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69.親の心子知らず

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 落ち着け、私。
 母が何か探りを入れてるわけじゃない…というか、そもそも別に疚しいこともないし、私が脅されているとかでもない。

 私が母に隠していることがあるとすれば、彼が吸血鬼であるということ。
 それ故にご飯は食べられなくて、刻印の影響で私を嫁にしなくてはならないだけで、お互い本当に好きなわけじゃないということ。

 あ、愛してるなんて言われたけど、あんなの口にするのは誰だって出来るーーし、裸見られたしその上全身にキスされたけど、軽い男なら誰とでも寝れるわけで、そういうことだってきっとーーあるわけで。

 お椀を啜ると、母のいつもの濃い味噌汁の熱がじんわりと身体を流れていくのが分かる。
 まるで内側からなぞられるようだと思った時、部長のあの金色の瞳が目に浮かんで、ドキッとした。

 あの、人を狩る肉食動物の、命を吸い取ろうというような研ぎ澄まされた瞳は、いつも私の唇に触れて、まるで恋人のように惑わす。

 私はあの瞳に見つめられながら、毎日のようにーーキスをしているのだ。

  側から見たら確実にそれは、恋人同士のコミュニケーションで。
  今更それを否定することは出来ない。

  だとしても、多分、お互いに恋愛感情は無くて、刻印という名の契約の元、生きるのに必要だからキスしてるだけで……。

『婚約は予約だと俺は思う』

  予約……。
  脳裏に浮かんだ彼の姿に、目を下ろした。

  私を予約して、彼になんのメリットがあるのだろう?
  こんな出来損ないの私なんかと子供を作っても、いい子なんて産まれて来ないだろうに……そんなことは、私を指導してる部長が一番良く分かっているはずだ。

  どうして、それに従わなくちゃいけないんだろう?
  どうしてこうも淡々とことが進むんだろう?

  というか……そんな曖昧な関係の私達を、何故母達はこんなに歓迎するのだろうか。

  普通の親なら『うちの娘はやらん!』とか、そういうドラマみたいなのがあってもいいと思うんだけど…。
 
  いくら家の色々直してリフォームしてもらったり、欲しかったものをもらったからって、あっさりし過ぎてない?

  やっぱり出世コース待ったなしのエリート部長だからなの!?

「そんな難しい顔してどうしたの?」

  段々と別な感情が沸き起こってきた私を不思議そうに覗き込む母が見えて、ハッと顔を上げた。

「う、ううん!  何でもない!!
ま、マリッジブルーってやつ!?」

  必死に絞り出したワードに、内心落胆する。
  
  自分でそれ言ってどうすんのよ……。
  マリッジじゃないし。

  また彼の都合の良い言い方してるじゃないか。
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