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59.止まらない気持ち
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浅井さんはきっと、怒っている。
ホテルを前にして、逃げてしまったからだ。
浅井さんはずっと、私が前山先輩に目をつけられていることも、あの夜シンといなくなったのも不安視していた。
だから、動画におさめて、付き合っている証拠を残し、不安を解消しようとしたのだろう。
あえて朝になった今送ってくるのは、きっと…私が誰かと会うつもりだったからだと、気付いてのこと。
ただの不安から来る憶測かもしれない…けど。
浅井さんは昨日シンが休みだったことを知っているんだ。
同じサークルだから。
もしかしたら、前山先輩との図書室でのやり取りをどこかで見ていたのかもしれない。
それで勘違いした可能性だって充分あり得る。
安心させてあげなければいけなかった。
逃げてはいけなかった。
分かってたはずなのに…ここに来てしまった。
夜の間、ずっと考えて、覚悟はしていたはずなのに。
『おはよう!
この前の動画、よく撮れてるから音アリで見てね!
結奈エロくて可愛いよ~。
またエッチしようね!』
明るく振る舞われたメッセージと共に、あの日の動画を送ってくるなんて…
誰か一緒にいるのであれば、嫌でも目についてしまうし、音声が漏れたらなんの動画か気付いてしまう。
それが、目的なのだろう。
一緒にいる相手への牽制。
そして私がもう浅井さんのモノであるという主張。
全部、私が悪い。
浅井さんと付き合う方が真っ当であると考えたはずだ。
シンは前山先輩側にいるのかもしれない。
私は2人に踊らされてるのかもしれないと、考えた末の結論として。
別れを切り出す必要はないと思ったはずだった。
でも、気付いたらシンの元へ来ようとしていた。
私のせいで風邪を引いてしまったシンが心配だった、それだけのことではない。
以前から感じていたこの胸が熱くなる感覚は、きっと私が今まで知らなかったもの。
だからといって、浅井さんと別れる前にすべき行動ではなかったのだ。
私の選択は、いつもズレてしまっている。
きっと、シンに軽蔑された。
負い目を感じ、なおも動画から目を逸らせない私を見て、引かないわけがないだろう。
他人との関係を見せつけて、それでも付き合う人がいるだろうか。
仮にこれをきっかけにシンと別れ、浅井さんとも別れることになったとして、浅井さんは手元にある動画を消してくれるだろうか?
それこそ身体だけの関係を築こうとするのではないか。
また、あの夜のようにキスを…それ以上のことを強要されて、妊娠させられるのではないか……
そこまで考えて、手が震えた。
変だ。
ずっと、それでいいと、思っていたのに。
浅井さんと子作りしたくないと思う自分がいる。
私は──……
「っ……!」
背後から、髪を梳かれる。
静かでゆっくりな動作に、思わず身体がピクッと反応した。
そっと、うなじを狙うように、熱いものが触れ、小さくリップ音が聞こえた。
「ぁ……」
また、小さく声を漏らしてしまった。
『もっと強く吸って…そう…あぁ…気持ちいいよ結奈…』
浅井さんとの動画は止まっていない。
ずっと、流れているというのに。
「っ……シン…!」
嫌では、ないの?
あなたは…こんな私に、キスしてくれるの?
小さな声で名前を呼ぶことしか出来ない。
訊ねることは恐い。
それなのに。
この人への気持ちは、止まらない。
ホテルを前にして、逃げてしまったからだ。
浅井さんはずっと、私が前山先輩に目をつけられていることも、あの夜シンといなくなったのも不安視していた。
だから、動画におさめて、付き合っている証拠を残し、不安を解消しようとしたのだろう。
あえて朝になった今送ってくるのは、きっと…私が誰かと会うつもりだったからだと、気付いてのこと。
ただの不安から来る憶測かもしれない…けど。
浅井さんは昨日シンが休みだったことを知っているんだ。
同じサークルだから。
もしかしたら、前山先輩との図書室でのやり取りをどこかで見ていたのかもしれない。
それで勘違いした可能性だって充分あり得る。
安心させてあげなければいけなかった。
逃げてはいけなかった。
分かってたはずなのに…ここに来てしまった。
夜の間、ずっと考えて、覚悟はしていたはずなのに。
『おはよう!
この前の動画、よく撮れてるから音アリで見てね!
結奈エロくて可愛いよ~。
またエッチしようね!』
明るく振る舞われたメッセージと共に、あの日の動画を送ってくるなんて…
誰か一緒にいるのであれば、嫌でも目についてしまうし、音声が漏れたらなんの動画か気付いてしまう。
それが、目的なのだろう。
一緒にいる相手への牽制。
そして私がもう浅井さんのモノであるという主張。
全部、私が悪い。
浅井さんと付き合う方が真っ当であると考えたはずだ。
シンは前山先輩側にいるのかもしれない。
私は2人に踊らされてるのかもしれないと、考えた末の結論として。
別れを切り出す必要はないと思ったはずだった。
でも、気付いたらシンの元へ来ようとしていた。
私のせいで風邪を引いてしまったシンが心配だった、それだけのことではない。
以前から感じていたこの胸が熱くなる感覚は、きっと私が今まで知らなかったもの。
だからといって、浅井さんと別れる前にすべき行動ではなかったのだ。
私の選択は、いつもズレてしまっている。
きっと、シンに軽蔑された。
負い目を感じ、なおも動画から目を逸らせない私を見て、引かないわけがないだろう。
他人との関係を見せつけて、それでも付き合う人がいるだろうか。
仮にこれをきっかけにシンと別れ、浅井さんとも別れることになったとして、浅井さんは手元にある動画を消してくれるだろうか?
それこそ身体だけの関係を築こうとするのではないか。
また、あの夜のようにキスを…それ以上のことを強要されて、妊娠させられるのではないか……
そこまで考えて、手が震えた。
変だ。
ずっと、それでいいと、思っていたのに。
浅井さんと子作りしたくないと思う自分がいる。
私は──……
「っ……!」
背後から、髪を梳かれる。
静かでゆっくりな動作に、思わず身体がピクッと反応した。
そっと、うなじを狙うように、熱いものが触れ、小さくリップ音が聞こえた。
「ぁ……」
また、小さく声を漏らしてしまった。
『もっと強く吸って…そう…あぁ…気持ちいいよ結奈…』
浅井さんとの動画は止まっていない。
ずっと、流れているというのに。
「っ……シン…!」
嫌では、ないの?
あなたは…こんな私に、キスしてくれるの?
小さな声で名前を呼ぶことしか出来ない。
訊ねることは恐い。
それなのに。
この人への気持ちは、止まらない。
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