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86.今夜は月が綺麗ですね
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「はぁ…」
身体を流し半身浴を始めると、サッパリとしたいい香りが身体を包み込んだ。
睡眠を促すハーブに、私の好きな柑橘系のアロマを垂らしてくれたらしい。
流石は私専属のメイド。
抜かりがない。
それがちょっと怖いとも思うけど。
多少なりとも、父の耳に入っているのだろう。
だからといって、父が私のこの程度の抵抗にどこまで行動するかは分からないけど。
私の反発を“遅れた反抗期”と見ているくらいだもの。
どこまでやるつもりなのか様子を見ているかもしれないし、どうせ私は父に逆らえないと踏んでいるのかもしれない。
現にこの数日、様子を見ているがちっとも屋敷に変化が無いのだから、きっとまだ何も動いていない。
だからまだ、大丈夫……。
短めに半身浴を終え、また部屋に戻ると、スマホから短い通知音が流れた。
ドキッとして顔を上げるも、あえて一人だけ音を変えてた事を思い出し、スマホを開く。
画面を開くと、メッセージに一枚の画像が載せられていた。
月……?
ふと窓を見ると、満月がこちらを照らしていた。
『悪い。
起こしたか?』
画像に続いて、たった2行だがメッセージが送られてくる。
この深夜帯にも関わらず、すぐに既読がつくとは思っていなかったのだろう。
『いいえ。起きてました』
普通の女の子なら何か愛らしい絵文字などを使って送るのだろうか、と思いながらも、どう使えばいいのかも分からないまま、相手と似たようにシンプルな文章を送る。
『早く寝ろ』
少しの間があって送られてきた言葉は叱咤にも似た短い物だったが、思わずフッと笑みが溢れてしまった。
綺麗な月。
雲一つない空の上で、静かに夜を照らしている。
早く寝ろという割に、彼もどこかに外出しているのだろう。
こんな時間なのだから、泊まり込みなのだろうか。
テニスサークルの集まりだろうか?
あの出来事の後、サークルには出ていないので、集まりなどの事情は把握していない。
浅井さんが顔を出すと言うときに初めて活動を知るくらいだった。
今は前山先輩や、あのキャラメル色の人も一緒なのだろうか?
シンの本命の人と──……一緒にいるのだろうか?
ハッとして、頭を振って深呼吸をした。
彼は月のように遠い人。
目に見えるのに手の届かないところにある、美しい人。
例え身体を交えていても、子供が産まれても、彼と本当の意味で結ばれることは無いのだろう。
子供が出来て彼から結婚を告げられても、それはきっと責任感や義務感から来るもの。
彼のあの言葉を鵜呑みにしてはいけない。
彼の一時的な彼女であるという契約の元、協力してもらっているだけなのだから。
彼の全てを求めてしまうなんて、強欲過ぎる。
だから私は窓越しに眺めているだけでいい。
同じ月を見上げているのだとしたら、それ以上に望むものなんて無いのかもしれない。
あぁ…何故こんなに、好きだと思ってしまうんだろう?
ふと、夏目漱石の愛の告白の逸話が頭に浮かび、スマホを片手に手を止めた。
月が綺麗ですね、と送ったら、彼は何と返してくれるんだろう?
そんな事を思いながらも、頭を振ってスマホに指を走らせる。
『夜行きます』
彼の既読はついたが、返信は無かった。
身体を流し半身浴を始めると、サッパリとしたいい香りが身体を包み込んだ。
睡眠を促すハーブに、私の好きな柑橘系のアロマを垂らしてくれたらしい。
流石は私専属のメイド。
抜かりがない。
それがちょっと怖いとも思うけど。
多少なりとも、父の耳に入っているのだろう。
だからといって、父が私のこの程度の抵抗にどこまで行動するかは分からないけど。
私の反発を“遅れた反抗期”と見ているくらいだもの。
どこまでやるつもりなのか様子を見ているかもしれないし、どうせ私は父に逆らえないと踏んでいるのかもしれない。
現にこの数日、様子を見ているがちっとも屋敷に変化が無いのだから、きっとまだ何も動いていない。
だからまだ、大丈夫……。
短めに半身浴を終え、また部屋に戻ると、スマホから短い通知音が流れた。
ドキッとして顔を上げるも、あえて一人だけ音を変えてた事を思い出し、スマホを開く。
画面を開くと、メッセージに一枚の画像が載せられていた。
月……?
ふと窓を見ると、満月がこちらを照らしていた。
『悪い。
起こしたか?』
画像に続いて、たった2行だがメッセージが送られてくる。
この深夜帯にも関わらず、すぐに既読がつくとは思っていなかったのだろう。
『いいえ。起きてました』
普通の女の子なら何か愛らしい絵文字などを使って送るのだろうか、と思いながらも、どう使えばいいのかも分からないまま、相手と似たようにシンプルな文章を送る。
『早く寝ろ』
少しの間があって送られてきた言葉は叱咤にも似た短い物だったが、思わずフッと笑みが溢れてしまった。
綺麗な月。
雲一つない空の上で、静かに夜を照らしている。
早く寝ろという割に、彼もどこかに外出しているのだろう。
こんな時間なのだから、泊まり込みなのだろうか。
テニスサークルの集まりだろうか?
あの出来事の後、サークルには出ていないので、集まりなどの事情は把握していない。
浅井さんが顔を出すと言うときに初めて活動を知るくらいだった。
今は前山先輩や、あのキャラメル色の人も一緒なのだろうか?
シンの本命の人と──……一緒にいるのだろうか?
ハッとして、頭を振って深呼吸をした。
彼は月のように遠い人。
目に見えるのに手の届かないところにある、美しい人。
例え身体を交えていても、子供が産まれても、彼と本当の意味で結ばれることは無いのだろう。
子供が出来て彼から結婚を告げられても、それはきっと責任感や義務感から来るもの。
彼のあの言葉を鵜呑みにしてはいけない。
彼の一時的な彼女であるという契約の元、協力してもらっているだけなのだから。
彼の全てを求めてしまうなんて、強欲過ぎる。
だから私は窓越しに眺めているだけでいい。
同じ月を見上げているのだとしたら、それ以上に望むものなんて無いのかもしれない。
あぁ…何故こんなに、好きだと思ってしまうんだろう?
ふと、夏目漱石の愛の告白の逸話が頭に浮かび、スマホを片手に手を止めた。
月が綺麗ですね、と送ったら、彼は何と返してくれるんだろう?
そんな事を思いながらも、頭を振ってスマホに指を走らせる。
『夜行きます』
彼の既読はついたが、返信は無かった。
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