お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

天野 奏

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101.言の葉の代わり

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「着いたよ」
「ここは…遊園地?」

 駅から少し歩いた場所にあったのは、海の近くにある広い空間。
 大きな観覧車とジェットコースターがあるのを見て、遊園地と直感した。

「定番過ぎた?」
「定番?」
「デートコースの」

 シンはフードを外し、日の光を浴びた眉目秀麗なお顔で私を見下ろした。

「あ……」
「ここだと逆に目立つから」

 シンは私の言わんとしていることを察したようで、平然と答えた。
 つまり、目立たないようにいつもフードを被っているということなのだろう。

「こういう所あんまり来たことないんだろうなと思ったんだけど、やめとく?」
「い、行きたいです!」

 きっと自分の目は今キラキラ輝いてしまっているのだろう。
 小さい頃から、忙しいからとこういう所へは連れてきてもらえなかった。
 修学旅行先にこうしたテーマパークが予定されていた時は、危険が伴うからと参加辞退させられた。

 記憶が正しければ、こうした場所は初めてなのだ。

「よろしい」

 シンはまるで子供を見るかのように頭を撫でてくれた。

「ここは小さめだけど、王道は揃ってるから。
好きなだけ付き合ってやるよ」
「ありがとうございます!行きましょう!」

 浮き足立つ自分は、シンの手を引いて先を進んだ。
 シンは少し驚いた顔をしていたが、またすぐに呆れたような微笑みで私を見ていた。

 そうして遊園地での有意義な時間は、あっという間に過ぎてしまった。


「最後に乗りたいのが観覧車とはな」
「ジェットコースターも乗りたかったですけど、観覧車は絶対に最後だと聞いてたので」

 観覧車が最後だと言うのは、高校生の時は女子達が話しているのを聞いたからだけど。

 2人でゴンドラに乗りながら、私はまだ余韻に浸っていた。
 初めて乗ったメリーゴーランド。
 ハンドルを回すと目が回りそうになるコーヒーカップ。
 初めて運転するゴーカート。

 危なくて恐いものだと言われていた遊園地だったけど、むしろ楽しくて何度でもやれてしまいそうだ。
 
 シンは終始付き合ってくれたが、拒否されたのは一つだけ。

「シンもメリーゴーランド乗ってくれたらなぁ…」
「あれだけは絶対乗らない」

 ため息混じりに首を振るも、それ以外は穏やかな表情を浮かべている。

「子供用の遊具は乗れなかったからな。
完全制覇は不可能だろ?」
「あ……そうでした」
「それにアトラクション系は今回乗らなかった」
「妊娠中の可能性がある場合って注意書きありましたからね」

 ジェットコースターなどは身長制限は流石に平気だったけれど、念のため乗るのを控えたのだ。
 まだ排卵は開始していないはずだけど、万全でありたいと思ったからだ。

「子供が産まれたら来ればいい」
「あ……」

 ハッとして、顔を上げた。
 シンは真っ直ぐ私を見つめている。

 それはいつか、私と子供がこの場所に……。
 シンの、子供と……?

 ドキッとして、目を泳がせてしまった。

「えっと…私、こういうのも聞いたんです!
観覧車の頂上で告白すると、その恋は叶うって。
高校生の時に、女子達が言ってて……って、凄い!綺麗な夕焼け空ですよ!シン!」

 必死に話を逸らそうとしていたが、窓の外の景色に目を奪われてしまった。
 茜色の空に、沈む太陽、そして煌びやかな海、ライトアップが始まる街並み。
 空高くから眺められるこの空間は、どんな絵にも変え難いと思える。

 窓に釘付けになる私は、ゴンドラが揺れたのを感じて風が強いのかと首を傾げたが、頬に触れられ、視線を外されてようやく気づいた。

「ん……!」

 唇に、キスが降りてくる。
 いつの間にか隣に移動していたシンは目を閉じていて。
 何度も優しく労わるようなキスをする彼に、私も目を閉じて身を任せるように彼の腕に手を伸ばす。

 彼は背中に腕を回し、壊れ物を抱くように頸の髪をかき上げながら抱きしめて、深いキスへと変えていった。

「ん……ふっ……」

 リップ音が響く度、全身が悦びに震える。

 愛されているとは、このような感じなのだろうか?

 言葉を交わすことなく、ただお互いを求め合うように、唇を重ねる。
 
 太陽が照らす中、私たちはまるで1つになったかのような感覚を覚えた。

「はっ…は……ん」
「……頂上は過ぎたな」
「え……!?」

 フッと笑いながら、彼は私の手を恋人繋ぎで結び、また軽く一度キスをする。

「……俺はそういうジンクスは信じないけどね」
「っ……ズルいです……」

 心臓がドキドキして、苦しい。

 でも、今のはまるで……キスが告白の代わりと言っているような……!
 そんなことは絶対ないと思っているのに、どこか期待してしまって。

 言葉として、聞きたい。
 彼の気持ちを。
 本当は私をどう思っているのかを。

 もし頂上で私が告白していたら、あなたは何と返してくれたのかを。








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