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98.胸のうち
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「……悪かった」
肩を上げて息を吸い込み、目を下ろしてゆっくりと吐き出すように言葉を発する部長に、少しホッとする。
ちょっとは冷静になったの、かな。
物分かりの良い部長は、少しだけ幼く見えて、可愛い。
けど、私は、もう決めているから。
その決意だけは変わらない、から。
部長を、これから酷く傷つける。
部長の目を見て、後ろめたくなって目を背けた。
「……レオさん…に、血をあげる約束をしました」
「は……?」
これは、嘘。
私の嘘を、隠し事を、誤魔化すための。
食いついた部長はきっと気づいていない。
私の後ろめたさが、何にかかっているのか。
「咬んでもらうんです。
そしたら自由になれるって…」
「それは正気か!?
それに他の吸血鬼に吸われたところで刻印を消せるわけじゃない。
ただ刻印を持つ人の血を吸う吸血鬼は加減が効かなくなる。
まして、レオは人を憎む吸血鬼だ。
自分が言ってる意味分かってんのか!!
殺されるぞ!」
珍しく怒鳴る部長に、ビクッと身体を震わせる。
「分かってますよ!
でも…部長は私の血を吸わないんでしょ?」
確信を持って、そっと伺うと、部長は唇を結んだ。
困りきって眉を寄せる部長を見れば、図星なのは一目瞭然だ。
それが、少し、胸を締め付ける。
「レオさんから聞きました。
刻印は吸血をもって完全になるって」
あの車の中で聞かされた話を、ゆっくり口に出す。
「部長は私の血を吸わないと言いました。
それってつまり、まだ刻印は完成してないってことですよね?
私達の関係は、まだ仮でしかないんですよね?
だから、他の人の気を吸っていられるんですよね?」
なんとも、嫉妬めいた口ぶりに、自分でも驚いた。
顔に出してはいないか不安になるも、部長の顔を見る。
「何言って……!」
困惑した部長の表情に、ズキズキと肺の辺りが痛みを発した。
それでもちゃんと、突きつけなくちゃいけない。
最後に、確かめておかなくちゃ。
「私に会わない3日間、誰の気を吸っていたんですか?」
「っ……それは!」
言い淀み目を背ける部長を見て、胸の奥がキーンと冷たくなったのを感じた。
……もう、その顔だけで、充分です。
「部長は、私に何も話してくれない。
3日間何していたのか、何故離れる必要があったのか、何故私と本当の刻印を結ばないのか……」
「凛。俺は……」
恐らく、その言葉に続くのは謝罪と、私への優しさだったのだろう。
そんな柔らかな声音に胸の奥が沸き立ち、部長をキッと睨みつけた。
さっきの部長の気持ちが分かる気がした。
今は何も、聞きたくない。
「ニナって、誰ですか!」
顔を合わせた時、胸が傷んだ。
あの時の彼の表情を、私は一生忘れることは出来ないだろう。
何もかも悟ったかのような、泣きそうで、寂しそうで、それでいて胸の奥が熱くなるような、優しい眼差しで。
この表情はきっと、私ではなく…ニナさんに向けられた愛情なのだと思い知らされて、言ったことを後悔した。
でも、もう遅い。
終わった。
私達の関係は。
肩を上げて息を吸い込み、目を下ろしてゆっくりと吐き出すように言葉を発する部長に、少しホッとする。
ちょっとは冷静になったの、かな。
物分かりの良い部長は、少しだけ幼く見えて、可愛い。
けど、私は、もう決めているから。
その決意だけは変わらない、から。
部長を、これから酷く傷つける。
部長の目を見て、後ろめたくなって目を背けた。
「……レオさん…に、血をあげる約束をしました」
「は……?」
これは、嘘。
私の嘘を、隠し事を、誤魔化すための。
食いついた部長はきっと気づいていない。
私の後ろめたさが、何にかかっているのか。
「咬んでもらうんです。
そしたら自由になれるって…」
「それは正気か!?
それに他の吸血鬼に吸われたところで刻印を消せるわけじゃない。
ただ刻印を持つ人の血を吸う吸血鬼は加減が効かなくなる。
まして、レオは人を憎む吸血鬼だ。
自分が言ってる意味分かってんのか!!
殺されるぞ!」
珍しく怒鳴る部長に、ビクッと身体を震わせる。
「分かってますよ!
でも…部長は私の血を吸わないんでしょ?」
確信を持って、そっと伺うと、部長は唇を結んだ。
困りきって眉を寄せる部長を見れば、図星なのは一目瞭然だ。
それが、少し、胸を締め付ける。
「レオさんから聞きました。
刻印は吸血をもって完全になるって」
あの車の中で聞かされた話を、ゆっくり口に出す。
「部長は私の血を吸わないと言いました。
それってつまり、まだ刻印は完成してないってことですよね?
私達の関係は、まだ仮でしかないんですよね?
だから、他の人の気を吸っていられるんですよね?」
なんとも、嫉妬めいた口ぶりに、自分でも驚いた。
顔に出してはいないか不安になるも、部長の顔を見る。
「何言って……!」
困惑した部長の表情に、ズキズキと肺の辺りが痛みを発した。
それでもちゃんと、突きつけなくちゃいけない。
最後に、確かめておかなくちゃ。
「私に会わない3日間、誰の気を吸っていたんですか?」
「っ……それは!」
言い淀み目を背ける部長を見て、胸の奥がキーンと冷たくなったのを感じた。
……もう、その顔だけで、充分です。
「部長は、私に何も話してくれない。
3日間何していたのか、何故離れる必要があったのか、何故私と本当の刻印を結ばないのか……」
「凛。俺は……」
恐らく、その言葉に続くのは謝罪と、私への優しさだったのだろう。
そんな柔らかな声音に胸の奥が沸き立ち、部長をキッと睨みつけた。
さっきの部長の気持ちが分かる気がした。
今は何も、聞きたくない。
「ニナって、誰ですか!」
顔を合わせた時、胸が傷んだ。
あの時の彼の表情を、私は一生忘れることは出来ないだろう。
何もかも悟ったかのような、泣きそうで、寂しそうで、それでいて胸の奥が熱くなるような、優しい眼差しで。
この表情はきっと、私ではなく…ニナさんに向けられた愛情なのだと思い知らされて、言ったことを後悔した。
でも、もう遅い。
終わった。
私達の関係は。
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