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第1章 変わった少年

嗅ぎ分ける少年

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「臭うって、何が……!」

あくまで女性に向かってなんでことを……!
確かにあの時ゴブリンと戦って多少汗を流したし、毒が回って熱が出て発汗したのもあるだろうが……!

少年はまた鼻を肌ギリギリのところまで下ろして、スンスンと鼻を鳴らした。

「臭うんだよ。
血の臭いが」
「っ……!」

血の臭い?
それは、今朝のゴブリンのことか?
一番初めのゴブリンはこちらに飛んできたが、魔剣ギリアンの剣圧で斬られた魔物は出血しない。
それは剣圧が熱を帯び、魔物の斬られた身体を瞬時に焦がしているからだと思っている。
実際、魔物が焼かれた時と同じ臭いがする。
私は今朝返り血を浴びていない。
こいつの言う血とは、何の臭いだ?

少年は私の谷間から腹の筋を通ってヘソの方まで鼻を這わせる。
背中がゾワゾワっとなった。

「っ!離れろ!!」
「魔物の血の臭いだ」

私の命令を全く無視して、少年は私をその青い瞳で睨む。

「お前からは魔物の血の臭いがする」
「なっ!……だからなんだ!?」

心底腹が立った。
堪忍袋の尾がここまで切れかかっている。
魔物の血の臭いとは、どういう意味だ!
戦いの後は水浴びをしたり温泉に浸かったりして血は洗い流しているハズだ。
私は人間であって、魔物ではない。
私から魔物の血が臭う訳ない!

「だから魔物に狙われるんだ」

……プチッ。

「っ!?……ただの村人の分際で何を言っている!」

完全に、尾が切れた。

「私がいなかったら貴様はあの場で息絶えていた!
私が魔物と戦わねば危険な状態の貴様を見つけることも無かった!
そして私が魔物を倒さなければ魔物を根絶やしにすることは出来ない!
ただの平民で、丸腰であの場にいるような貴様に、何が分かる!?」

頭に血が上って、罵声を浴びせた。
自分らしくもなく、感情に任せて人を罵るなんて。
肩で息を継ぎながら、私は少年を睨み付けるも、徐々に罪悪感を覚え始めた。

少年は表情を変えず、特に言い返す訳でもなく、ジッと私を見つめた。

「……戦いたくないなら、やめればいいのに」
「っ!?」

呆れて、言葉も出なかった。
魔物はこの世の悪。
人を殺し、心に傷を負わせ、不幸にするだけではない。
魔物が増えることによって人々は住む場所を無くし、作物が取れずに飢え、それによる貧困や犯罪の上昇など、様々なものに影響を与えている。

魔物を退治していかなければ、我々は生きられない。
それを身に染みて感じだからこそ、私は戦っているのだ。
それなのに……こいつは……!
私が、戦いたくないだと!?

なんとか右手を伸ばし、机に立てかけられたギリアンに向けて手のひらを広げる。

……来いっ!

シュッ……

鞘から抜けたギリアンは、瞬時にその柄をこちらに向けて手のひらに吸い寄せられるように飛んできた。

ヒュッ!

それを掴み、少年の手を払うように回すと、少年は刀ギリギリで躱して少し距離を開けた。
手が離れたその隙をついて身体をグッと起こすと、両手で魔剣を握り少年の首筋をすんでのところで止めた。
青い光が、少年の白い肌を青白く照らす。

「今の言葉、訂正しろ。
私はこの命に変えてでも魔物を倒すと決めた。
それが私の務め。
貴様に説教されるような若輩者ではない!」
「…………」

少年は更に目を細め、ジッと私を見つめる。
その青い瞳が魔剣の光で更に青く輝き、何もかもを見透かされそうで、思わず目を逸らしたくなった。

この男は危険だ。

私の直感が、そう伝えていた。
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