34 / 66
幼少期
ハイルとの繋がりです。
しおりを挟む
『ティカ、聞こえる?』
「…ハイル?」
突然ハイルの声と魔力を感じて、びっくりして辺りを見回しながら返事をする。
けれど、近くにハイルの気配はしない。
空耳かと思い、こちらを訝しげに見ているセイル兄様と料理長に何でもないと伝える。
『ティカ?』
2人が不思議そうにしながら話し合いに戻った直後、またもやハイルの声が聞こえた。
こんなにはっきり聞こえるということは、空耳ではなく実際に聞こえているのだろう。
けれど、周りを見回してもやっぱりハイルの姿はない。
私はその事に軽く混乱したらしく、ハイルはお父様の近くにいるままで声だけを送ってきているのだ、と思い当たるのに数秒かかった。
…そうだ、魔力を乗せないとハイルが遠くにいる時は声が届かないんだっけ。
『ハイル、返事して!』
声に魔力を乗せ、ハイルに再度呼びかけて返事を待つ。
すると、待ち構えていたようにすぐに返事が返ってきた。
『ティカ!良かった、声が届いたんだね。返事がないから心配したよ』
『ごめんね、すぐに返事できなくて。それでハイル、どうしたの?もしかして、お父様に何か…』
ハイルの声からはそういう焦燥も緊迫も感じられないから大丈夫だとは思うけど…。
でも、万が一ということもある。
そう思って、恐る恐るハイルに尋ねると、あっけらかんとした明るい声が返ってきた。
『違うよ。僕はずっとフィレンツのそばにいるけど、今のところは何もないから安心してって伝えようと思っただけだよ』
どうやら、ハイルは私を安心させようと安全報告をしてくれたらしい。
ハイルの声が聞こえた瞬間から無意識のうちに緊張して強張っていた体から力が抜けるのが分かる。
それにしても、何もないのか…。
やっぱり、あの不安感は私の勘違いだったのかな。
それなら嬉しいんだけど。
『そっか。良かっ…』
『……!ティカ、安心するのは早かったみたいだ』
私が安心しかけた次の瞬間、ハイルの声が一気に緊張感を帯びた。
その声に、嫌な予感しかしない。
『…ハイル?どうしたの?!』
『ティカなら僕と感覚を繋げて僕が見てる景色を見られるはずだ。僕との繋がりを強く意識してみて!』
繋がりを強く意識する…って、どうすればいいの?!
どうせならもっと細かく詳しく教えてよハイル!!
早くしないと、手遅れになるかもしれないのに!
…って、そんな文句言ってないで早く考えないと!
(ハイル…ハイルとの繋がり…!)
一生懸命考えているけれど、焦りが邪魔をして一向に考えがまとまらない。
…どうしよう、このままじゃ…!
最悪の結末が脳裏をちらついて、焦れば焦るほど考えはまとまらなくなっていく。
焦燥と自身への不甲斐なさから涙目になりながらもどうにか集中しようと努力していると、不意に私の両頬がふわりと包まれた。
「…リュート、落ち着いて。大丈夫だから」
「セイル兄様…」
セイル兄様は安心させるようにしっかりと私の目を見て、静かに語りかけてくる。
ハイルの声が届いていないセイル兄様は、私の様子を見ても状況が分からなくて不安なはずなのに。
でも、セイル兄様の冷静な声を聞いて、少しだけ平静に戻れた気がする。
…落ち着かなきゃ。
頰に触れているセイル兄様の手の温かさを感じながら、ゆっくりと深呼吸をする。
「……もう大丈夫です、セイル兄様」
「…うん。さっきより落ち着いたね」
私の顔を見て落ち着いたことを確認し、柔らかく笑ったセイル兄様を見て、私も少し笑う。
やっぱりセイル兄様には敵わないなぁ。
…さて、落ち着いたんだから考えないと。
一応深呼吸をしている間にいくつかやり方候補が浮かんではいる。
一番出来る可能性の高そうなやつからやってみよう。
「セイル兄様、後で事情を説明するので、今は見守っていてください」
「うん、分かった。ゆっくりでいいからね」
そう言いながら、セイル兄様の手が私の頭をさらりと一撫でして離れていった。
それに少し名残惜しさを感じつつ、私は考えに集中する。
…以前、クラハから契約者と契約精霊とはどんなに遠くにいても細く伸びる魔力で繋がっているのだ、と聞いた覚えがある。
イメージとしては赤外線や光ファイバーのような、ごくごく細い光の糸で繋がっている、という感じだ。
…それなら、声に魔力を乗せて遠くにいるハイルに声を届ける感覚を応用して、いつもはあまり意識していないハイルとの魔力的な繋がりをきちんと意識してみたら、いけるんじゃないだろうか。
(…まぁ理屈は後でいいや、とにかくやらないと!)
