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38.口移しで
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彼は自身の斜め掛けカバンから、ペットボトルを取り出した。
「泣くのは落ち着いた?」
「はい…っ」
「これ飲みな」
「ありがとう、ございま…」
受け取ろうと手を伸ばすも、指が震えて力が入らず、ストンと床に落としてしまった。
コロコロと天然水のラベルのついたペットボトルが転がって、流石の彼も顔をしかめた。
「あ……」
「握れないの?」
「あ、いえ、大丈夫…っ」
彼が私の膝の上に移動させてくれたものの、キャップを開けようにもまた力が入らなくて、回せない。
未開封のようで、凄く硬いのだ。
「…まさか、普段からこうなわけじゃないよな?」
「そ、そんなことは…っ」
彼が前にかがみ、パキッと大きな音を立ててペットボトルの蓋を開けて見せた。
「あ、ありがとう…」
「落としたら今度は大水害だから。
俺が飲ませてやるよ」
「え?」
ペットボトルに口をつけ、「あんまり零すなよ?」と視線を流した彼は、そのまま口に水を含み、顔を近づけた。
「ん…」
キスが、唇に触れる。
朝ぶりの、彼とのキスが。
とても、懐かしいように思えてくる。
「んん……」
彼の手が後頭部に回り、少し上を向かされると、伸びてきた舌が私の唇を割り、ほんの少し開けた口の中へ水を流し込んだ。
ゴクッ…
大きく口を塞がれて、なんとか飲んだものの、ほんの少し頬を伝って垂らしてしまった。
「下手くそ」
「だって…ん……」
あっちは嫌味を言う時間を作るくせに、私に否定の時間をくれない。
さっきよりも多く水を含んだらしい彼がまたキスをする。
冷たい水。
でもそこにある舌は、温かくて。
労うかのように、舌を絡ませる。
口の中に残っていた違和感を、洗い流してくれる。
きっと、男の人の性器を口にした私とキスなんて、嫌だろうに。
彼は、嫌な素振りを見せない。
それが堪らなく嬉しくて、ついまた、涙を零してしまった。
あぁ私、この人に惹かれてる……。
ただの水が、とても甘く感じた。
「…もう、平気か?」
「はい…ありがとうございます」
彼はゴクゴクと水を飲み干した。
「これからの予定は?」
「家に帰るだけ…ですが」
自分の着ていたブラウスを見て、愕然とする。
零しまくった水が服を濡らしていて、とても真っ直ぐ帰れる状態じゃなかったのだ。
というか、キスに夢中になり過ぎて、零してることすら気づいていなかったので…と思い出したら、急に恥ずかしくなった。
「水飲むの下手すぎ」
「だって…!」
「じゃあ、行こうか」
彼は私に手を差し伸べた。
行くってどこに…
という心の声が聞こえたのか、彼はフッと笑った。
「俺の家」
「泣くのは落ち着いた?」
「はい…っ」
「これ飲みな」
「ありがとう、ございま…」
受け取ろうと手を伸ばすも、指が震えて力が入らず、ストンと床に落としてしまった。
コロコロと天然水のラベルのついたペットボトルが転がって、流石の彼も顔をしかめた。
「あ……」
「握れないの?」
「あ、いえ、大丈夫…っ」
彼が私の膝の上に移動させてくれたものの、キャップを開けようにもまた力が入らなくて、回せない。
未開封のようで、凄く硬いのだ。
「…まさか、普段からこうなわけじゃないよな?」
「そ、そんなことは…っ」
彼が前にかがみ、パキッと大きな音を立ててペットボトルの蓋を開けて見せた。
「あ、ありがとう…」
「落としたら今度は大水害だから。
俺が飲ませてやるよ」
「え?」
ペットボトルに口をつけ、「あんまり零すなよ?」と視線を流した彼は、そのまま口に水を含み、顔を近づけた。
「ん…」
キスが、唇に触れる。
朝ぶりの、彼とのキスが。
とても、懐かしいように思えてくる。
「んん……」
彼の手が後頭部に回り、少し上を向かされると、伸びてきた舌が私の唇を割り、ほんの少し開けた口の中へ水を流し込んだ。
ゴクッ…
大きく口を塞がれて、なんとか飲んだものの、ほんの少し頬を伝って垂らしてしまった。
「下手くそ」
「だって…ん……」
あっちは嫌味を言う時間を作るくせに、私に否定の時間をくれない。
さっきよりも多く水を含んだらしい彼がまたキスをする。
冷たい水。
でもそこにある舌は、温かくて。
労うかのように、舌を絡ませる。
口の中に残っていた違和感を、洗い流してくれる。
きっと、男の人の性器を口にした私とキスなんて、嫌だろうに。
彼は、嫌な素振りを見せない。
それが堪らなく嬉しくて、ついまた、涙を零してしまった。
あぁ私、この人に惹かれてる……。
ただの水が、とても甘く感じた。
「…もう、平気か?」
「はい…ありがとうございます」
彼はゴクゴクと水を飲み干した。
「これからの予定は?」
「家に帰るだけ…ですが」
自分の着ていたブラウスを見て、愕然とする。
零しまくった水が服を濡らしていて、とても真っ直ぐ帰れる状態じゃなかったのだ。
というか、キスに夢中になり過ぎて、零してることすら気づいていなかったので…と思い出したら、急に恥ずかしくなった。
「水飲むの下手すぎ」
「だって…!」
「じゃあ、行こうか」
彼は私に手を差し伸べた。
行くってどこに…
という心の声が聞こえたのか、彼はフッと笑った。
「俺の家」
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