地味な私が天敵俺様イケメン部長に娶られそうなんですがそれは

１０１．完敗

「お前を愛してたわけじゃない」

  まっすぐ私を見つめてそう告げられても、涙１つ出はしなかった。

  普段の私なら、『嘘つきー！！』とか、『なら別れましょう』とか、あっさり言えそうなものを。

  なんというか……完敗だった。

  私とのことなんて、比べるに値しない。
  事前にレオからある程度聞かされていたとはいえ、本人の口から聞くのとでは、重みが違いすぎた。

  当り前だ。
  私はニナさんの代わりにすらなれない。

  部長は今も、ニナさんを愛している。

「ニナに、死にたいと思わせたのは俺だ」

「それは違います…！」

  ニナさんは、命を賭けて部長を守ったんだ。

  部長の性格を分かっていながら。
  この人は酷く後悔すると知っていてもなお、ニナさんは、自分の命を捨てて部長を生かしたんだ。

  いくら私が地味で友達もいなくて、必要とされてなかったとしても、いざという時そんな風に死を選ぶことは出来ない。

  だからあの夜部長は、私の死にたい発言に過剰に反応したのか。

  私とニナさんを、重ねて。

  私の否定に対して、部長は優しく微笑むだけだった。

  私の意見で、汚したくないのだろう。
  死ぬ時ですら、大切なニナさんとの思い出なのだろうから。

 「ごめんな」

  そう一言で謝る部長の瞳は、あまりにも透き通っていて。

「お前を、ニナのようには愛せない」

  表情も変えずに、真面目な顔でそう言われても、どこを見ていいか悩んでしまった。

  ただ「はい」と返事を返して、続きを待つのみだった。

「終わりにしよう」

  触れられることもなく、婚約も忘れられたかのように、部長は自ら先に終わりを告げた。

  それに返事をして部長が出て行ってからは、記憶が曖昧で。


「三谷。
ボーッとするな。
仕事中だ」

「は、はい…すみません……」

  いつから見られていたのか、手の止まっている私を指摘して、スタスタと自分の席に戻っていく部長を、チラッと目で追った。

  あれから1週間が経った。

  今までと変わらない、関係を持つ前の上司と部下の関係に、戻っただけだ。

  それが、こんなに胸を冷たくするのは、何故なのだろう？

  嫌われるのなんて、慣れていたはずなのに…なんでこんなに哀しいんだろう。

  なんで、毎日泣いてるんだろう……。