考えを中断し、意識を集中して自分の魔力の流れを感じる。
そこから細く遠くに伸びていっている魔力を探し出し、慎重に辿っていく。
…やってみて分かったけど、これ、めちゃめちゃ集中力と精神力が必要な作業だな。
集中力がないと、こんな細い魔力の繋がりを辿っていくなんて出来ないし、精神力がないと、耐えきれなくなって途中で一気に意識が自分の所に戻ってくる。
地味だけど結構きつい。
(ハイル、届いて…!)
いつのまにか額から玉のような汗が滴ってきていた事にも気がつかず、私はハイルに呼びかける。
きっとあと少しで届くはずだと信じて、何度も何度もハイルを呼んでいると、微かに声が聞こえた気がした。
(ハイル…?聞こえてるの?返事して!)
(……カ……ィカ……)
今度は確実に聞こえた。
もう少しでハイルに届くはずだ。
お父様に何が起こっているのかも、ハイルに繋がれば分かるはず…!
(ーーーーハイル!!)
繋がりそうで繋がらないもどかしさから、一際強くハイルを呼んだ瞬間、今まであった薄い膜が破れたような、不思議な感覚があった。
ハイルの存在がより深く感じられ、私とハイルの感覚が繋がったとはっきり分かる、そんな感覚。
今までよりもずっとずっと絆が深くなった気がする。
そんな感慨に浸っていると、ハイルの声が聞こえてきた。
(…ティカ!良かった、繋がった!今から僕の記憶を見せる。視覚とか聴覚とかも全て繋がるから!)
分かったと返すより早く、ハイルから記憶が流れ込んでくる。
視界が光で白く塗りつぶされ、視力が戻ると同時に記憶が再生され始めるのだった。
「…ハイル?」
突然ハイルの声と魔力を感じて、びっくりして辺りを見回しながら返事をする。
けれど、近くにハイルの気配はしない。
空耳かと思い、こちらを訝しげに見ているセイル兄様と料理長に何でもないと伝える。
『ティカ?』
2人が不思議そうにしながら話し合いに戻った直後、またもやハイルの声が聞こえた。
こんなにはっきり聞こえるということは、空耳ではなく実際に聞こえているのだろう。
けれど、周りを見回してもやっぱりハイルの姿はない。
私はその事に軽く混乱したらしく、ハイルはお父様の近くにいるままで声だけを送ってきているのだ、と思い当たるのに数秒かかった。
…そうだ、魔力を乗せないとハイルが遠くにいる時は声が届かないんだっけ。
『ハイル、返事して!』
声に魔力を乗せ、ハイルに再度呼びかけて返事を待つ。
すると、待ち構えていたようにすぐに返事が返ってきた。
『ティカ!良かった、声が届いたんだね。返事がないから心配したよ』
『ごめんね、すぐに返事できなくて。それでハイル、どうしたの?もしかして、お父様に何か…』
ハイルの声からはそういう焦燥も緊迫も感じられないから大丈夫だとは思うけど…。
でも、万が一ということもある。
そう思って、恐る恐るハイルに尋ねると、あっけらかんとした明るい声が返ってきた。
『違うよ。僕はずっとフィレンツのそばにいるけど、今のところは何もないから安心してって伝えようと思っただけだよ』
どうやら、ハイルは私を安心させようと安全報告をしてくれたらしい。
ハイルの声が聞こえた瞬間から無意識のうちに緊張して強張っていた体から力が抜けるのが分かる。
それにしても、何もないのか…。
やっぱり、あの不安感は私の勘違いだったのかな。
それなら嬉しいんだけど。
『そっか。良かっ…』
『……!ティカ、安心するのは早かったみたいだ』
私が安心しかけた次の瞬間、ハイルの声が一気に緊張感を帯びた。
その声に、嫌な予感しかしない。
『…ハイル?どうしたの?!』
『ティカなら僕と感覚を繋げて僕が見てる景色を見られるはずだ。僕との繋がりを強く意識してみて!』
繋がりを強く意識する…って、どうすればいいの?!
どうせならもっと細かく詳しく教えてよハイル!!
早くしないと、手遅れになるかもしれないのに!
…って、そんな文句言ってないで早く考えないと!
(ハイル…ハイルとの繋がり…!)
一生懸命考えているけれど、焦りが邪魔をして一向に考えがまとまらない。
…どうしよう、このままじゃ…!
