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プロローグ
事件が起きました。
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初めてこの世界に来てから三ヶ月経ちました。
いやー時が経つのは早いよね!
それはそうと、私、ちょっと思ったことがあるんですよ。
……私、めちゃめちゃハイスペックじゃね?と。
この三ヶ月の間に、私は何とか少しでも言葉を理解できるようになろうと頑張ってました。
というかそれ以外にすることが無かった。
そしたら、ですよ。
なんと私、生後三ヶ月にしてもう日常会話レベルなら理解できるようになりました!
そうして聞き取った情報によれば、私の名前はリューティカ。
フルネームだとリューティカ・リート・レーツェルというんだそうです。
まぁでもいつもリューティカじゃなくて、愛称……ティカ、と呼ばれます。
……けど、何か変なんだよね……。
お母様は、二人の時や産まれたときにその場にいた使用人たちといるときには私をティカ、と呼ぶのに、それ以外の人の前だと私のことをリュート、と呼び、男の子みたいな扱いをする。
……何でだろう?
あ、ちなみにお父様は最初に会った日以来会ってません。
何かお仕事が忙しいみたいで、遅い時間に帰ってきても私は寝ちゃってるからね。
でも多分お父様の前ではティカって呼ぶんじゃないかな?
お父様は産まれたときにいたみたいだし。
お父様のお仕事のこともお母様は色々教えてくれたけど、どういう意味の単語なのか分からなくて、職業は不明なまま。
けど、ファミリーネームがあって、こんな豪邸に住んでて、使用人が何人もいるなんて……貴族だ。
お父様は……って私もだけど、間違いなく貴族……それも割と上の方、もしくは下の方でも裕福な貴族なんだと思う。
それに、お母様が私に教えてくれたお父様のお仕事の内容からして、多分上の方なんじゃないかな。
全部の仕事の最終確認が仕事みたいだし。
そんな風に、色んなことに多少の疑問を感じながらも順調に成長していた私だったけど、ある日、お母様が私を乳母であるクラハに預けて出掛けていった。
まぁそれ自体は前にもあったことなので、あまり気にしていなかった。
けれど、その日の夜、お母様は帰っては来ず、代わりに屋敷が騒々しく、緊張感に満たされたような状態になった。
みんなが強張った顔をして、ばたばたと慌ただしく動いていて、なんだか少し怖かった。
……何が起こってるんだろう……不安だな。
けれどもクラハに寝かしつけられ、赤ちゃんなのもあってすぐに眠りにつき、私の意識は屋敷の喧騒から遠ざかっていった。
――――――――――――――――――――――
────真夜中。
ふっと意識が浮上した私は、寝起きのぼんやりとした思考の中で、誰かの声が聞こえた気がして、そちらに目を向けてみた。
そこにはクラハとお父様がいて、なんだか少し揉めているみたいだった。
よく聞こうと私が耳を澄ますと、クラハとお父様の会話が聞こえてきた。
「アイリーン様が、お亡くなりになられた……?!」
……いきなりショッキング。
嘘でしょう?お母様が亡くなったなんて……。
嘘だと言ってほしい。だって今朝まで元気で、私に笑いかけて出掛けていったのに。
「……ああ。アイリーンは今朝馬車に乗って出掛け、その途中でアイリーンを乗せた馬車が崖から転落した。……あの高さではまず助かるまい」
「そんな……ああ、わたくしが今朝お止めしていれば……!」
「……過ぎたことを悔いても仕方がないであろう。私が今話したいのはリューティカのことだ。リューティカは今後公爵家の跡継ぎとして……男として育てる」
「……フィレンツ様、今なんとおっしゃいました?冗談ならばお止めください、リューティカ様は女の子なのですよ!」
「クラハ、冗談ではない。これはもう決定事項だ。本来公爵家を継ぐべき長男であるセイラートがああも病弱では、セイラートに跡を継がせることなどできぬ。これまでもアイリーンと話し、本当に信用できる者以外の前ではリューティカを男扱いしてきたのだ」
「……!で、でしたらフィレンツ様が養子をお取りになればよろしいではありませんか!」
「それこそ奴らの思う壺なのだ、クラハ」
「どういう……ことですか」
「あの者共はこの公爵家の内部に養子という形で奴らの手の者を送り込み、公爵家を乗っとるつもりだ。今まではアイリーンが身籠っていたから公に口を出さなかったにすぎないのだ。産まれる子が女であれば息子を送り込み、婚約者としようと企んでいたからな。そして、産まれた子が女であれば、こちらは拒否することができぬ」
『奴ら』とは一体誰なのでしょうか。
というか、私にお兄様がいたんですね……知らなかった。
お父様の言葉を聞いたクラハは、苦虫を噛み潰したような顔になり、俯いて唸るように声を出した。
「……あの者たちのせいですか……!」
「そうだ。もしもリューティカが女だと奴らに知れれば本気でこの公爵家を乗っ取りにかかるであろう。そうなればリューティカの身が危ない。現に、アイリーンは……不運な事故に遭ってしまったではないか。恐らくは後妻として手の者を私に押し付けるためであろう」
……不運な事故。
もしかして、いや、もしかしなくても、お母様はその者たちのせいで亡くなったのか……?
