81 / 104
80.決心のキス
しおりを挟む
「……ホントに、いいの?」
ホテルの一室の鍵を閉めた後。
玄関先で、まだ靴を履いたまま、長くゆっくりとしたキスののち、彼は諭すように確認を取った。
その投げかけは初めての時に彼から告げられた言葉に声音が似ているとふと思う。
『……後悔しない?』
あの時同様、私を気遣っての最終確認なのだろう。
私から迫ったキスにより、彼は壁に背中を預けたままで、私の背中に腕を回し、柔らかな指使いで髪の際をそっと撫でる。
胸元に当てた手のひらに、布越しでも伝わるくらい、彼の胸もドクドクと脈を早めている。
その高揚感と、一瞬の躊躇いが、罪悪感を掻き立てた。
「…お願いした通りです」
『私を抱いて欲しい』
あの教室で泣き止んた頃、そう彼に告げた。
彼は少しの沈黙の後、静かに『いいよ』と応えてくれた。
そうして大学を出て流れるように入ったのがこのホテル。
皮肉にも、浅井さんにこの前誘われたネオンのある場所だ。
寂れた外装とは変わって、玄関先でも見渡せる部屋は濃いピンク色に包まれていて、どことなく落ち着かない。
残念なことに、部屋数が少ない為か空いてる部屋はここだけだったのだ。
だから彼から目を逸らさないように、他に何も考えないようにと、こうしてキスを迫っている。
そこに余計な思考など、いらないというのに。
……また、幻滅されただろうか?
他の男に抱かれた後、別の男を求めるような私を。
そこまでして子供が欲しいのかと。
それともただやりたいだけなのかと。
正直私も、何がしたいのかなんて、よく分かっていない。
どちらかと言えば、待っているし、焦っているのだろう。
彼に捨てられたくない。
彼から求められたい。
汚いと思われたくない。
いつものように、アイされて、あの出来事を忘れさせて欲しい…
「ん……っ」
唇を重ね、リップ音と共に、彼は瞼を下ろし今までよりも強く私を抱き締め、受け身だったキスを一変させた。
嬉しいはずなのに、胸がギュッと、苦しくなる。
彼はまだ、私に応えてくれる…
「はぁ…結奈」
「っ……!ん……っ」
熱い吐息が唇に触れ、大きな身体に包まれれば、私の身体は安心感に満たされて、キュンと子宮を震わせる。
ホッと、胸の中で安堵する。
私の身体もまだ、ちゃんとシンを求められる。
私はきっと何も、失ってない。
そう思ったら、涙が滲んだ。
目を閉じたら、目の前にいるのはシンじゃなくなってしまいそうで。
怖くて、閉じられなくて。
シンもお見通しなのか、そんな私を時折見つめては、静かに瞳を閉じる。
「結奈……」
彼の瞼が閉じる度、優しい声音で私の名を呼んでくれる。
目の前にいるのが、自分である事を教えてくれるかのように。
はたまた、相手が私である事を、確かめているかのように。
本当に不思議だ。
教室での行為の時、何度もあの人に名前を呼ばれた。
それなのに。
やっぱりシンの声は、恐いと感じない。
いつの間にか姿勢が逆転し、私が壁に背を預けてキスをしていた。
彼の優しい手が、私の目尻を撫で、涙を拭う。
色気に満ちた彼の瞳から、目を逸らせない。
何か、決意に満ちているように思えて。
もしかしたら、私もそうなのかも。
彼が拒まずにいてくれるのであれば、私は……あれ?
「……結奈…俺は「ちょ、ちょっと待っててください!」
「……は?」
急に腕から逃れ、トイレに向かった私の後ろで、薄い壁越しに珍しく間の抜けた声が聞こえた。
ホテルの一室の鍵を閉めた後。
玄関先で、まだ靴を履いたまま、長くゆっくりとしたキスののち、彼は諭すように確認を取った。
その投げかけは初めての時に彼から告げられた言葉に声音が似ているとふと思う。
『……後悔しない?』
あの時同様、私を気遣っての最終確認なのだろう。
私から迫ったキスにより、彼は壁に背中を預けたままで、私の背中に腕を回し、柔らかな指使いで髪の際をそっと撫でる。
胸元に当てた手のひらに、布越しでも伝わるくらい、彼の胸もドクドクと脈を早めている。
その高揚感と、一瞬の躊躇いが、罪悪感を掻き立てた。
「…お願いした通りです」
『私を抱いて欲しい』
あの教室で泣き止んた頃、そう彼に告げた。
彼は少しの沈黙の後、静かに『いいよ』と応えてくれた。
そうして大学を出て流れるように入ったのがこのホテル。
皮肉にも、浅井さんにこの前誘われたネオンのある場所だ。
寂れた外装とは変わって、玄関先でも見渡せる部屋は濃いピンク色に包まれていて、どことなく落ち着かない。
残念なことに、部屋数が少ない為か空いてる部屋はここだけだったのだ。
だから彼から目を逸らさないように、他に何も考えないようにと、こうしてキスを迫っている。
そこに余計な思考など、いらないというのに。
……また、幻滅されただろうか?
他の男に抱かれた後、別の男を求めるような私を。
そこまでして子供が欲しいのかと。
それともただやりたいだけなのかと。
正直私も、何がしたいのかなんて、よく分かっていない。
どちらかと言えば、待っているし、焦っているのだろう。
彼に捨てられたくない。
彼から求められたい。
汚いと思われたくない。
いつものように、アイされて、あの出来事を忘れさせて欲しい…
「ん……っ」
唇を重ね、リップ音と共に、彼は瞼を下ろし今までよりも強く私を抱き締め、受け身だったキスを一変させた。
嬉しいはずなのに、胸がギュッと、苦しくなる。
彼はまだ、私に応えてくれる…
「はぁ…結奈」
「っ……!ん……っ」
熱い吐息が唇に触れ、大きな身体に包まれれば、私の身体は安心感に満たされて、キュンと子宮を震わせる。
ホッと、胸の中で安堵する。
私の身体もまだ、ちゃんとシンを求められる。
私はきっと何も、失ってない。
そう思ったら、涙が滲んだ。
目を閉じたら、目の前にいるのはシンじゃなくなってしまいそうで。
怖くて、閉じられなくて。
シンもお見通しなのか、そんな私を時折見つめては、静かに瞳を閉じる。
「結奈……」
彼の瞼が閉じる度、優しい声音で私の名を呼んでくれる。
目の前にいるのが、自分である事を教えてくれるかのように。
はたまた、相手が私である事を、確かめているかのように。
本当に不思議だ。
教室での行為の時、何度もあの人に名前を呼ばれた。
それなのに。
やっぱりシンの声は、恐いと感じない。
いつの間にか姿勢が逆転し、私が壁に背を預けてキスをしていた。
彼の優しい手が、私の目尻を撫で、涙を拭う。
色気に満ちた彼の瞳から、目を逸らせない。
何か、決意に満ちているように思えて。
もしかしたら、私もそうなのかも。
彼が拒まずにいてくれるのであれば、私は……あれ?
「……結奈…俺は「ちょ、ちょっと待っててください!」
「……は?」
急に腕から逃れ、トイレに向かった私の後ろで、薄い壁越しに珍しく間の抜けた声が聞こえた。
0
お気に入りに追加
534
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる