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90.濃い化粧に気付かれて
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「顔上げて」
「え……っ」
顎に彼の指が触れて、クイッと上を向けられれば、目の前にはあの美しい彼の顔が真っ直ぐ私を捉えていて、ドキッと心臓が跳ねた。
いつの間に、こんな近くに…。
穴が開きそうなほどジッと見つめられれば、いよいよ視線のやり場に困り、目が泳いでしまう。
「……し、ん…?」
「…今日はいつもより化粧してるんだ?」
「へ…?」
思わずパチパチと瞬きをした。
何を言うのかと思えばそんなこと…?
というか……
「い、いつもより、って……」
「普段薄化粧だから」
「そ、そうですが…!
なんで……」
普段は就活メイクと称させる程度の軽い化粧しかしていない。
むしろファンデーションとチーク、アイライン、アイブロウをする程度だ。
眉もそこまで変化させていない為少し線を書く程度だし、アイラインも強調はさせない。
口紅も飲み口に色をつけるのが苦手でほとんどつけず、自身の唇に馴染むカラー付きのリップクリームを塗っているだけだ。
品を保てと父に言われて来た為、濃い化粧などは自身の本来の品格を保つのには不適切だと考えた結果である。
その上落とす時に楽だし、すっぴんとの差が酷くならないから誰かに素顔を見せるときがあっても困らず、リクルートとしても正しいとされるとするならば一石二鳥以上の得があると思っていたのだ。
だが今日はしっかりと化粧をする必要があった。
目の下のクマを隠したいからだ。
自分でやるよりも得意な人にお願いした方がいいと思い、屋敷のメイドに任せたのだが…。
そんな事に彼が気付くなんて、正直驚きだ。
興味が無いと思っていたから。
「へ……変ですか…………?」
濃い化粧というのものではなく、どちらかといえばプロが手掛けた程よいメイクだと思うのだが、気合いが入っているように見られたのだろう。
何のために、と言われたらもちろん、ここに来る目的の為なのだから、尚更だ。
子作りの為に自分を着飾るなんて、相当気味悪いだろう。
でも、彼も目の下にクマの出来た女と…なんて乗り気にならないかもしれないし、この前断ったように「やはり嫌だ」と契約破棄しかねないから……
「いや」
少し乱れた横の髪を、彼の手がゆっくり撫で下ろす。
つい目を彼に向ければ、彼はそっと瞼を下ろし、唇を重ねた。
「ん…!」
「……綺麗だよ」
瞼を閉じ損ねたまま、目をパチクリさせていると、彼は表情を変える事なくそう言って私を至近距離でジッと見つめるのだから、また体温が急上昇するのは時間の問題だった。
まるで見惚れられていると錯覚してしまいそうなくらい。
気に入ってもらえたという事、なのだろうか?
嬉しいのに、何故かじわっと涙が滲み、瞳が潤むのを感じた。
あぁもう……彼の言葉も仕草も、こんなに私を一喜一憂させる……ズルい。
「え……っ」
顎に彼の指が触れて、クイッと上を向けられれば、目の前にはあの美しい彼の顔が真っ直ぐ私を捉えていて、ドキッと心臓が跳ねた。
いつの間に、こんな近くに…。
穴が開きそうなほどジッと見つめられれば、いよいよ視線のやり場に困り、目が泳いでしまう。
「……し、ん…?」
「…今日はいつもより化粧してるんだ?」
「へ…?」
思わずパチパチと瞬きをした。
何を言うのかと思えばそんなこと…?
というか……
「い、いつもより、って……」
「普段薄化粧だから」
「そ、そうですが…!
なんで……」
普段は就活メイクと称させる程度の軽い化粧しかしていない。
むしろファンデーションとチーク、アイライン、アイブロウをする程度だ。
眉もそこまで変化させていない為少し線を書く程度だし、アイラインも強調はさせない。
口紅も飲み口に色をつけるのが苦手でほとんどつけず、自身の唇に馴染むカラー付きのリップクリームを塗っているだけだ。
品を保てと父に言われて来た為、濃い化粧などは自身の本来の品格を保つのには不適切だと考えた結果である。
その上落とす時に楽だし、すっぴんとの差が酷くならないから誰かに素顔を見せるときがあっても困らず、リクルートとしても正しいとされるとするならば一石二鳥以上の得があると思っていたのだ。
だが今日はしっかりと化粧をする必要があった。
目の下のクマを隠したいからだ。
自分でやるよりも得意な人にお願いした方がいいと思い、屋敷のメイドに任せたのだが…。
そんな事に彼が気付くなんて、正直驚きだ。
興味が無いと思っていたから。
「へ……変ですか…………?」
濃い化粧というのものではなく、どちらかといえばプロが手掛けた程よいメイクだと思うのだが、気合いが入っているように見られたのだろう。
何のために、と言われたらもちろん、ここに来る目的の為なのだから、尚更だ。
子作りの為に自分を着飾るなんて、相当気味悪いだろう。
でも、彼も目の下にクマの出来た女と…なんて乗り気にならないかもしれないし、この前断ったように「やはり嫌だ」と契約破棄しかねないから……
「いや」
少し乱れた横の髪を、彼の手がゆっくり撫で下ろす。
つい目を彼に向ければ、彼はそっと瞼を下ろし、唇を重ねた。
「ん…!」
「……綺麗だよ」
瞼を閉じ損ねたまま、目をパチクリさせていると、彼は表情を変える事なくそう言って私を至近距離でジッと見つめるのだから、また体温が急上昇するのは時間の問題だった。
まるで見惚れられていると錯覚してしまいそうなくらい。
気に入ってもらえたという事、なのだろうか?
嬉しいのに、何故かじわっと涙が滲み、瞳が潤むのを感じた。
あぁもう……彼の言葉も仕草も、こんなに私を一喜一憂させる……ズルい。
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