お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

天野 奏

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10.子作りを懇願します

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「上がった」
「っ!」

  ビクッと、身体が震える。

  反射的に目を向けると、身体から湯気を立てながらタオル一枚を腰に巻き、何食わぬ顔で澤田さんが出て来た。
  傷ひとつない綺麗な肌に見事な腹筋で、パーカーに隠れて気づかなかったが案外細身の彫刻のような肉体美だった。

  髪を撫でるタオルを外す彼と、目が合う。

  先程見た通り二重の瞼に、キリッとした眉。
  高い鼻に細い唇。シュッとした顎。
  明らかな綺麗顔。
  濡れた髪は露を落とし、その鍛えられた肩にポツリと落ちた。
  喉元に浮かぶ筋も、喉笛も、綺麗に浮かんだ鎖骨も、男らしさを強調して。
  こんなに美しい人が、この世に存在したのだと、初めて気付かされた。

「お、おかえりなさい…です」

  思わず、声が揺れる。

  落ち着け…

  きっとこんな綺麗な人…前山先輩に張り付いてた女子達が見逃すはずがない。
  さっきの入室手続きの手早さといい、何度もこうした行為に及んでいるはずだ。

  相手はプロ。
  私もそのうちの1人になるに過ぎない。

  彼は私に協力すると言ったし、私も同意した。
  今度こそ完全な同意。

  ちゃんとした場所。
  ちゃんと清潔になった状態。
  相手もちゃんと見える。

  これ以上他に何を望む?

「……あんた、親に連絡とかした?
泊まりになるんだけど」

「えっと…大丈夫です。大学になったら時間は好きに使えと言われているので…」

「へぇ…意外と自由だね」

  ベッドがグンと凹んで、思わず吃ってしまった。
  反対側に彼が座ったのだ。

  すぐ近くに、彼がいる。
  緊張で心臓が、破裂しそうだ。

  でも、ダメだ…何か話さないと…!

「あの…!今まで何人と…身体の関係に?」

  ドクン──

「身体の…?
あぁ……したのは5人だな」

  ドクン──

  5人…へぇ…多い…のかな?

「そうなんですね…私は6人目になるのでしょうか…」

  ドクン──

「まぁ…そうかもな」

  ダメだ…これ以上話をしてたら、もっと緊張してしまう…!

  淡々と話す彼を振り返り、バスタオルを外し、ベッドへ登った。
  感触が伝わったのか、彼はゆっくり振り返り、私を見た。

  ドクン──

  突如として羞恥が溢れ、思わず身体を隠そうと胸に手をやる。

  ダメ……

  やると決めたのは、私なんだから。

  これは、たくさんの人を裏切る為の手段。

  恥なら、この人に全部くれてやろう。

  ドクン──

  彼が目を丸くするのが分かった。

  ギュッと目を瞑り、一瞬また浅井さんが頭を掠めたが、震える声を可能な限り振り絞った。

「早速ですが…私と子作り、してくださいますか?」
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