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55.変わらずにいればいいのに
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……熱い。
そう思うのに、身体が寒さに震える。
しっかりと布団に埋まっているにも関わらず、隙間風を感じるほど、表面が冷えているように思う。
冷や汗のせいなのだろうが、身体が重く頭痛も止まらず、何か行動しようとは思えない。
完全に風邪の症状だ。
身体を丸めて保温しようにも、寒気は止まらない。
布団も出切っていて、これ以上温める術などないと言うのに。
熱いのに、凍死しそうな感覚だ。
深く息を吐くだけで精一杯。
そして寝れば治ると思っていても、寒気の影響かそれとも頭痛か、なかなか寝付けない。
体温を測る元気も無いほど、久々に酷い風邪をひいたと思う。
枕元に置いたケータイでなんとか朝中にハルへ連絡を入れたが、動いたとしたらその程度だ。
ダル過ぎて何も出来ない。
明かりすらつけずに、ただ暗闇の中で息を潜めているだけだ。
筋肉の強張りもそろそろ疲れが出て来たはずだが、眠りにつけないのが痛い。
目の前に見える自分の手をただ見つめて、その先の窓から漏れていた光が既に暗く落ちていることに気付いた。
「……結奈……」
吐息と共に思わず声が漏れ、自分のキツそうな声にハッとした。
あわよくばあいつの風邪を俺に移してしまえばと思ったが、ここまでとは…。
人に移すと悪化するとは、よく言ったものだ。
それとも、あいつが自分の痛みに鈍いだけで、本当は体感していたのか…?
女が男より痛みに強いという話が浮かぶ。
何にせよ、笑える話だ。
こんな事してても、何も……。
まぶたが痛くなって、目を閉じた。
額から冷や汗が溢れたが、拭う為の指すら動かせなかった。
あいつは今日、浅井のところへ行った。
約束を破るような奴ではない。
だからきっと、今頃あいつと……
『やっ…シンッ……あぁ………っ!』
昨夜の乱れた彼女が脳裏を過ぎって、目を開けたが、暗がりが広がっているだけで、頭痛の酷さに耐えるようにまた瞼を下ろす。
全て、望んだのは俺だ。
あいつは目的の為に、浅井と身体を重ねる。
それだけだ。
俺には関係無い。
その後のことも、俺とどうしていくのかも。
俺に選択肢は無い。
そういう契約だからだ。
ただ、今は……
「っ……!」
背中にトンと何かが触れて、ハッと目を開けた。
「結奈……?」
思わず、名前を呼んで、またハッとする。
いつの間にか、俺は寝ていたのか?
いつから、ここにいた?
結奈かも分からないのに、こんなに軽率に名前を呼んだことに自分で驚く。
ドクンと、心臓が強く音を立てた。
「っ…すみません……寒そうに震えてたので…!」
声を聞いて、ホッとする。
鍵もかけずに家を開けていた無防備さに、心底不安になったのだろうか。
結奈が帰った時からほとんど身体を起こさずにいて、鍵はかけていない。
それに負い目を感じたのだろうか?
つまり、誰かに俺のことを聞いたのか…
伝えた相手が限られてる中で、分かりきった事を考えるのもダルいが。
「サバイバル術で…人肌は…温まると聞いたので…迷惑でしたら、言ってください」
結奈の手が、ギュッと握り締められたのを感じた。
考えるのは面倒だ。
窓からの光は、とっくに薄暗い街明かりに変わっているのに。
遠くに響く雷の音に気付くのも、やっとで。
背中の結奈がやけに熱く、呼吸が乱れていることも。
指先が震えてる理由も。
無意識に考え出して、その憶測を勝手に脳内で文にまとめ始める。
そんな必要は無いと、自分では思っているはずなのに。
こいつが誰に会って、何をしようが、関係無い。
そう…決めてるはずなのに。
腰元で震える結奈の手に、そっと掌を重ね、前に軽く手を引く。
「……助かる」
結奈が息を飲む音がしたが、許しを得たと理解した彼女は身体から力を抜き、俺の背中に身を寄せた。
背中が温かい。
たった一言伝えただけで身を預ける、無防備な女。
純粋無垢で、罪に染まらないあんたを、これから酷く塗り潰していく存在だというのに。
どうしてこいつは、それに気付かないのだろうか。
俺の最後の足掻きに、巻き込まれてることにも気付かないこの女が……
フッと、心の中で笑い、彼女の手をギュッと握った。
