陽の下の吸血鬼

天野 奏

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散り泣き咲く雪のよう

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警察署は思った以上に古く、さびれていた。
ちょうど巡回してきたらしいパトカーから青い制服と帽子、それに拳銃を身に付けた警察官が現れた。

「・・・あなたたちは制服は着ないんですか?」
「ああ、俺たちは一課だからな」

気さくに国枝刑事が答える。
年が離れていそうだからか、なんだか親しみやすい。
佐藤刑事は国枝刑事より一回りも二回りも若く見えるのだが・・・
ホントに、どっちが偉いんだろう?

「一課・・・」

呟いてみたところで、なじみがない。

「あんまり、テレビとか見ない?」
「テレビ・・・そうですね、テレビは・・・」

ドラマなら、ケータイで時折見る。
でも、テレビは・・・

家の中を思い出して、目を閉じた。
襖をほんの少し開けたところから、光が漏れる。
四角い画面の横で、高らかに笑うーー

「・・・言わなくていい。
それは僕たちには関係の無いことだ」

佐藤刑事が私の肩に手を置いた。
一瞬、ドキッとした。
すごく、危なかったかもしれない。

気付いて、かばってくれた・・・?
この人も、仕事熱心なだけで、案外優しい人なのかも・・・。

「少しここで待っててくれ。
部屋を手配してくる」

そう言って佐藤刑事は離れてどこかへ入っていった。
それとすれ違うように、奥からこちらに向かって手錠をかけた男が警察に連れられて出てきた。
横に一人前と後ろに一人ずつ警察が挟んでいる。

「・・・この間の万引き犯が捕まったか・・・」
「この前の?」

男と目が合う。
思わず逸らした。

「あ、いや、つい最近の話だ。
身元が割れてからずいぶん逃げ回っていたらしくてな。
これから留置所行きだろう」

国枝刑事は不満そうな顔をした。

入口から、さっきの警官が入ってきた。
男の顔つきが変わる。
ちょうど、このままいけば私の前で二人がすれ違う。

悪寒がした。
その場を離れようと一歩下がる。

でも、遅かった。

「うっ・・・!」

横で掴んでいたはずの警官が肘で打たれる。
その瞬間、横を通った警官に男が突っ込み、瞬時に銃を引き抜くと、私の目の前に立っていた。
グッと引き寄せられ、銃が腰に付けられる。
一瞬だった。

「動くな!
この女を撃つぞ!!」

その場にいた警官たちもまた、銃を持って構えていた。
周りにいた一般人が悲鳴を上げる。

「待て・・・!
その子は関係ない。
その銃は弾が入ってないし・・・」

バンッ!!

つんざくような音が耳元で響いて、キーンと耳が鳴った。
衝撃で、身体中に激痛が走る。
倒れそうになったが、男に捕まえられた。
いまだに、銃は私に突き付けられている。

・・・どこに当たった?

耳の近くで聞いたからか、意識が飛びそうになる。

「た・・・弾あるじゃないか!!
ふざけんなクソケーカン!!」

男が青い顔で警官たちに罵声を浴びせる。

弾が出た?
どこか、撃たれた?
身体が、痛い・・・。

「手錠のカギと!車!車のカギをよこせ!!さっさと!!」

男に支えられるようにして、少しずつ出口に移動する。
思うように足が動かない。
下を向いて、初めて気が付いた。
太ももから、血が出ている。

私が、撃たれた・・・。


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