お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

天野 奏

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13.恐くないのに

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  彼がキスをしてくれた理由──

  私が彼に告げた『今更』という言葉で、だいたい分かった。

  彼は私が処女であることを理解してもなお、このを了承したということ…

  ホッとしたのと同時に、先程までの羞恥の感情がゆっくりと静まっていく。

  彼は処女である私を抱いてくれると体言してくれたのだ。

  これほどまでに、静かに。

  私も、それに応えなくてはならない。

  頼んだのは、私なのだから、責務を全うしなくては。


  そっと瞼を下ろし、彼のキスを受け入れる。

  すると、ゆっくり、長く触れていた彼のそれは、そっと離れて、触れないギリギリの高さで止まった。
  それに合わせて目を開くと、彼の黒い瞳は私をジッと観察していた。

  見透かされるようで、目を背けたくなる。

  心拍が上がりそうなのをグッと堪えて、行為の続きを待つことにした。

「……緊張し過ぎ」

「はい……っ?」

  頬に添えられていた掌がそっと目元へ移動したことに、思わずビクッと反応した。

「あいつとのキスがトラウマ?」

「っ……そ、そんな訳ないです大丈夫です!」

  目を閉じたら思い出しそうで、思わずギュッと掌を握り締めた。

  触れ方も何も、全部違った。

  少なくとも澤田さんには、無理矢理なんて、されてない。

  ここは電気もあって明るし……!?

  そんなことを考えていたら、突然電気が消えた。

「ひっ…!」
「ランプに変えるだけだ。見え過ぎて萎えるから」

  ポッとベッドの上にオレンジ色の灯りが灯って、ホッと思わず息を吐く。

  一体いつの間にライトを消したのだろう…というか、やっぱりこの人ホテルに慣れている…!

  ダルそうに片手を伸ばしてライトの灯りを調節していた彼は、またようやくこちらに向き直った。
  薄明かりに照らされた彼の瞳は、漆黒ではなくどこか先程よりも温かく感じた。

「忘れろとは言わない。
けど、俺はあいつじゃないから」

「そ、そうですが…っ!」

  髪を撫でられて、ビクッとまた反応してしまった。
  
  こ、恐がってるんだろうか、私……

  あんな一瞬の出来事で、目標達成の道を自分から閉ざしてしまったのか私は……なんて弱い……

  暗闇がそうさせるのか、途端に胸の奥がグッと苦しくなって、涙が滲み出てしまった。

  それをこの彼が、見逃すはずも無い。

  萎える、とは、気が失せるということなのだろう……

  これじゃ、続きなんて……してもらえない……!

  そう思いギュッと目を瞑ると、唇にまた柔らかい何かが触れた。

「ん……」

  思わず、声が漏れた。

「恐いなら目を開けててもいい。
今、誰に、何されて、どう感じてんのか。
それだけ意識していろ」

  彼の低い声が、凄く近くに聴こえた。
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