悪役令嬢は令息になりました。

fuluri

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プロローグ

Let'sお散歩です。

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お兄様は案の定運動がしたいと言い出した。
まあそれは良いけど、どんな運動をするのかが問題だよね。
体が運動できる状態になっても、お兄様は体を動かすことに慣れてないからいきなりスポーツとかは無理。
かといってひたすら筋トレではつらいし、運動した爽快感は得られないだろうし、今のお兄様には軽めで簡単に出来る運動が良い。
んーなら、軽めのウォーキングをして、慣れてきたらジョギングにしようかな。
…まあ、ウォーキングにする主な理由は私がお兄様とお散歩がしたいからなんだけど。

「…そうだね。体力がどれだけあるのかも見ておきたいし、最初はそのくらいにしておこうか。外の景色を歩きながら見るのは初めてだから楽しそうだ。それに、僕もリュートと散歩がしたいしね」

私がウォーキングを提案すると、お兄様はそう言って優しく微笑んでくれた。
ああもう、齢六歳にしてお兄様が紳士的でかっこよすぎる。
お兄様天使!と叫びたい。
将来はきっと引く手あまたなんだろうなあ……。

「それじゃあ、早速今から行きますか?」

「当然だよ、リュート。早く外に行こう!今日は天気も良いし、散歩するのはきっと気持ちが良いよ」

「はい!」

歩き出そうとすると、ごく自然な動作でお兄様の手が私の前にすっと伸びてきた。
何だろうと思って手を乗せるとお兄様が歩き出し、導かれるようにして私も歩き出す。
どうやらエスコートしてくれるらしい。
女扱い?!と思ったけど、お兄様に聞くと「エスコートの練習だよ」と悪戯っぽく微笑まれてしまったので、甘んじて受け入れようと思う。
…私の方こそ天使なお兄様をエスコートしたかったなあ
その後、外に出ようとしたらクラハがいつの間にか護衛を用意していた。
この護衛の方は公爵家直属の騎士団に所属している騎士らしい。
……え?うちに騎士団なんてあったの?
疑問が顔に書いてあったのか、クラハが説明してくれた。

——————————

この国には公爵家が一族の本家となる一族が四つあり、それぞれ内政、外交、武力、商業を担当している。
そして、代々国を治めてきた王の一族。
だが、王の一族を名乗れるのはそれぞれの代の国王と直接血の繋がりがある者と王妃のみ。
それ以外の元王の一族の者たちは断罪……裁判みたいなもので罪を与えたりする役割を持つ一族になるらしい。
よって国王が変われば王の一族を名乗れる者も変わる。

遥か昔からずっと変わらず、この国は先に挙げた計六つの一族で成り立っているのだ。
けれど役割がきっちり別れていたのは昔のことで、今は結構役割が混ざってしまっているらしい。
公爵家の血が薄れすぎると……まあつまり、魔法が使える程度の魔力がなくなったら平民になるんだって。

私……リューティカ・リート・レーツェルが産まれたのは、内政を担当するリート一族の本家である公爵家だ。
まあお父様は宰相らしいから、やってるのは内政だけじゃないとは思うけどね。
あーでも、全ての情報を踏まえて国のために最善の決定をするのが仕事なんだから、内政をやってるって言えるのかも?

……あー、今の私には難しくてよく分かんないけど、お父様の後を継ぐならこういうのも学ばなきゃいけないんだよね……。
大変だあ……。

王家以外のどの一族でも一番上の立場で一族のまとめ役をしている公爵家には、一族の他の家から後を継がない三男、四男が集まり、騎士や下働きとして雇われる。
女は政略結婚に使えるのであまり来ないが、来る者は侍女や女騎士、下働き等になっている。

王の一族に仕えたいと志望する者も多く、基本的に騎士になりたい者は第一志望に王の一族、第二志望に自分の一族の公爵家、第三志望に自分の一族で公爵家より下の爵位のところを置くらしい。
まあどうしてもここに仕えたい!という意思のある者はそこを第一志望にするので、割と人によって違うみたいだけど。

そして、何故かレーツェル公爵家は騎士たちに人気らしく、レーツェル公爵家にはかなり質の良い騎士が揃っているみたいだ。
なんでも福利厚生がしっかりしていて、非常に働きやすいのと、お父様に仕えたいと志望する者が多いんだそうな。
お父様が人気なのは、見目麗しく頭がキレる頭脳派にも関わらず、非常に強いため、憧れる者が多いからだそうだ。

……ほうほう、クラハの話を聞く限りこの家の中なら結構安全なのかな。
というか、私って命狙われてるんだよね。
外だと矢とかで狙われることもあるし、中よりも数段危ないんじゃないかな?
……今から外に出ちゃうけど、クラハが止めずに騎士をつけたんだから信頼して大丈夫だよね。
ハイルもいるし……うん、特に心配しなくてもいいか。

そう納得し、お兄様と手を繋いで一緒に外に出た。
……あ、ちゃんと護衛とクラハは後ろで何かあったらすぐに私たちをかばえる位置についてるのでご心配なく。
なんか、前にいて景色を見る邪魔になったらいけないからって後ろに行ってくれたみたいだ。
気が利くなあ……。


お兄様と一緒にゆっくりお庭を歩いていく。
……そう。お庭。庭園ともいう。
何故外に行く外に行くと言いながらお庭なのかというと、実は、お兄様も私も体が弱いからとか、外に出ると命が危ないからとかいう理由で一度も庭に出たことがなかったんですよ。
それで、二人ともいつも庭師さんが整えてるお庭を窓から見ていて、行ってみたいなあと思っていたので、この機会に行ってみることにしました。

お花が綺麗だし、大きな木と爽やかな風の吹く木陰があってなんだか非常に癒される空間だ。
あー、この柔らかい日差しの中、あの木陰で眠ったら絶対に気持ちいいだろうなあ……。
なんてことを考えていると、お兄様に笑われた。

「……リュート、それをするときは僕も呼んでね」

「……どうして考えてることが分かったんですか?」

「……あんなに熱心に樹を見つめながら眠そうな顔をしていれば誰だって分かるよ」

なんと、お兄様はエスパーかと驚いて聞けば、そんな返事が帰ってきた。
……六歳で『察する』なんていう高等テクニックが使えるのか、お兄様は……!
そんな風にお兄様の優秀さに戦慄しつつ、二人で談笑しながら実にゆったりと歩く。
……二歳児と六歳児だからね、ゆっくりとしか歩けないんだよ!

私があのお花なんて名前だろう、とかあの草はどんな効果があるのかな、とかあの虫は……なんて疑問を持つ度に、お兄様が答えてくれる。
時々ハイルが対抗するようにお花の上を飛んでいる精霊たちに関することを教えてくれたりして、すごく楽しい時間だ。

お兄様は体が弱かった時、色々な種類の本をかなりたくさん読んでいたので、自然と知識が豊富になっていったみたいだ。
そうやって質問しながらあっちこっち気の向くままにお兄様とハイルとフラフラ歩いていると、向こうの方で動いている影が見えた。

……お、あれは庭師さんかな?
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