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56.下着が無いので学校休みます

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「あ……起こしちゃいましたね」

「……いや……」

 眠っている彼の額にソッとタオルを当てるも、触れたすぐ後に彼の目蓋が上がったのだ。

 目の前の私を確認した彼は、短く答えると、私の手を取って額にタオルを押し付けた。

「あの…シンさん?」
「……冷たくて、いい」

 言葉は単調なのに、まるで甘える子猫のように押し当てられて、母性が擽られる。
 普段とはまた違った雰囲気だと、改めて感じた。

「……今、何時だ?」

「えっと…ちょうど10時です」

「夜?昼?」

「昼です」

「あんた、ガッコウは?」

「体調不良ということでお休みしました」

「は……?」

 私の手を掴みながら、目元をタオルで覆っていた彼は、途端に顔を離し目の色を変えた。

 その視線にドキッとするが、ここで怯むわけにはいかない。

「当然です。
私の風邪のせいで、結果あなたが寝込んでしまったのですから…!
今日は看病すると決めたんです!」

「そういうのはいらない。
いいから、行って来いよ」

「でも……」

「でもは無しだ」

 これ以上無駄な話はしたくないとばかりに、目を閉じられてしまうも、私も引くわけにはいかない。

 何故なら……

「だって…下着が無いんです…!」

「は…?」

 ここまで告げると、彼は目を見開き、流石のカンの良さですぐに理解したらしく、小さくため息をついた。

 私が彼の服を着ている事に気づいたからだろう。

 夜中、汗だくの彼に寄り添っていたため、自分も汗をかき、早くに起きた後シャワーをお借りして、ついでに自分の衣類を見様見真似で洗ったからである。

「…軽率過ぎるだろ…あんたは…」

「わ、分かってます…でも……」

 額に手を当てて天を仰ぐ彼の手を握って押し除けた。

 ちゃんと、真剣に、目が合うように。

「…本気で、心配だったから……」


 ただでさえ気が気じゃなくて、早くここに来なくてはと思っていたのに。

 夜のあなたが、あまりにも苦しげに震えていて。

 ……掠れた声で、私の名前を呼ぶから。

 なんだか、泣きそうになってしまったの。


 そんなこと教えたらきっと、あなたは怒るのだろうけど。

 寝ぼけていたのかもしれない。
 熱にうなされていただけかもしれない。

 けど、そんな中で、まだ関わりの薄い私の名前を呼んでくれた事が、何故かとてつもなく、嬉しかったから…。

 
「……風呂行ってくる」
 
「あ…入浴は…!」

「シャワーだけ。平気だから」

 しばらくただ見つめ合い、沈黙を破った彼は、ムクっと身体を起こして、ゆっくりと部屋を出て行ってしまった。

 何か、顔に出てしまっていただろうか?

 部屋にいてもいいということだろうか?

 私の学業を気にかけてくれた事も、少し嬉しくて、本気で怒られてたのに、思い出すと胸が熱い。

 まだ彼に、何も出来てないけど、だいぶ熱が下がったみたいで、良かった…。

 
 ピロロン──…


 そんなことを思う静かな空間で、私のケータイが音を立てた。
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