上 下
74 / 100
2人に流されて…最低なオレ。

5

しおりを挟む
「はっ…はっ……う…ううっ……っ……」

思わず、泣いてしまった。
それすらも、恥ずかしい。

「……びしょびしょ。
そんな良かったんだ?」

泣いてるオレを気にすることなく、亜貴は指を伝う水滴を零さないように舌で舐めた。

恐くて、不安で、初めてのことで戸惑って。
でも、それでも感じていた自分自身にムカついて、腹が立って。

……もう、お嫁に行けない。
理央先輩に、向ける顔がない。

「……着替え、取ってくる。
身体怠いだろ?休んでな」
「ひっく……うぅ……」

子供のように、顔を逸らして泣く。
口も聞きたくない。
目も合わせたくない。
こんな泣き方、いつ以来だ?

「…………」

亜貴は横向きに寝ているオレを無言で後ろからそっと身体を包むと、オレの頭にキスをした。
大事そうに、壊れものに触るように。
許しを求めてるの?
絶対、許さないの、分かってるだろうに。

そのまま何も言わずに、亜貴は保健室を出て行った。
それがまた少し悲しくて、涙がシーツを濡らした。

この関係は、間違ってる。

亜貴を求めてしまうオレも、甚だおかしい。

オレは…どうするのが正しいの?
誰か、教えて。


***


「亜貴」
「…………」

廊下に出ると、待っていたかのように理央が立っていた。
朝練を終えたのか、制服に着替えている。
少し気まずそうに、目を逸らされる。

「純ちゃんは…大丈夫?」
「……中入って確認したら?
純、喜ぶんじゃん?」

理央はムッと顔を上げた。

「……もう、純ちゃんに近付かないであげて」
「なんで?」

理由は分かってるけど、わざと聞く。

「遊びなら他でやれよ。
純ちゃん、可哀想だろ?」
「それだけ?」
「っ……」

理央は拳を握った。

「……純ちゃんに、告白しようと思う」
「……へぇ」
「亜貴は…純ちゃんのこと、どう思ってるの?」
「………」

目線を下ろして、目を閉じた。

涙を流す純が、頭に浮かぶ。

「……性奴隷?
……っ」

顔を上げれば、理央はその拳を振りかざした。
顔の前でそれを片手で止める。

「亜貴…なんで、そんなになったんだよ?
それは本心なのか?」
「……留めておけるなら、なんでもいい。
女なんか、それくらいのオモチャだろ」
「亜貴っ……」
「やり合うだけ無駄なの分かってるだろ?
大会前だ。
この辺でやめとけ」

理央は拳を震わせながらも、手を下ろした。

「……亜貴。
僕は、純ちゃんを大事にするから。
そんな風に、泣かせたりしない」
「……好きにすれば?」
「もし僕と純ちゃんが付き合ったら…純ちゃんにはもう、関わるな」
「…………」

俺は理央を無視して、外に出た。

風が生温い。

今のまま、時間が止まればいいのに。

『亜貴…あきっ……!』

何度も名前を呼んで乱れながら、苦しそうに俺を見つめる純が浮かぶ。

自分の唇を、指でなぞった。

例え身体で繫がったとしても、きっと、心は手に入らない。

最初からただの、悪あがきだ。

何が正しいとか、そんなの、あるわけない。

汚い、醜い自分は、ただの男で。

頭で声を再生して、余韻に浸る、ケダモノでしかない。

でも、それでもいいと思ってる。

純との時間は、もう残り少ないだろうから……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

君の浮気にはエロいお仕置きで済ませてあげるよ

サドラ
恋愛
浮気された主人公。主人公の彼女は学校の先輩と浮気したのだ。許せない主人公は、彼女にお仕置きすることを思いつく。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...