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幼少期

ハイルの記憶です。Part2

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私が落ち込みながらも決意している間にも、私の勝手に動く口とお父様の会話は進んでいく。

「…それと、ハイル殿もリュートの方へついていて欲しいのだ。…私よりも、リュートとセイルの守りを強固にしておかねばならぬ」

……なぬ?!
ちょ…いくら落ち込んでてもそれは聞き捨てならないって!
お父様、何言ってるの?
そんなのダメに決まってるから!
私たちよりもお父様の方が危険なことくらい、お父様が一番よく分かってるでしょ?!

「うーん、それはダメだよ。ティカは僕に『今日一日フィレンツについてて欲しい』って言ったんだから」

そーだそーだ!
理由はちょっとずれてるけど、よく言ったハイル、えらいぞ!!
帰ってきたらたくさん褒めてあげるからね!

お父様に危険が迫っていることを知らせてもらえなかったのは私たちの方に落ち度があるから、それはもういい。
だけど、今お父様の守りを薄くするのは断固反対!!

だって、現在私たちの側には守りに特化した地の精霊であるアインや、忠誠心が高く精鋭揃いなレーツェル家の騎士団がついているのだ。
さらに、レーツェル家の周りには高価な魔術具を用いた強力な結界も張ってある。
まさに鉄壁。

これがあるからこそ私たちはお庭なら出られるし(護衛付きだけど)、夜も暗殺者に怯えることなくぐっすり眠ることができるのだ。
まあ、特殊な加工をされたナイフとか矢とかはこの結界をすり抜けられるから、完全に安心ってわけでもないんだけど。

敵に一国を落とせるくらいの兵力とたくさんの武器に特殊な加工を施せる程の財力がなければ、私たちの元に辿り着くことすらできないだろう。
もし辿り着けたとしても、最後に待ち受けるのはアインだ。
アインの守りを突破できる可能性があるのなんて、相当腕が立ち、且つ高位精霊と契約している者くらいのものだ。
そんな者など、そうそう用意できるものではないし、そもそも探し出すことすら困難だろう。

…いや、よく考えてみれば、私もセイル兄様も将来的にその稀少な人材になる予定なんだから、レーツェル家は戦力的にえらいことに…。
…と、とにかく!
例え敵がそんな人材を用意出来ていたとしても、お父様のこの様子じゃ、出かける前に何らかの手を打っていそうだし、ほとんど心配はいらないってこと。
まあ、お父様は微かな可能性も潰しておきたいからこそハイルをこちらに送ろうとしてるんだろうけど。

(それに比べて…)

お父様の守りはお父様の契約精霊である水の中位精霊ミラと数名の護衛騎士のみ。
ミラは中位精霊の中では力が強い方だけれど、やっぱり高位精霊とは圧倒的な力の差がある。
あまり可能性は高くないけれど、敵に高位精霊の使い手がいたらかなりまずいはずだ。
それに、数名いる護衛騎士は全員が精鋭中の精鋭だけれど、数の力で押されればどうなるか分からない。
公爵家の当主を害そうとするんだから、相手だって精鋭を揃えてくるはずだし…。

…以上を踏まえて。
どう考えたって守りを強化した方がいいのはお父様だし、狙われやすいのもお父様でしょ?
今ハイルが必要なのはお父様のはずだ。
お父様はハイルが私の気持ちを汲んで、ここで引く気はないということを悟ったらしく、眉を顰めながらも引き下がることにしたようだ。

「…そうか…ハイル殿がそう言うならば、それはリュートの意思そのものなのだろうな」

「うん。ティカははっきりと言葉にはしなかったけれど、フィレンツに『無事に帰ってきてほしい』って願っていたよ」

………。
私は、出かけて行くお父様の後ろ姿が、どうにも『あの日』のお母様の姿と重なって、とても不安になっていた。
お母様の仇を討つと決めたあの日から、心の奥底で蓋をして考えないようにしていたこと。

敵の魔の手がお母様以外にも伸びてきて、突然私の目の前から連れ去ってしまうかもしれない。
セイル兄様の時のように、もうその罠は仕掛けられているのかもしれない。
大切な人たち…お父様やセイル兄様が、お母様みたいにいつも通り出かけて行って、二度と帰って来ないかもしれない。
考え出したらきりがなかった。

だから、蓋をして見ないふりをしていたのだ。
私自身、今回の嫌な予感を感じ取るまで思い出せなかったほど強く、心の奥の奥で蓋をしていたらしい。
それが、お父様の遠ざかっていく後ろ姿を見て、抑えきれずに飛び出してきてしまった。
そんな不安を解消したくて、お父様を守りたくて、私はハイルをお父様につけることにしたのだけれど…。
それが、ハイルにはしっかり伝わっていたらしい。

「…そうか…」

ハイルから私の想いを聞いたお父様は、何かを押さえ込むように眉を顰めて目を瞑った。
少しの沈黙の後、目を開けて外に視線をやりながら低く一言呟くと、それっきり黙り込んでしまった。
ハイルはしばらく黙ったお父様を見上げて首を傾げていたけれど、特に何を言うでもなく黙っていた。
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