お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

天野 奏

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14.王子様のキスとは違うけど

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  え……どういう……っ!

「ん……」

  考える余裕も無しに、彼がそっと瞼を閉じると、またキスが降りてくる。

  荒さはなく、穏やかに、余裕のある──ちゃんとしたキス。
  ピリピリと身体が震えて、それを更に鋭敏に感じ取ろうと思い、そっと目を閉じた。

  キス、されてる。

  初めて経験したキスとは、まるで別物。

  ゆっくり触れて、ほんの少し離れて、角度を変えてまた降りて。

  触れるだけの、優しいキス。

  そう考えてるうちに顔が離れて行って、そっとまた頬を撫でられたと思えば、また確かめるようにキスが降りてくる。

  浅井さんのキスが、相手に構わず塗りたくるようなものだとすればこのキスは、きっと相手を労わり、確認を取るようなキス。

「んっ……ふ……んん……」

  彼の唇が触れるたび、ピリピリと身体が疼く。

  離れる時に聴こえるリップ音が、とてもいやらしいのに、嫌な気持ちになるどころか、胸がキュッと熱くなる。

  これに似た音が、さっきまでは凄く嫌なものだったのに。


  早めていた鼓動が、穏やかに、しかし力強くなる。

  彼は私の肩甲骨を抱くように腕を通し、後頭部をそっと撫でた。

  彼の大きな手のひらが、私の頭を支えてくれている…

  私の長い黒髪にそっと指が通って──それがまた、ビリビリと神経を撫でていく。
 
  唇を優しく啄まれ、漏れる吐息はお互いの熱で程よく溶け合い、不思議と心地よく感じてしまう。

  「はぁ……」

  自分とは思えない吐息が聞こえた。

  驚いて目を開くと、彼もまた薄く瞼を上げて、覗いた瞳は私を見つめ、目を合わせたままキスを始めた。

「んっ…ふっ…」

  チュ……クチュ……チュッ……

  静かな空間に響くリップ音が心地よくて、触れる唇が徐々に熱を帯びているのが分かった。

  睨めっこのように見つめ合うべきかと思えば、彼は静かに目を閉じて、またキスを繰り出す。

「はっ…あ……」

  噛み付くように唇を覆っては優しく離れ、何度も角度を変えて放たれるキス。

  そろそろ酸素が無くなって、息を吸いたいとばかりに彼の腕に手を乗せると、その手は彼の手のひらにガッシリと握られ、ベッドに押し倒されてしまった。

    抵抗は許さないというジェスチャーなのだろうか?

  屈服させられている…そう分かるのに、どうしてか心地よくて。

  彼のキスが、気持ちいいと感じてしまう。

「っ…はっ!はぁ……はぁ……っ」
「……いい顔してる」
  
  ゆっくり吐息を漏らし、顔を離した彼は、私の目尻を拭った。
  それまで自分が涙を滲ませていることにも、こんなに呼吸を乱していることにも気づかなかった。

  暗がりの中、漆黒の瞳で見降ろす彼に、ギュッと心が締め付けられる。

  どうしてあなたは、こんなキスをするの?
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