後妻をお父様につけるためだけに……?
「……けれど、それならば男だったとしてもリューティカ様の御身が危険なのは同じではございませんか!」
「男であれば公爵家を継がせるに何の問題もなく、奴らに付け入る隙を与えることもない。それに、男であれば己で身を守る術を与えることができるであろう。女ではそれは難しい」
……つまりは、私が誰にも文句を言わせないほど立派な跡継ぎになれば、その者たちは付け入る隙を見出だせないってことか。
身を守る……確かに、私がいなくなればその者たちはもっとやりやすいもんね。
「……リューティカ様に護衛をつければ……」
「お前も分かっているであろう。護衛をつけた上で、己も戦う術を持っているかいないかで危険の度合いが全く異なる。……リューティカは、このレーツェル公爵家の跡継ぎとして……男として育てる」
「……リューティカ様……御身をお守りするためとはいえ……申し訳ございません……」
謝らなくていいのに。
私だって死ぬのは嫌だし、お母様を害した人たちの思い通りに動くのなんてもっと嫌だ。
だから、その方がいいって言うならいくらでも男装くらいする。
……するんだけど、ね……。
私の今の心境は、心の底から愛してくれたお母様を失った悲しみと悔しさ半分、そしてもう半分は……。
『わぁー……なんか厄介な家に産まれたなぁ……』
……である。
ってゆーかやっぱりお母様の呼び方と扱いの変化は女扱いと男扱いだったんだね?
はい、前世に続いて(いや、前世はしようと思ってしたわけじゃないけど)今世も男装ですか。
まぁ好きだから良いけどね……。
かわいい女の子たちからちやほやされるのって結構楽しいんだよ、うん。
それに、イロイロとお返ししなくちゃいけないものもあるみたいだしね?
……とゆーわけで。
男装女子爆誕、あんど男装人生、開幕です。
……と、その前に。
……お母様、短い間だったけど本当に愛してくれてありがとうございました。
私はこれから頑張っていきます。
あなたの愛した娘……否、息子として、お母様に愛を返せるように。
……どうか安らかに眠ってください。
いやー時が経つのは早いよね!
それはそうと、私、ちょっと思ったことがあるんですよ。
……私、めちゃめちゃハイスペックじゃね?と。
この三ヶ月の間に、私は何とか少しでも言葉を理解できるようになろうと頑張ってました。
というかそれ以外にすることが無かった。
そしたら、ですよ。
なんと私、生後三ヶ月にしてもう日常会話レベルなら理解できるようになりました!
そうして聞き取った情報によれば、私の名前はリューティカ。
フルネームだとリューティカ・リート・レーツェルというんだそうです。
まぁでもいつもリューティカじゃなくて、愛称……ティカ、と呼ばれます。
……けど、何か変なんだよね……。
お母様は、二人の時や産まれたときにその場にいた使用人たちといるときには私をティカ、と呼ぶのに、それ以外の人の前だと私のことをリュート、と呼び、男の子みたいな扱いをする。
……何でだろう?
あ、ちなみにお父様は最初に会った日以来会ってません。
何かお仕事が忙しいみたいで、遅い時間に帰ってきても私は寝ちゃってるからね。
でも多分お父様の前ではティカって呼ぶんじゃないかな?
