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男の子は女の子の諸事情を知る。

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「あー。の飯は美味かったなぁ」

「それ、恥ずかしいからやめてくれる?」

亜貴を駅まで送る帰り道。

駅から近いのがうちの家の良いところ。

大通りだが、この時間は既に人通りが少ない。
車道も、柵のある歩道側も、すっからかんだ。
電車が来るたび降りた人がポツポツと駅側から流れてくる程度だ。

「呼ぶクセつけとかないと純になってる間呼べないからな。
念のため」

「っ……もういいや」

フイッとそっぽを向くと、グッと肩を抱かれた。

「なっ…!」

何するんだ!

と反論しようとすると、後ろから自転車が通過していった。

っ……!


『俺が守ります』


あの声が、頭の中にこだました。

あれって、ただあの場の空気を読んで言った言葉で、そんな、深い意味は無いよね……?


だって、亜貴は、オレのこと、そういう意味で好きなんじゃ無いし……!

思わせぶりな態度も、そういうことでは……


「あー……」

「??」

「緊張した」

オレの肩を抱いたまま、オレの頭に顎を乗せた。

「な、何に?」

「純の兄貴達だよ。
圧かけられて、疲れた」

立ち止まって、グダッともたれる亜貴。

ちょっ…重い……!

こ、こんなの周りに見られたら、イチャついてるカップルじゃん!

「圧、なんて、兄貴達いつかけてたよ!?」

「純は鈍感だから気付かねーだろ」

ムカッ……!

なんなんだその言い草は……!

「でもこれで、兄弟公認だな」

フッと笑って、亜貴はオレの顔を覗いた。

「なっ……!?」

なんなんだその身内から攻めていくスタイルは!!

「純の兄弟は、飽きないな」

「え?」

「……兄弟って、いいな」

ふと、少しだけ寂しそうに答える亜貴に、困惑した。

そういえば、マニュアルにも亜貴の兄弟のことは書かれていなかった。

亜貴は、一人っ子なのだろうか?

一人暮らしで帰宅する、あの何とも静かで寂しい時間を思い出す。

亜貴だって、やっぱり寂しいんだ。

「ま、また来てもいいよ?」

「……翔にぃにも呼ばれたから、行くよ。
純、兄貴達の前では大人しくしてるからやりたい放題出来そうだし」

「なっ!?そ、そんなことはねーしさせねーよ!!!」

口角を上げてニヤリと笑う亜貴に、怒鳴りながらも少しホッとする。

よかった、いつもの亜貴だ。


「……腹、痛む?」

目線が降りたかと思うと、亜貴はそっとオレの手を握った。

指で指を撫でながら、いつもよりも感情を込めて聞いてくる。

「べ、別に……平気……」

「そ。
身体、冷やすなよ?」

そう言って、またゆっくり歩き出す。

手を繋いだまま。

なんだこれ、なんで心配されてんだ?

てか、なんか、妊婦とその夫みたいなこの会話はなんだ!?

「女って、強いな」

「は?」

「俺も、ある程度メンタルの強さには自信あるけど、今日初めて女の痛みが分かったわ。
そりゃ強くもなるわな」

「亜貴のメンタルは異常だろ。
人の言うこと聞きもしないし」

「純の言うこといちいち間に受けてたらズタボロだろうな」

ククッと亜貴は笑う。

それ、どういう意味だよ?

オレは結構まともなこと言ってると思うが。

「あー…明日入れ替わりたくねぇなぁ」

「なんで?」

「まだ生理だし、めんどくさい」

「はぁ!?ふざけんな!薬の場所は教えたし、用品持って学校来いよ!?」

「もうさ、俺んち泊まれ」

「はぁ!?」

「そんで子供作る?」

「っ!嫌だって言ってんだよ!!
なんで高校生がそんな……」

「じゃあ高校卒業したら結婚する?
今でも出来なくはないけど」

「バカか!?
付き合っても無いのに!!」

「付き合う?」

「だからっ……!」

顔を上げると、亜貴は真剣な顔でオレを見下ろしていた。

まただ。

この顔に、逆らえない。

「……じゃあさ、今度、練習試合あるじゃん」

「う、うん、5月の連休……」

相手も男女で部活がある高校だからと、うちの学校で合同で行われることになっている。

女子は並みの上ぐらいだが、男子は強豪だ。
県大会で準優勝の成績を持つチーム。
人数ギリギリのうちの男子では、正直言って張り合えそうにないと思っていた。

けど……。

「勝ったら、次の日の休み、デートしようか」

亜貴なら、やってしまうんじゃないかって、思ってしまった。



そして、練習試合当日。

亜貴は結果を分かっていたかのように、ワンゴール差ラスト1秒のところで、スリーポイントを放ち……。

たくさんのファンを増やした翌日。

オレとのデートを勝ち取るのであった。
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