最悪の結末が脳裏をちらついて、焦れば焦るほど考えはまとまらなくなっていく。
焦燥と自身への不甲斐なさから涙目になりながらもどうにか集中しようと努力していると、不意に私の両頬がふわりと包まれた。
「…リュート、落ち着いて。大丈夫だから」
「セイル兄様…」
セイル兄様は安心させるようにしっかりと私の目を見て、静かに語りかけてくる。
ハイルの声が届いていないセイル兄様は、私の様子を見ても状況が分からなくて不安なはずなのに。
でも、セイル兄様の冷静な声を聞いて、少しだけ平静に戻れた気がする。
…落ち着かなきゃ。
頰に触れているセイル兄様の手の温かさを感じながら、ゆっくりと深呼吸をする。
「……もう大丈夫です、セイル兄様」
「…うん。さっきより落ち着いたね」
私の顔を見て落ち着いたことを確認し、柔らかく笑ったセイル兄様を見て、私も少し笑う。
やっぱりセイル兄様には敵わないなぁ。
…さて、落ち着いたんだから考えないと。
一応深呼吸をしている間にいくつかやり方候補が浮かんではいる。
一番出来る可能性の高そうなやつからやってみよう。
「セイル兄様、後で事情を説明するので、今は見守っていてください」
「うん、分かった。ゆっくりでいいからね」
そう言いながら、セイル兄様の手が私の頭をさらりと一撫でして離れていった。
それに少し名残惜しさを感じつつ、私は考えに集中する。
…以前、クラハから契約者と契約精霊とはどんなに遠くにいても細く伸びる魔力で繋がっているのだ、と聞いた覚えがある。
イメージとしては赤外線や光ファイバーのような、ごくごく細い光の糸で繋がっている、という感じだ。
…それなら、声に魔力を乗せて遠くにいるハイルに声を届ける感覚を応用して、いつもはあまり意識していないハイルとの魔力的な繋がりをきちんと意識してみたら、いけるんじゃないだろうか。
(…まぁ理屈は後でいいや、とにかくやらないと!)
考えを中断し、意識を集中して自分の魔力の流れを感じる。
そこから細く遠くに伸びていっている魔力を探し出し、慎重に辿っていく。
…やってみて分かったけど、これ、めちゃめちゃ集中力と精神力が必要な作業だな。
集中力がないと、こんな細い魔力の繋がりを辿っていくなんて出来ないし、精神力がないと、耐えきれなくなって途中で一気に意識が自分の所に戻ってくる。
地味だけど結構きつい。
(ハイル、届いて…!)
いつのまにか額から玉のような汗が滴ってきていた事にも気がつかず、私はハイルに呼びかける。
きっとあと少しで届くはずだと信じて、何度も何度もハイルを呼んでいると、微かに声が聞こえた気がした。
(ハイル…?聞こえてるの?返事して!)
(……カ……ィカ……)
今度は確実に聞こえた。
もう少しでハイルに届くはずだ。
お父様に何が起こっているのかも、ハイルに繋がれば分かるはず…!
(ーーーーハイル!!)
繋がりそうで繋がらないもどかしさから、一際強くハイルを呼んだ瞬間、今まであった薄い膜が破れたような、不思議な感覚があった。
ハイルの存在がより深く感じられ、私とハイルの感覚が繋がったとはっきり分かる、そんな感覚。
今までよりもずっとずっと絆が深くなった気がする。
そんな感慨に浸っていると、ハイルの声が聞こえてきた。
(…ティカ!良かった、繋がった!今から僕の記憶を見せる。視覚とか聴覚とかも全て繋がるから!)
分かったと返すより早く、ハイルから記憶が流れ込んでくる。
視界が光で白く塗りつぶされ、視力が戻ると同時に記憶が再生され始めるのだった。
0
お気に入りに追加
2,238
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。
木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。
前世は日本という国に住む高校生だったのです。
現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。
いっそ、悪役として散ってみましょうか?
悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。
以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。
サクッと読んでいただける内容です。
マリア→マリアーナに変更しました。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
二度とお姉様と呼ばないで〜婚約破棄される前にそちらの浮気現場を公開させていただきます〜
雑煮
恋愛
白魔法の侯爵家に生まれながら、火属性として生まれてしまったリビア。不義の子と疑われ不遇な人生を歩んだ末に、婚約者から婚約破棄をされ更には反乱を疑われて処刑されてしまう。だが、その死の直後、五年前の世界に戻っていた。
リビアは死を一度経験し、家族を信じることを止め妹と対立する道を選ぶ。
だが、何故か前の人生と違う出来事が起こり、不可解なことが続いていく。そして、王族をも巻き込みリビアは自身の回帰の謎を解いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる