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幼少期
ご対面です。
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お待たせ致しました。
2月は忙しくて全く活動できず…申し訳ないです(T ^ T)
久々ですが、お楽しみいただければと思います。
———————————————
貴婦人の『挨拶』に、お父様は何と応えるのかと思いながらちらりと横を見る。
するとそこには、何故か常では考えられないほど眩しい笑みを顔に浮かべているお父様がいた。
…えっ、何この笑顔?!
私たちでも見たことないような笑顔なんですけど…!
私が唖然としていると、お父様が口を開く。
「歓迎しよう。そちらへ」
…ブリザードや殺人光線が出ないのは、仮にも歓迎の場なのでまあ分かるとしても、いつもの無表情はおろか眉を顰めることすらない。
お父様の感情と表情が一致しないという特徴からして、もしかしたらこれはお父様がかなりのストレスを感じている…ということになるのではないだろうか。
その証拠に、今の笑顔からは温かさがまるで感じられず、寧ろ芯から冷えていくような心地すらするのだ。
この笑顔を見ていると、普段私たちに向けられている眼差しがどれだけ優しいのかが分かる。
お父様が椅子を勧めると、貴婦人は椅子の方をちらりと見ただけでお父様に視線を戻した。
「…その前に」
「……?」
何で座らないんだろう?という思いが顔に出てしまっていたからか、ずっとお父様を見ていたはずの貴婦人と一瞬目が合ったような気がした。
…何だろう?
基本的には座ってから少し雑談をして、お茶と菓子に手をつけて、それからやっと本題に入るというのが暗黙の了解なのだけれど…。
これは意図的に無視しているんだろうか。
だとしたら、その意図は何だろう?
そう考えながら見ていると、貴婦人は私たちの疑問の視線を受けてうっそりと微笑みながら言った。
「ご紹介、させてくださいませ。…こちらに」
「はい」
貴婦人が斜め後ろに目配せをすると、小さな人影が前へと出てきた。
そういえば、訪問者は二人だったね。
貴婦人が扉から少し入ったところで止まっていたため、影になって見えていなかったらしい。
出てきたのははっきりとした目鼻立ちの、華やかで美しい少女だ。
つり目がちな瞳の色は翡翠色で、カールのかかった長い髪は混じり気のない真紅。
ツンと顎を上げている所為か、はたまたその堂々とした雰囲気の所為か…何処か高飛車な印象を受ける。
一目見ただけで気が強いことが窺えた。
「わたくしの名はトレーネ・オルド・シュトラーフェですわ。よろしくお願い致します」
そう言って優雅に一礼する姿は、まさしく真紅の薔薇といったところか。
まだまだ幼くはあれど、その言葉がこれ以上似合う女の子はいないだろうと確信できる。
美しい真紅の薔薇が、毒薔薇でないことを願うばかりだ。
ねえちょっと、この子私よりも…『リュート様』よりもよっぽど『悪役』らしいんですけど?!
こんな子ゲームに出てきたっけ?!
なんて思いながら見つめていると、顔を上げたトレーネと視線がかち合った。
「トレーネは、わたくしの自慢の娘ですの。ですから…是非、フィレンツ様やご子息様に紹介させていただきたかったのです」
「…そうか」
「是非」という言葉を強調するように、ゆっくりと喋る貴婦人。
ご子息様にも紹介したかったと言う割に、この人の瞳は変わらずお父様だけを映している。
それに、何故かトレーネも私と視線がかち合ったまま外そうとしない。
あまりに見つめられるので何か言葉を返そうかと思ったけれど、お父様が言葉を返すまで私は発言することも挨拶を返すことも出来ないのだ。
だというのに、やっぱりトレーネが視線を外してくれる気配がないので、困った私は取り敢えず当たり障りの無いよう微笑む。
「………っ!」
「…?」
するとトレーネが驚いたように軽く目を見開き、一拍おいて頰をぱっと薔薇色に染めて惚けたように固まってしまった。
…どうしたんだろう?
「…あらまぁ…」
「………」
いつのまにかこちらを見ていたらしい貴婦人はその様子を見て笑みを深め、お父様は無言になり、何故かセイル兄様からは笑顔のまま非難がましい視線が送られる気配がした。
…え、何この空気。
まさか私今何かやらかした?!
