お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

天野 奏

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71.翌朝の幸福感

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 翌朝の私は、浮かれに浮かれまくっていた。

 ついボーッとしてしまい、気付くと遠くを見つめてしまっていたり、身体の節々の痛みを感じては、昨日の出来事を振り返って頬を染め、違和感の残るお腹を軽くさすってみる始末だ。

 おかげで朝食の時箸を落として、メイドさんにビックリされてしまった。

 ヒシヒシと現実を噛み締めてしまう。


 ついに、とうとう、やってしまったのだ。
 シンと…子作りを。


 初めての生での性行為は、一夜明けてようやく、私の心を燻ってしまったのだ。

『好きだよ』

 行為の最中に、“行為が”という意味で使われた台詞も、まるで自分に向けられた言葉のように嬉しくて、思い出す度に下腹部がキュンキュンと鳴く。

 それはもう、妊娠してしまったんじゃないかというくらいだと、経験のない私は思う。

 頭と下半身の連動が噛み合わないのだ。

 頭では冷静に記憶を思い返しているというのに、下半身は彼をまた求めてしまっているのだ。

 彼と行為に及べて、嬉しかった。
 これで妊娠出来そうな気がする。
 目標に向かってこれからも頑張れそう。
 
 そう日記のように綴る頭とは別に。

 今すぐ彼に会いたい。
 昨日のように求めたい。求められたい。
 彼と性行為したい。
 もっと気持ち良くなりたい──

 そう叫んでいるのだ、このイヤらしい下腹部は。

 今までこんな風に誰かを求めたことなんて無い。
 あまり世間的なものには触れてこなかったが、本を読むことは許されていて、恋愛小説は数多く読んできたつもりだった。
 だが、どんな話を読んでもこんな感覚にはならなかった。
 一夜を明かした2人のその後は描かれていても、その内情や描写はほとんど記されていなかったのも大きい。

 彼の熱や、僅かに見せる表情や、身体の痛みも快感も……
 私の読む小説は、どれもその部分は削られていて、あるとすれば「2人は愛し合った」程度の内容だったのだ。

 もしかしたら家のメイド達がそうした描写のある物を除外していたのかもしれないが、愛し合ったという具体的な意味を理解するのに高校の保健体育までかかってしまった。
 その程度の知識に制限されていたことは良かったのか悪かったのか…少し疑問でもあるが。

 ただ、私とシンは「愛し合った」のだと。
 愛、という言葉を正しく捉えられているかは分からないが、行為=愛し合ったのなら、私達は愛し合ったのだろう。
 それが、たまらなく胸を擽る。

 小説に出てきたヒロイン達が行っていた事を体験できたのと同じなのだから。
 そしてそれが、凄く良かったのだから。

 百聞は一見に如かず、といったところなのだろうか。
 この達成感と幸福感は恋なのかと言われればまた別物だろう。
 これは明らかに、動物としての3大欲求だ。
 本能的に身体を求めてしまっている。

 あの逞しく、それでいてしなやかな人肌を…。

 そう思い返して、またキュンと身体が揺れる。

 これはとても、厄介だ。

 誰にも変化を怪しまれずにやり過ごすことが難しいのではないかと不安になる程、表情を隠すのが難しいと感じた。

 彼は、昨日を経て、どんな気持ちでいるのだろうか……。
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