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31.悪い虫
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彼が学校内で接してこないつもりなのはよく分かった。
元々会ったことも話したこともない相手だったし、一夜限りの…いや、目的達成の為の相手なのだ。
利害が一致しただけで、それ以上の関係を求めてはいない。
だから、あの態度に何か不満が起こる理由なんてありはしない。
彼の彼女役を、必要な時だけこなす。
それだけなのに。
それ以上は求めちゃいけないのに。
人と、腹を割って話すこと。
それがあんなにも楽しくて、心が動かされて、そしてもっと話したいだなんて…
思ってしまうことが、罪深いのに。
なんで、泣きそうになってるんだろう?
「っ……!」
「おっと!大丈夫?」
下を向いて食堂を歩いていたからか、前にいた人に気づせなかったようで、バランスを崩したところを支えられた。
聞き覚えのある声に顔を上げる。
「前山…先輩?」
「あ。覚えててくれた?嬉しいな」
「偶然だね?もう昼食は済んだの?」と気さくに声を掛けてくれるが、つい顔を逸らしてしまった。
元々は前山先輩に惹かれていた部分も大きかったのに。
今の今まで、存在を忘れていた。
どうして、この人ではなく、初めてを彼と……
「いきなりだけどさ。君、彼氏はいる?」
「えっ…?」
ハッとして顔を上げると、前山先輩はフッと笑みを浮かべ、顔を近づけた。
「いないなら、俺が貰おうと思って」
「っ……!?」
どうして、急に…そんな話に!?
一歩後ずさるも、彼は私を引き寄せた。
「な、何す…っ!」
ギュッと、強く抱き締められた。
シンさんとは違う、細くて骨張った身体…。
周りからどよめきが聞こえて、また離れるために抵抗しようとするも、こっそりと隠すように首元にキスをされた。
っ…痛っ……!
うなじの横を今まで経験したことないくらい強く吸われて、痛みに身体が硬直した。
「これでよし」
「何、するんですか…」
「マーキング。悪い虫が付かないように」
あまりにも急な動きに、思考が追いつかない。
痛みに身体がほんの少し震えたが、人前での理性を保つ為に必死に堪えた。
身体を離した彼は、相変わらず爽やかな表情で、優しく頭を撫でた。
マーキング…?
悪い虫がつかないように…?
何を言ってるか分からない。
優しそうな人なのに、こんなに強引だなんて…
「あれってつまり…!」
「西条さんが前山先輩の彼女ってこと!?」
「嘘でしょ…!」
「えっ!」
周りのコソコソ話が耳に届いて、行為の意味を理解した。
私は今、前山先輩の彼女だと思われてるの…!?
たった今のこの行動だけで…!?
“悪い虫がつかないように”って、そういうこと!?
「俺割と本気だから。
考えといて。
じゃあ、シン。行こうか」
「っ……!」
ハッと顔を上げると、前山先輩の後ろに、彼がいた。
フードをまた深く被り、黒い瞳で遠くを見やる彼は、特に表情も変えず、返事も無く、「またね」と軽く手を振る前山先輩の後ろについて歩いて行った。
全部、見られてた…?
全く気付かなかった…。
どうして…こんなことに…?
私たちの会話は周りに聞こえてないのか、いろんな疑惑が飛び交い、私の言葉など既に無意味だと気づいた。
悔しくなって、食堂から出て行った。
吸われたところがジンジンと痛む。
首の後ろを手で払っても、やはり違和感は取れなかった。
元々会ったことも話したこともない相手だったし、一夜限りの…いや、目的達成の為の相手なのだ。
利害が一致しただけで、それ以上の関係を求めてはいない。
だから、あの態度に何か不満が起こる理由なんてありはしない。
彼の彼女役を、必要な時だけこなす。
それだけなのに。
それ以上は求めちゃいけないのに。
人と、腹を割って話すこと。
それがあんなにも楽しくて、心が動かされて、そしてもっと話したいだなんて…
思ってしまうことが、罪深いのに。
なんで、泣きそうになってるんだろう?
「っ……!」
「おっと!大丈夫?」
下を向いて食堂を歩いていたからか、前にいた人に気づせなかったようで、バランスを崩したところを支えられた。
聞き覚えのある声に顔を上げる。
「前山…先輩?」
「あ。覚えててくれた?嬉しいな」
「偶然だね?もう昼食は済んだの?」と気さくに声を掛けてくれるが、つい顔を逸らしてしまった。
元々は前山先輩に惹かれていた部分も大きかったのに。
今の今まで、存在を忘れていた。
どうして、この人ではなく、初めてを彼と……
「いきなりだけどさ。君、彼氏はいる?」
「えっ…?」
ハッとして顔を上げると、前山先輩はフッと笑みを浮かべ、顔を近づけた。
「いないなら、俺が貰おうと思って」
「っ……!?」
どうして、急に…そんな話に!?
一歩後ずさるも、彼は私を引き寄せた。
「な、何す…っ!」
ギュッと、強く抱き締められた。
シンさんとは違う、細くて骨張った身体…。
周りからどよめきが聞こえて、また離れるために抵抗しようとするも、こっそりと隠すように首元にキスをされた。
っ…痛っ……!
うなじの横を今まで経験したことないくらい強く吸われて、痛みに身体が硬直した。
「これでよし」
「何、するんですか…」
「マーキング。悪い虫が付かないように」
あまりにも急な動きに、思考が追いつかない。
痛みに身体がほんの少し震えたが、人前での理性を保つ為に必死に堪えた。
身体を離した彼は、相変わらず爽やかな表情で、優しく頭を撫でた。
マーキング…?
悪い虫がつかないように…?
何を言ってるか分からない。
優しそうな人なのに、こんなに強引だなんて…
「あれってつまり…!」
「西条さんが前山先輩の彼女ってこと!?」
「嘘でしょ…!」
「えっ!」
周りのコソコソ話が耳に届いて、行為の意味を理解した。
私は今、前山先輩の彼女だと思われてるの…!?
たった今のこの行動だけで…!?
“悪い虫がつかないように”って、そういうこと!?
「俺割と本気だから。
考えといて。
じゃあ、シン。行こうか」
「っ……!」
ハッと顔を上げると、前山先輩の後ろに、彼がいた。
フードをまた深く被り、黒い瞳で遠くを見やる彼は、特に表情も変えず、返事も無く、「またね」と軽く手を振る前山先輩の後ろについて歩いて行った。
全部、見られてた…?
全く気付かなかった…。
どうして…こんなことに…?
私たちの会話は周りに聞こえてないのか、いろんな疑惑が飛び交い、私の言葉など既に無意味だと気づいた。
悔しくなって、食堂から出て行った。
吸われたところがジンジンと痛む。
首の後ろを手で払っても、やはり違和感は取れなかった。
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