私が笑顔を固まらせたまま焦っていると、お父様が気を取り直して何かを誤魔化すように口を開いた。
「…歓迎しよう、トレーネ嬢。席へ」
「ありがとう存じます、リート公爵様」
再びお父様が席を勧め、今度は二人とも素直に座る。
その様子を見て、正直ほっとした。
…これ以上何か変なことされたら笑顔が崩れそうなんだもん!
「…二人ともよく来てくれた。心より歓迎する。…では、改めて自己紹介を。私はレーツェル公爵家当主、フィレンツ・リート・レーツェル。今後は身内としてシュトラーフェ公爵家とも仲良くしていきたいと思っている。よろしく頼む」
「心より歓迎する」という言葉に若干の棘が含まれているように感じるのは私の気のせいだろうか。
少なくとも本心でないのは確かだけれども。
それに「仲良く」という言葉も、なんだか言葉通りの意味ではないような…。
そんな事を考えつつお父様の自己紹介を聞く。
自己紹介を終えたお父様に視線で次を促され、私は口を開いた。
「私はリューティカ・リート・レーツェル。公爵家次期当主です。至らない点は多くありますが、これからよろしくお願いします」
「私はセイラート・リート・レーツェル。次期当主であるリュートを守り、支えていくという立場にある事を誇りに思っています。これから仲良くなれれば幸いです」
セイル兄様のセリフに「仲良くなれれば…ね」と副音声が聞こえた気が…。
…いや、流石に考えすぎか。
エルクも恙無く挨拶を終え、レーツェル公爵家サイドの自己紹介は終了。
続いてシュトラーフェ公爵家サイドだけれど、娘であるトレーネは先程しているし、挨拶は貴婦人で最後になる。
「…わたくしで最後ですわね。わたくしの名はフラウ・オルド・シュトラーフェ。現シュトラーフェ公爵家当主の娘ですわ。こちらとしましても、仲良くさせていただきたいと思っております。…これから、よろしくお願い致しますね?」
…含みのある言葉、毒がにじみ出る薄い笑み…。
ああ、どうやら私は抗うことのできない波乱の渦に巻き込まれようとしている模様です。
これから一体どうなるんだろうか…と、フラウ夫人の笑みを眺めながら遠い目になる私なのでした。
2月は忙しくて全く活動できず…申し訳ないです(T ^ T)
久々ですが、お楽しみいただければと思います。
———————————————
貴婦人の『挨拶』に、お父様は何と応えるのかと思いながらちらりと横を見る。
するとそこには、何故か常では考えられないほど眩しい笑みを顔に浮かべているお父様がいた。
…えっ、何この笑顔?!
私たちでも見たことないような笑顔なんですけど…!
私が唖然としていると、お父様が口を開く。
「歓迎しよう。そちらへ」
…ブリザードや殺人光線が出ないのは、仮にも歓迎の場なのでまあ分かるとしても、いつもの無表情はおろか眉を顰めることすらない。
お父様の感情と表情が一致しないという特徴からして、もしかしたらこれはお父様がかなりのストレスを感じている…ということになるのではないだろうか。
その証拠に、今の笑顔からは温かさがまるで感じられず、寧ろ芯から冷えていくような心地すらするのだ。
この笑顔を見ていると、普段私たちに向けられている眼差しがどれだけ優しいのかが分かる。
お父様が椅子を勧めると、貴婦人は椅子の方をちらりと見ただけでお父様に視線を戻した。
「…その前に」
「……?」
何で座らないんだろう?という思いが顔に出てしまっていたからか、ずっとお父様を見ていたはずの貴婦人と一瞬目が合ったような気がした。
…何だろう?
基本的には座ってから少し雑談をして、お茶と菓子に手をつけて、それからやっと本題に入るというのが暗黙の了解なのだけれど…。
これは意図的に無視しているんだろうか。
だとしたら、その意図は何だろう?
