お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

天野 奏

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85.醒めても

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「っ!はっ…はっ……!
はぁ………」

 酷い冷や汗と共に目を覚まし、身体を起こして頭を抱えた。
 息を止めてしまっていたようで、身体が痛く震えている。

 またあの夢…。

 夢なんて、ほとんど見ないのに。

 トントン、とノックが聞こえた。

「お嬢様。
またうなされていたようですが、お水をお持ち致しましょうか?」

 メイドの高木が、扉越しに心配そうな声で尋ねてくる。

 ここは屋敷の中。
 生理になった手前、彼の家にを払わずに行くのは忍びなく、初日以降ここに帰ってきているのだが、シンと過ごした日以外は毎日のように同じ夢を見る。

 同じ夢、というのは語弊がある。
 実際にあったことだから。

「……ありがとう。
今何時…?」

「夜中の3時です」

 3時…ということは、眠ってからまだ2時間程度……。

「……そう。
汗をかいたから、少し半身浴しようかな。
お風呂の準備をしてくれる?」

「はい」
 
 目元の涙を拭いながら、平気を装う。
 とは言っても、これだけ騒がせてしまっている。
 高木は昼も仕事があるのに、毎晩夜中に起こさせてしまい、申し訳ないことをしてる…。

 早く、落ち着かなきゃ……。

 この前は目元が腫れた状態で帰ってきたので屋敷中が大慌てだった。

 シンのマンションについた時、シンに言われてそれなりに冷やし、寝る前にはだいぶマシになったと思っていたつもりだったが、やはり久々に会った屋敷の使用人達から見たら異常な程らしい。

 それもそのはずだ。
 私が泣く事自体、昔から数えても珍しいことだからだ。
 だからたくさん泣いた後は目が腫れ上がるという根本的な問題もすっかり忘れていた。

 何があったのか、今までどこにいたのかなどたくさん聞かれたが、感動作の映画を友人の家で見たという事にした。
 あと散々ホラー映画を見てしまったら、悪夢を見るようになったとも。

 これは実際、観ていい映画を制限させられていた私としては至極あり得る話だ。

 元々屋敷内でもそこまで感情を露わにする事は少なかったが、新しいものの刺激を受けて感情が揺れたというのは理に叶ってる。

 誰の家だと問い詰められもしたが、そこは伏せさせてもらった。
 もし友人に迷惑をかけるようなことがあれば困ると。

 またこの事を父に報告しないで欲しいとも硬く伝えておいた。

 泣かされたとはいえ、泣かした張本人はあくまで浅井さんなのだ。
 シンの家に行ったからではない。

 それにもしホテルに行っていた事を父が知ったらどう思うか…。

 婚約者を立てようとしている身でふしだらな事をしていると──間違いではないとはいえ、そう思われてもし罰として監禁されでもしたら。

 シンともう会えないかもしれなかなるかもしれない。
 もしかしたらシンがどこかへやられるかもしれない。

 その被害は絶対に避けなければならない。
 
 これ以上怪しまれない為にも大学へは普段通り通っているが、浅井さんとはあの後会っていない。

 私が生理になったと伝えたらすんなりと理解してくれた。

 度々似たような文を送ってくるので分かってきた事だが、“いい彼氏”だと思ってもらいたいらしい。

 いい彼氏もいい彼女も、定義は分からないが。
 会ったらヤりたくなる、とも送られてきたので、自制の意味が込められているのだろう。

 ヤりたいだけ、とも受け取られるとは思ってもみないのだろうね。


 
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