お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

天野 奏

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88.幕

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「へへへ…口説いた」

 ニマニマとテーブルに頬擦りしながら、奴はあいつのことを思い出している様子だった。

「マジかよ」
「まさかお前に落とせる女がいたなんて…!」
「で、ヤッた?」

 このテニスサークルのメンバーならではの会話。
 流石はヤリサーと呼ばれるだけはある。
 とはいえ、持ち帰り出来るのは有る程度決まったメンツなのだが。
 
「彼女さ~処女でさぁ~……。
経験無くてガード硬かったんだけど~…押しまくって…もちろんいただいたよね」

 自慢げに語るその姿に、男2人が過剰にリアクションを取りながら笑う。

「うわヤッてんなぁ~!」
「浅井が女食うとかウケんだけど!」
「しかも処女かよ!」
「何この敗北感」
「で、どんな子よ?ぶっちゃけ可愛い?」
「清楚系でマジ可愛い。
 唇柔らけーし胸デカめだし、足がエロくてヤッてる時の涙目とかチョー唆る。
 狙ってる男多かったから付き合えたなんてマジラッキーって感じ」

 鼻の下を伸ばしてニヤける浅井をよそに、羨ましがる2人は酒缶を開けて悔しそうに飲み直し始めた。

「くっそぉ…
お前は俺たちと同類だと思ってたのによぉ~!」
「ハルとシンはともかく、お前まで…!」
「いや狙ってる男がいるような女って誰だよ!」
「ど、どうせそんな可愛いって程じゃねーんだろ…?」
「フッ…聞いて驚くなよ…?」

 胸を張って口を開く浅井から目を逸らす。
 元々こいつらは酒に強くない。
 朝までずっと飲酒を続けることは思考が特に鈍りやすい。
 そして浅井は誰かに自慢したいと思っていたのだろう。

 相手が悔しがっている様を見れば、優越感に浸る浅井はつい口を滑らせてしまう。

「西條結奈!」

「はぁー!?」と男2人の高い声が響いた。

「マジかよー!!」
「でも彼女生理になったから今禁欲中なんだよな~」
「やっば。
えぇ~処女だったん…?
俺らのマドンナを…!」

「ん~…んだよ急にうっせーよお前ら…」

「相原!浅井が西條さん食ったんだって!!」
「はぁ!?」

 男3人と目覚めた相原が各々思考を巡らせる姿を、顎に手を乗せて無表情に見つめる。

 浅井はニタニタと口を歪ませ、おそらくは彼女と次に会う時を妄想している。

 この場でなければ、その妄想もきっと現実として継続されたのだろう。

「へぇ…そうなんだ」

 テーブルのすぐそばにあるベッドに腰掛け、俺と同じく客観視していたハルが、顎に指を這わせ、静かに口角を上げて、優しい表情で浅井の背中を見下ろしていた。
 浅井は全く気づいていない。

 浅井の牽制も、ハルの前では意味を持たない。
 ハルが興味を示したから。

 ようやく幕を切った、といったところか。

 とてつもない俺のが。

 さて…これから、どうするか。
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