お父様は産まれたときにいたみたいだし。
お父様のお仕事のこともお母様は色々教えてくれたけど、どういう意味の単語なのか分からなくて、職業は不明なまま。
けど、ファミリーネームがあって、こんな豪邸に住んでて、使用人が何人もいるなんて……貴族だ。
お父様は……って私もだけど、間違いなく貴族……それも割と上の方、もしくは下の方でも裕福な貴族なんだと思う。
それに、お母様が私に教えてくれたお父様のお仕事の内容からして、多分上の方なんじゃないかな。
全部の仕事の最終確認が仕事みたいだし。
そんな風に、色んなことに多少の疑問を感じながらも順調に成長していた私だったけど、ある日、お母様が私を乳母であるクラハに預けて出掛けていった。
まぁそれ自体は前にもあったことなので、あまり気にしていなかった。
けれど、その日の夜、お母様は帰っては来ず、代わりに屋敷が騒々しく、緊張感に満たされたような状態になった。
みんなが強張った顔をして、ばたばたと慌ただしく動いていて、なんだか少し怖かった。
……何が起こってるんだろう……不安だな。
けれどもクラハに寝かしつけられ、赤ちゃんなのもあってすぐに眠りにつき、私の意識は屋敷の喧騒から遠ざかっていった。
――――――――――――――――――――――
────真夜中。
ふっと意識が浮上した私は、寝起きのぼんやりとした思考の中で、誰かの声が聞こえた気がして、そちらに目を向けてみた。
そこにはクラハとお父様がいて、なんだか少し揉めているみたいだった。
よく聞こうと私が耳を澄ますと、クラハとお父様の会話が聞こえてきた。
「アイリーン様が、お亡くなりになられた……?!」
……いきなりショッキング。
嘘でしょう?お母様が亡くなったなんて……。
嘘だと言ってほしい。だって今朝まで元気で、私に笑いかけて出掛けていったのに。
「……ああ。アイリーンは今朝馬車に乗って出掛け、その途中でアイリーンを乗せた馬車が崖から転落した。……あの高さではまず助かるまい」
「そんな……ああ、わたくしが今朝お止めしていれば……!」
「……過ぎたことを悔いても仕方がないであろう。私が今話したいのはリューティカのことだ。リューティカは今後公爵家の跡継ぎとして……男として育てる」
「……フィレンツ様、今なんとおっしゃいました?冗談ならばお止めください、リューティカ様は女の子なのですよ!」
「クラハ、冗談ではない。これはもう決定事項だ。本来公爵家を継ぐべき長男であるセイラートがああも病弱では、セイラートに跡を継がせることなどできぬ。これまでもアイリーンと話し、本当に信用できる者以外の前ではリューティカを男扱いしてきたのだ」
「……!で、でしたらフィレンツ様が養子をお取りになればよろしいではありませんか!」
「それこそ奴らの思う壺なのだ、クラハ」
「どういう……ことですか」
「あの者共はこの公爵家の内部に養子という形で奴らの手の者を送り込み、公爵家を乗っとるつもりだ。今まではアイリーンが身籠っていたから公に口を出さなかったにすぎないのだ。産まれる子が女であれば息子を送り込み、婚約者としようと企んでいたからな。そして、産まれた子が女であれば、こちらは拒否することができぬ」
『奴ら』とは一体誰なのでしょうか。
というか、私にお兄様がいたんですね……知らなかった。
お父様の言葉を聞いたクラハは、苦虫を噛み潰したような顔になり、俯いて唸るように声を出した。
「……あの者たちのせいですか……!」
「そうだ。もしもリューティカが女だと奴らに知れれば本気でこの公爵家を乗っ取りにかかるであろう。そうなればリューティカの身が危ない。現に、アイリーンは……不運な事故に遭ってしまったではないか。恐らくは後妻として手の者を私に押し付けるためであろう」
……不運な事故。
もしかして、いや、もしかしなくても、お母様はその者たちのせいで亡くなったのか……?
後妻をお父様につけるためだけに……?
「……けれど、それならば男だったとしてもリューティカ様の御身が危険なのは同じではございませんか!」
「男であれば公爵家を継がせるに何の問題もなく、奴らに付け入る隙を与えることもない。それに、男であれば己で身を守る術を与えることができるであろう。女ではそれは難しい」
……つまりは、私が誰にも文句を言わせないほど立派な跡継ぎになれば、その者たちは付け入る隙を見出だせないってことか。
身を守る……確かに、私がいなくなればその者たちはもっとやりやすいもんね。
「……リューティカ様に護衛をつければ……」
「お前も分かっているであろう。護衛をつけた上で、己も戦う術を持っているかいないかで危険の度合いが全く異なる。……リューティカは、このレーツェル公爵家の跡継ぎとして……男として育てる」
「……リューティカ様……御身をお守りするためとはいえ……申し訳ございません……」
謝らなくていいのに。
私だって死ぬのは嫌だし、お母様を害した人たちの思い通りに動くのなんてもっと嫌だ。
だから、その方がいいって言うならいくらでも男装くらいする。
……するんだけど、ね……。
私の今の心境は、心の底から愛してくれたお母様を失った悲しみと悔しさ半分、そしてもう半分は……。
『わぁー……なんか厄介な家に産まれたなぁ……』
……である。
ってゆーかやっぱりお母様の呼び方と扱いの変化は女扱いと男扱いだったんだね?
はい、前世に続いて(いや、前世はしようと思ってしたわけじゃないけど)今世も男装ですか。
まぁ好きだから良いけどね……。
かわいい女の子たちからちやほやされるのって結構楽しいんだよ、うん。
それに、イロイロとお返ししなくちゃいけないものもあるみたいだしね?
……とゆーわけで。
男装女子爆誕、あんど男装人生、開幕です。
……と、その前に。
……お母様、短い間だったけど本当に愛してくれてありがとうございました。
私はこれから頑張っていきます。
あなたの愛した娘……否、息子として、お母様に愛を返せるように。
……どうか安らかに眠ってください。
応援ありがとうございます!
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