いつまでも変わらずにいればいいと、目論見と矛盾した思考が、文を並べた。
そう思うのに、身体が寒さに震える。
しっかりと布団に埋まっているにも関わらず、隙間風を感じるほど、表面が冷えているように思う。
冷や汗のせいなのだろうが、身体が重く頭痛も止まらず、何か行動しようとは思えない。
完全に風邪の症状だ。
身体を丸めて保温しようにも、寒気は止まらない。
布団も出切っていて、これ以上温める術などないと言うのに。
熱いのに、凍死しそうな感覚だ。
深く息を吐くだけで精一杯。
そして寝れば治ると思っていても、寒気の影響かそれとも頭痛か、なかなか寝付けない。
体温を測る元気も無いほど、久々に酷い風邪をひいたと思う。
枕元に置いたケータイでなんとか朝中にハルへ連絡を入れたが、動いたとしたらその程度だ。
ダル過ぎて何も出来ない。
明かりすらつけずに、ただ暗闇の中で息を潜めているだけだ。
筋肉の強張りもそろそろ疲れが出て来たはずだが、眠りにつけないのが痛い。
目の前に見える自分の手をただ見つめて、その先の窓から漏れていた光が既に暗く落ちていることに気付いた。
「……結奈……」
吐息と共に思わず声が漏れ、自分のキツそうな声にハッとした。
あわよくばあいつの風邪を俺に移してしまえばと思ったが、ここまでとは…。
人に移すと悪化するとは、よく言ったものだ。
それとも、あいつが自分の痛みに鈍いだけで、本当は体感していたのか…?
女が男より痛みに強いという話が浮かぶ。
何にせよ、笑える話だ。
こんな事してても、何も……。
まぶたが痛くなって、目を閉じた。
額から冷や汗が溢れたが、拭う為の指すら動かせなかった。
あいつは今日、浅井のところへ行った。
約束を破るような奴ではない。
だからきっと、今頃あいつと……
『やっ…シンッ……あぁ………っ!』
昨夜の乱れた彼女が脳裏を過ぎって、目を開けたが、暗がりが広がっているだけで、頭痛の酷さに耐えるようにまた瞼を下ろす。
全て、望んだのは俺だ。
あいつは目的の為に、浅井と身体を重ねる。
それだけだ。
俺には関係無い。
その後のことも、俺とどうしていくのかも。
俺に選択肢は無い。
そういう契約だからだ。
ただ、今は……
「っ……!」
背中にトンと何かが触れて、ハッと目を開けた。
「結奈……?」
思わず、名前を呼んで、またハッとする。
いつの間にか、俺は寝ていたのか?
いつから、ここにいた?
結奈かも分からないのに、こんなに軽率に名前を呼んだことに自分で驚く。
ドクンと、心臓が強く音を立てた。
「っ…すみません……寒そうに震えてたので…!」
声を聞いて、ホッとする。
鍵もかけずに家を開けていた無防備さに、心底不安になったのだろうか。
結奈が帰った時からほとんど身体を起こさずにいて、鍵はかけていない。
それに負い目を感じたのだろうか?
つまり、誰かに俺のことを聞いたのか…
伝えた相手が限られてる中で、分かりきった事を考えるのもダルいが。
「サバイバル術で…人肌は…温まると聞いたので…迷惑でしたら、言ってください」
結奈の手が、ギュッと握り締められたのを感じた。
考えるのは面倒だ。
窓からの光は、とっくに薄暗い街明かりに変わっているのに。
遠くに響く雷の音に気付くのも、やっとで。
背中の結奈がやけに熱く、呼吸が乱れていることも。
指先が震えてる理由も。
無意識に考え出して、その憶測を勝手に脳内で文にまとめ始める。
そんな必要は無いと、自分では思っているはずなのに。
こいつが誰に会って、何をしようが、関係無い。
そう…決めてるはずなのに。
腰元で震える結奈の手に、そっと掌を重ね、前に軽く手を引く。
「……助かる」
結奈が息を飲む音がしたが、許しを得たと理解した彼女は身体から力を抜き、俺の背中に身を寄せた。
背中が温かい。
たった一言伝えただけで身を預ける、無防備な女。
純粋無垢で、罪に染まらないあんたを、これから酷く塗り潰していく存在だというのに。
どうしてこいつは、それに気付かないのだろうか。
俺の最後の足掻きに、巻き込まれてることにも気付かないこの女が……
フッと、心の中で笑い、彼女の手をギュッと握った。
いつまでも変わらずにいればいいと、目論見と矛盾した思考が、文を並べた。
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