お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

天野 奏

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76.貴方に私はあげられない

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「やっ……ん!」

 グッとまた押し込まれ、有無を言わさずキスをされる。

彼は私の両手を片手一つで私の頭の上に移動させ、壁に潰れるくらい押し付けてくる。

 話の論点がズレている。

 私は彼に許して欲しいなんて少しも思っていない。

 例え多少の誤解があったとしても、浅井さんと別れたいという気持ちはそこに無い。

 私が誰を好きか、ということは関係しないのだ、この決別には。

「はぁ…結奈……」

 呼吸を荒げキスをしながら、私のシャツに手を伸ばし、服の上から胸を強く握られて、身体が痛みに反応する。

 こんなの、違う。
 間違っている。

 彼は、欲求を満たしたいだけだ。
 私を物にして、性欲を満たす、それだけ。

 だからこんなにも──痛い。

 ふと、またシンが頭に浮かんだ。

 比べるのは卑怯だ。
 きっと人によっては違う。

 人と接する事が少なかった私には、比べる対象すら少ないというのに。

 ちょっと優しくされただけ、だというのに。

『身体の関係を持ってから恋愛に発展することもある』

 そう浅井さんは言った。
 きっと身体からの関係も、本能的な相性であったりするのだろう。

 浅井さんはそれを信じている。
 私と身体の関係を持つ事で、芽吹く事があると。

「んっ……」

 口を割られ、スッと入り込んできた舌に、身体が震える。

 ──でも、それならなお…無理だ。

 私の身体は…浅井さんと初めてキスをしたあの日から既に、彼を拒絶して震えている。

 浅井さんが私へ何か特別な感情を感じるのだとしたらそれは──

 私がシンに抱くものとは、きっと違うもの。

「っ…ってぇ……!」

「はっ…はっ……」

 身体が離れて、ようやく息をついた。

 彼の口から、血が出ている。
 私が浅井さんの舌を噛んだからだ。

 護身術として教えてもらったことは、確かに有効的だった。

 あの時のシンの満足そうな渋り顔よりも、浅井さんは顔をしかめ、瞳には僅かに涙が滲んでいた。

 口の中に、浅井さんの血の味が広がっている。

 言葉で通じないなら、身体で示すしかない。
 私は浅井さんを受け入れない。

 浅井さんを好きにはなれない。

 もう、心を埋め尽くす人がいるから。
 
 身も心も、既に、彼に捧げてしまっているから──

 そう心の中で訴えて、あぁ、と納得する。

 プライベートでの距離にあれほど落ち込んだというのに私は、彼を好きだと言えるのだと。

 彼がどんなに私を引き離したとしても、私の想いは変わらないのだろうと。

 これを恋と言わずに、なんと言えばいいのだろう。

 この気持ちを彼に伝えたい。
 早く彼に会いたい。

 そう心を弾ませてしまっている。

 だから…私を貴方にあげることは出来ない。
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