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57.交際契約とは違う
しおりを挟む「はぁ……」
相変わらず身体がダルい。
胸が熱い。
それでも身体を起こせたのは、昨日より熱が下がった事に加えて、頭を冷やす必要があったからだ。
目が覚めたら身体を許した女が下着も付けずに俺の服を着てそこにいる。
しかも、おそらく大事にしていた大学の講義をサボった。
俺の為にと。
そんなの見せられて、聞かされて…冷静になれという方がおかしい。
あいつは男というものについて、本当に無知だ。
それは今までの行動を見ていれば分かる。
俺に対して、同性のように振る舞う。
それもあの契約が原因なのだろうが。
熱いシャワーを滝のように浴びて、それでもなお熱を発する胸を抑える。
心音が大きく、掌を揺らした。
きっと俺が身体を求めれば。
あいつは簡単にその身を委ねてしまうだろう。
あいつにとってそれが契約だからだ。
そして俺が引き受けたからだ。
昨日の夜もし浅井と身体を重ねたなら、おそらく同じ契約を交わしている。
それでもこちらと結んだものとは恐らく意味が違うだろう。
浅井とはまぎれもなく本人同士が結んだ「交際関係」だ。
身体関係を主とし、テキトーに誂えた俺との付き合いとは別物。
……だからと言って、俺が気にする事でもないはずだが。
シャワーを終え、熱さに項垂れ、それでも下だけを履き替えて部屋に戻ると、着信音が鳴り響いていた。
自分の設定音では無いから、結奈の物だろうが…
「……出ないのか?」
「あっ…えっと……」
ベッドの反対側に座るまでこちらに気付かなかったらしい彼女は、ケータイを握り締めたままハッと振り返った。
一度背後に立ったから、誰からの着信かは分かってる。
“浅井”の二文字が見えたから。
「……別に気を遣わなくていい。
黙ってるから出れば?」
「でも……」
煮え切らない返事に、内心舌打ちした。
するとその舌打ちが聞こえたかのように着信音は鳴り止み、しかしまたけたたましい音を立て始めた。
後ろでビクッと彼女が揺れたのを感じて、思わず悪態をつきそうになった。
こういう電話の仕方は、大概催促だろ。
少し振り返って、目線をケータイに移す。
「早くしろだとよ」
「……大丈夫です。
電話は今出られそうにないと、メッセージ送ったので…」
「じゃあ、なんでこんなにかかってくるんだよ」
「っ……それは……っ!」
さっきの鳴りっぱなしよりも早くに着信は途切れ、ピロリンとメッセージの受信音が聞こえた。
ハッと顔を上げた彼女と、初めて目が合った。
いや、ずっと目を合わせようとしなかったのは俺の方だ。
僅かな視線の交差で、初めて、結奈の顔から血の気が引いていることに気付いた。
なんで、そんなに怯えた顔して…
「嘘……!」
慌てて振り返りケータイを開いた彼女が口元を抑えた。
『そう…もっと強く吸って』
急に浅井のくぐもった声と水音が聞こえて、息が止まったのと同時に、状況を把握した。
少し覗いたケータイの画面には、逸物を咥えさせられた結奈の顔が映っていた。
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