お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

天野 奏

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32.降りかかる火の粉

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  はぁ……どうしてこんな目に……。
  それもこれも、私がお父様を裏切ろうとしているからなのだろうか…?

  私がシンさんと、性行為をしたことがきっかけなのだろうか…?

  日が傾き、茜色が空を覆う。
  それが廊下に差し込み、大きく影を作っていた。

  なんだかとても疲れた。
  昼ご飯を抜いたからか頭がボーッとしていて、集中が続かないように感じる。
  
  慣れないこの1日の出来事の波に飲まれているだけだろうか?

  歩く足取りが重い。
  足に力が入らないし、なんとなく筋肉痛の症状があって、少しフラフラする。

  今日は早く帰ってゆっくりお風呂に浸かって寝よう。

  思えばこんなに人と関わることなんて今まで無かった。

  だから今日は疲れてるだけだ。
  
  そう心の中で唱えていた。

「結奈ちゃん?」

  ハッとした時には、隣を一緒に誰かが歩いていた。
  聞き覚えのある誰かの声。

  顔を上げて、その人の瞳が目に留まった所で、彼は私の手を引いて早々と歩き始めた。

「ちょっと来て…?」
「えっ…あ……」

  私の返事を聞かぬまま、有無を言わさず手を引かれる。
  筋肉痛の足が、痛みでもつれそうだった。

  連れてこられたのは茜色が届かない空き教室だった。
  ここに何かあるのか、と疑問に思いつつも、心臓の鼓動が早まっていて、思考を遮る。

  後ろ手に扉が早々と閉められて、その音にビクッと身体が跳ねたが、それよりも別な方向に身体を引っ張られて、また足がもつれるように影の中へ引き寄せられる。


  入口のすぐ横の壁に逃げ込むように、その影の中で、異性に抱き締められた。


  ガッシリとした広い肩のその人が私を包み込む。
  私よりも鼓動が早く、強く。
  キツく身体を引き寄せられ、まるで骨を折られてしまうのでは無いかと思うくらい、苦しい。
  それに抵抗することも、声を上げることも出来ず、私は引き上げられて爪先立ちの足を、なんとか床につけることしかできなかった。

「結奈ちゃん…」
「んっ……」

  ようやく身体を離してもらえたと思えば、唇にキスが落ちてくる。

  そのキスは私の頭を壁に固定して挟み込み、逃げ場を与えようとはしなかった。

「ん……っ……んん……!」

  押し込まれた舌が口の中を舐め回す。
  息が苦しい。
  拒否出来ない。
  身体が既に、震えてしまっているから。

  それでも手を伸ばし、彼の胸元に手を置いたが、それを良しと捉えたのか、彼は鼻息を荒げながらまた更に深くキスをする。
  
  話なんて、聞いてもらえるわけがない。

  これはやはり、私の罪なのだ。

「はっ…はっ……はぁ……っ…はっ……」

  銀の糸が二人を紡ぐ。
  ようやく苦しいキスから解放されたが、彼もまた呼吸を整えながら、私の頬に手を伸ばした。

「前山先輩と付き合ってるなんて、嘘だよね…?
結奈ちゃんは、俺と付き合ってるんだよね?」
「っ……!」

  寂しそうな、傷ついた声音。

  この人を傷付けたのは、私だ。

  浅井さんの泣きそうな瞳に、私は、何も言えなかった。
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