お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

天野 奏

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73.プライベートな部分

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「西條さん…また具合悪い?」

「えっ…いえ、そんなことは…!」

 講義が終わってもなおボーッと座ったまま俯いていた為に、ハッと顔を上げた。

 以前も気にかけてくれた同級生・相田美月さんがいつの間にか目の前にいて、少し屈んで顔を覗いていた。

「でもちょっと顔色が悪いような…」

「大丈夫です!
…ちょっと貧血気味なだけかもですね」

 元々貧血持ちではある。
 何も間違ったことは言っていない。

 特に目眩などが起こるなどの症状は無いが、大体の検査で引っかかるのだ。

 今のも、そういう事にしておく方が楽な気がする。

「そっか!
この前講義休んでたし、ちょっと心配だったんだ!
もし体調悪くて人に話しづらい時とか、言ってくれたらお手伝いするからね?」

「…ありがとうございます」

 そっと微笑むと、彼女はまた嬉しそうに微笑んで、手を振って講義室から出て行った。

 なんとも優しい方。
 私の体調をよく気にしてくださる。

 私より少し背が高くて、同級生と言ってはいたけど、まるでお姉さんのようだ。

 お友達も多いのか、彼女が私にするのと同じように話しかける子も、彼女に話しかける子もよく見かけるし、彼女も誰とでも打ち解けていて、男性とも時折混じって話せているのを見る。

 あんな風に親しげに話しかける事が出来たら、私もシンと、この場で話が出来るのだろうか。

 彼女や、今朝の女性のように、当たり前に……。

 そう頭を巡らせて、軽く頭を振った。

 違う。
 これは私とシンの契約が関係している。

 目が合ったり、シンが話しかけたりした時くらいだけ、私はシンの彼女として存在が許されるのだ。

 それ以外の場面で、彼と接することは、お互いのプライベートを侵害する事になる。

 これはお互いを尊重した上で成り立つことなのだ。

 彼に必要以上に接することは許されない。
 契約に反するから。

 彼の個人的な交友関係など、私が気にすることは間違っているのだ。

 それは私とて同じ条件だ。

 私は“プライベート”の中では浅井さんと彼氏であり、前山先輩にもお試しのお付き合いをされている優柔不断な状態だ。

 そんな私を、“プライベート”なシンは拒絶している。

 あのフードの中で、私を見ないようにしているのはその為だろう。

 関係など持ちたくもない。
 身体で交わる一時的な時間以外に、私は求められていない。
 性交渉をして、子作りをする。
 もし彼の子を産んだら、責任として結婚をしてくれるかもしれない、というだけ。

 ただそれだけで、そこに個人的な感情など無い。
 “プライベート”の中ではいつだって、彼は自由である。

 今までだってそう彼の瞳は告げていただろうに…

 どうして急に、虚しくなるのだろう。

 ギュッと唇を結んだ時、ケータイが静かに音を漏らした。

 画面を開いて、また切なくなる。

 今日こそ──決別しなくては。
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