上 下
11 / 22
第2章 少年の決め事

ヌースの村

しおりを挟む
身支度を済ませ、少年に連れられるまま外へ出る。
私たちがいた家から、入ってきたところの門がよく見えた。

少年は1人で住んでいるようで、他に人の気配が無かった。
あの時門番に連れられて入ってきたからには、彼も私も誰かに解毒されたと思うのだが……どこで誰に助けられたのだろう?
門の近くに応急用の解毒剤があったのか。
まぁ、あれだけメブカ草が生えていた森の近くだ。
あれにやられて帰ってくることも多いのだろう。
応急用があってもおかしくはないが……。

ここ、【ヌース】という村は農業が盛んで、主に牛乳やチーズなどがよく生産されているらしい。
野菜も自給自足で、それぞれが足りないところは補い、支え合って生きている。

しばらく歩くと小さな売店があって、そこで少年はパンとチーズを買い、私に与えた。

「腹減ってるだろ?」
「あ、ありがとう……」

近くの椅子に座らせられ、渋々、それを受け取る。
これは、歓迎、されているというのか?
本当に、よく分からない。
ふと、気になって少年を見る。

「……お前は、食べないのか?」
「俺?」

自分を指差す彼に、頷く。
私が起きてシャワーを浴びてる間、何か食べたのだろうか?
あの小屋のような家にはベッドと机と椅子ぐらいで、かまども大して使われてなさそうだったし、食料の保存も無かったように見えたが……。

「食べない。
今ので金使い切ったから」
「は!?」

それは、俗にいう金欠というのでは……。
確かに、よく考えれば服装はボロ一枚だし、衣類が閉まってあるような棚すら無かった。
もしや、質屋に出したのか?

「そんな、何故それを言わない!?
それなら私が……」
「いらない。
買わなくていいから」
「なんで……っ」

立ち上がろうとする私を、少年は隣で腕を引いて掴み止める。

「いいから、座って食べる」

力が強くて、痛い。
青い瞳はジッと私を見つめた。

「……はぁ……」

まるで母親のような説教じみた発言に、ついため息が漏れる。
何故私がこのようなことを言われなければならないのだ。
金に困っているようなダメ男に。
そして、何故従って、抵抗出来ないんだ?
この少年の時折現れる威圧感が、無意識にそうさせているように思う。
だがそれが、不服でも、ある。

「……はい」
「……何これ?」

顔を向けると威圧感に押されてしまうから、私は顔を向けずにサッと彼の前に半分にしたパンとチーズを重ねて差し出した。

「私は半分でいい。
食べなさい」
「…………」

何も言わず、彼は私の手に触れて、受け取った。
それだけなのに、ドキドキしたのは、何故だろう?
チラッと横を見ると、パンにチーズを重ねたまま、両手で端と端を持ってかじりつく彼がいた。
視線は下を向いて、特に何かを見ているようには見えなかったが…小動物のように、はたまた反抗期の子供の相手をしているような可愛げがあった。

私もつられて、正面を向いてパンを口に含む。
甘みがあって柔らかく、チーズも滑らかで、美味しい。
こんなのんびり食事をするなんて…ましてやパン。
すぐに食べて、鍛錬やら討伐やらに向かうのが常なのに……。
鳥の声、風の音、空の色、蒼い草花…目の前にあるものが、温かく感じて。

なんだか、心地良いと、思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

異世界行ったら人外と友達になった

小梅カリカリ
ファンタジー
気が付いたら異世界に来ていた瑠璃 優しい骸骨夫婦や頼りになるエルフ 彼女の人柄に惹かれ集まる素敵な仲間達 竜に頭丸呑みされても、誘拐されそうになっても、異世界から帰れなくても 立ち直り前に進む瑠璃 そしてこの世界で暮らしていく事を決意する

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...