お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

天野 奏

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30.寂しく思うのは何故

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「……この案でいこうと思います。
どうでしょうか?」
「「いいと思います!」」

  いつの間にかまとめ役になってしまい、テーマに合わせて内容の小分けと研究担当を人数分に分けたのだが、誰かが異議を唱えることもなく、作業は淡々と進んでいった。

  そんな中でも、時折彼をチラ見してしまう。

  教室内がザワザワと盛り上がる中、1人だけは静かにただ机へ目を向けている。

  誰かと話す事もなく、何か表情を変えることも無く、だ。

  もちろん私と顔を合わせることも無い。

  それがあまりにも妙過ぎて、分担を任されていなければきっと見入ってしまっていただろう。

「では、これで…次の時までにここまで、お願いします」
「「はーい!」」

  そうこうしている間に他のグループより早めに片付いて、各々が席に戻る。

  彼もまた席へ戻っていくが、終始誰とも会話をしなかった。

  グループ分けが席の近さで決まっているなら、一緒にいた友達と同じグループの可能性が高いはずなのに…。

「うわぁん!シン!なんで俺ら別々なんだよぉ!?」

  的中とばかりに、彼の横に戻ってきたらしい男の子が、彼に縋り付いていた。

  人数により弾かれてしまったのか。

「騒ぐなよ…」

  ようやく聴こえた声はあまりにも小さくて、彼はめんどくさいとばかりに、目を瞑って顔を背けただけだった。

  なんというか…会話を全力で避けている…。

  昨日とのあまりの変貌ぶりに、開いた口が塞がらないとはこの事かと思ってしまった。

  確かに彼はクールボーイで、講義中までフードを外さない、あくまでファッションをキープしている、そんな人のようだけど。

  昨日は、あんなに…

『結奈…』

  キュッと思い出した胸が熱くなり、顔を隠そうと両頬を手で挟んだ。

  彼はたくさん私を助けてくれた。
  あの時の会話は、口数が少なくてもとても自然だった。
  
  どうして今、それが出来ないのか。

  彼が、大学で素顔を出さないようにしているとしか思えない。

  でも、どうしてそんな事をするのだろう…?

  私と目を合わせないのは、きっと、今朝の“彼女のフリ”の部分的条件だ。
  
  目を合わせたら、彼女のフリをする合図。

  今はそれが必要ないから、かもしれない。

  でも、目を合わせない事なんて、そんなに簡単じゃないと思っていた。

  会話をする時、必ず相手の目を見て話す私には、一度話をする必要が出れば、勝手に目を合わせることになるから。

  だから、あの条件はすぐ発動してしまう不良案件で、きっと彼なりのジョークなのだと思っていた。

  それが、どうしてだろう…
  こんなにも、当たり前に発動されて。

  今朝まで魅入られていたあの黒真珠のような瞳から、完全に逸らされて。

  なんだか、寂しいと、思ってしまう。
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