識が遠くなっていく。
あー、ベッドがふかふかで癒されるぅ~…。
今日一日で溜まりに溜まった疲れがすぅっと溶けて消えていくような感じがする。
やっと休めると体の力を抜き、本格的な眠りに入る前の心地いい微睡に身を任せようとした次の瞬間、ハイルの声が私の名を呼んだ。
…うぅ~…今日はもう勘弁してぇ…。

『ティカ、ちょっといい?あの薔薇のことなんだけど』

けれど無視なんてできようはずもなく、仕方なしに私は返事をすることにした。

『…なあに、ハイル。明日じゃダメ…?』

『ごめんね、疲れてるのは分かってるんだけど、今言っておいた方がいいと思って。あの薔薇からは何か…嫌な気配がしたから』

『…嫌な気配って…?』

『…混沌の気配がしたんだ』

『混沌の気配…?ん~…?確かにあの薔薇からは混沌としたものを感じたけど~…。まあ警戒しておくことにするよ、ありがと…はい…る…』

『…うん。おやすみ、ティカ』

ハイルのその言葉を最後まで聞くことなく、私は朦朧としていた意識を完全に手放した。
…この時にこの話の重要性に気が付いていれば、あるいは事態はあそこまで悪化することはなかったのかもしれない。
眠気に負けてハイルの言葉をろくに取り合わなかったことを心底後悔する羽目になるのは、まだまだずっと先のお話。
今はまだ、誘われるままに心地よい眠りにつく私を阻むものは、何もない。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆

白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』 女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。 それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、 愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ! 彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます! 異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆  《完結しました》

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

分厚いメガネを外した令嬢は美人?

しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。 学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。 そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。 しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。 会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった? この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。 一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...