そう考えながら見ていると、貴婦人は私たちの疑問の視線を受けてうっそりと微笑みながら言った。
「ご紹介、させてくださいませ。…こちらに」
「はい」
貴婦人が斜め後ろに目配せをすると、小さな人影が前へと出てきた。
そういえば、訪問者は二人だったね。
貴婦人が扉から少し入ったところで止まっていたため、影になって見えていなかったらしい。
出てきたのははっきりとした目鼻立ちの、華やかで美しい少女だ。
つり目がちな瞳の色は翡翠色で、カールのかかった長い髪は混じり気のない真紅。
ツンと顎を上げている所為か、はたまたその堂々とした雰囲気の所為か…何処か高飛車な印象を受ける。
一目見ただけで気が強いことが窺えた。
「わたくしの名はトレーネ・オルド・シュトラーフェですわ。よろしくお願い致します」
そう言って優雅に一礼する姿は、まさしく真紅の薔薇といったところか。
まだまだ幼くはあれど、その言葉がこれ以上似合う女の子はいないだろうと確信できる。
美しい真紅の薔薇が、毒薔薇でないことを願うばかりだ。
ねえちょっと、この子私よりも…『リュート様』よりもよっぽど『悪役』らしいんですけど?!
こんな子ゲームに出てきたっけ?!
なんて思いながら見つめていると、顔を上げたトレーネと視線がかち合った。
「トレーネは、わたくしの自慢の娘ですの。ですから…是非、フィレンツ様やご子息様に紹介させていただきたかったのです」
「…そうか」
「是非」という言葉を強調するように、ゆっくりと喋る貴婦人。
ご子息様にも紹介したかったと言う割に、この人の瞳は変わらずお父様だけを映している。
それに、何故かトレーネも私と視線がかち合ったまま外そうとしない。
あまりに見つめられるので何か言葉を返そうかと思ったけれど、お父様が言葉を返すまで私は発言することも挨拶を返すことも出来ないのだ。
だというのに、やっぱりトレーネが視線を外してくれる気配がないので、困った私は取り敢えず当たり障りの無いよう微笑む。
「………っ!」
「…?」
するとトレーネが驚いたように軽く目を見開き、一拍おいて頰をぱっと薔薇色に染めて惚けたように固まってしまった。
…どうしたんだろう?
「…あらまぁ…」
「………」
いつのまにかこちらを見ていたらしい貴婦人はその様子を見て笑みを深め、お父様は無言になり、何故かセイル兄様からは笑顔のまま非難がましい視線が送られる気配がした。
…え、何この空気。
まさか私今何かやらかした?!
私が笑顔を固まらせたまま焦っていると、お父様が気を取り直して何かを誤魔化すように口を開いた。
「…歓迎しよう、トレーネ嬢。席へ」
「ありがとう存じます、リート公爵様」
再びお父様が席を勧め、今度は二人とも素直に座る。
その様子を見て、正直ほっとした。
…これ以上何か変なことされたら笑顔が崩れそうなんだもん!
「…二人ともよく来てくれた。心より歓迎する。…では、改めて自己紹介を。私はレーツェル公爵家当主、フィレンツ・リート・レーツェル。今後は身内としてシュトラーフェ公爵家とも仲良くしていきたいと思っている。よろしく頼む」
「心より歓迎する」という言葉に若干の棘が含まれているように感じるのは私の気のせいだろうか。
少なくとも本心でないのは確かだけれども。
それに「仲良く」という言葉も、なんだか言葉通りの意味ではないような…。
そんな事を考えつつお父様の自己紹介を聞く。
自己紹介を終えたお父様に視線で次を促され、私は口を開いた。
「私はリューティカ・リート・レーツェル。公爵家次期当主です。至らない点は多くありますが、これからよろしくお願いします」
「私はセイラート・リート・レーツェル。次期当主であるリュートを守り、支えていくという立場にある事を誇りに思っています。これから仲良くなれれば幸いです」
セイル兄様のセリフに「仲良くなれれば…ね」と副音声が聞こえた気が…。
…いや、流石に考えすぎか。
エルクも恙無く挨拶を終え、レーツェル公爵家サイドの自己紹介は終了。
続いてシュトラーフェ公爵家サイドだけれど、娘であるトレーネは先程しているし、挨拶は貴婦人で最後になる。
「…わたくしで最後ですわね。わたくしの名はフラウ・オルド・シュトラーフェ。現シュトラーフェ公爵家当主の娘ですわ。こちらとしましても、仲良くさせていただきたいと思っております。…これから、よろしくお願い致しますね?」
…含みのある言葉、毒がにじみ出る薄い笑み…。
ああ、どうやら私は抗うことのできない波乱の渦に巻き込まれようとしている模様です。
これから一体どうなるんだろうか…と、フラウ夫人の笑みを眺めながら遠い目になる私なのでした。
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