地味な私が天敵俺様イケメン部長に娶られそうなんですがそれは

５８．年齢発表！ 彼は現在ーー

「あの、冗談でも今みたいなのはやめてください！
私の寿命が縮みます」
「それは困るな。
お前には後100年は一緒にいてもらわねーと」

  ただでさえ冗談で済まない事象で、今もしかしたら私がパニックになり心臓発作起こして死んでたかもしれないというのに、部長はまたそんなことを言い出す。
  
「100年って……私をどんだけお婆さんにしたいんですか」
「そうだな……まぁ、長く生きるに越したことはないな」

  一瞬、一瞬だけど、部長の瞳が陰ったのを、私は見逃さなかった。

  部長にとって、100年なんてあっという間なのだろう。
  部長は歳を取らないのだから。

  だから、つい口にしてしまったのだろうが……。

「……そんな顔するなら、言わなきゃいいのに」
「なんか言ったか？」

  ボソッと心の声を漏らせば、すかさず部長が突っ込んで来て、ビクッと背筋を伸ばした。

  また危険運転されては大変だ！

「い、いえ、別にーー」
「まぁそうだな、俺にとっての100年はほんの一瞬でしか無いからな」

  弁解する私に口を挟んで、部長は肘をつき、顎を乗せる。

  ……聞こえてるし掘り下げるのかい！

  思わずそう返したくなるも、グッと堪えて深呼吸した。

「いつ産まれたとか、覚えているんですか？
その、人間だった時、とか……」
「まぁ、記憶にはあるだろうよ。
今すぐ思い出せって言われても、あんまり浮かばねーけどな。
飯がマズかったのは覚えてる」

  目を細めてフッと笑みを溢す部長。
  その表情は懐かしんでいるようだったが、どこか寂しげだった。

  やっぱり、当時に戻りたいと思うことも、あるのだろうか……。

「あ、コーヒーの味が云々って前に言ってましたよね？
コーヒーの起源は江戸時代だって調べたら出て来たんですけど……」
「お前、案外細かいな。
俺のことが気になったのか？」

  片眉を上げてニヤリと悪魔の笑みを浮かべ始める部長に、慌てて首を振った。

「違いますよ！
苦味は分かる、みたいな話です！
もしコーヒーのことを知っている日本人だったのだとしたら、江戸時代がその、始まりだったんじゃないかと……」
「ほう……？」

  一度チラリと視線をこちらに向け、また正面に向き直る。
  もうインターを降りるからだ。
  というか、私の実家の住所勝手に調べて……ホントに抜け目のない人だ……。

 「わざわざありがとな。
残念だが、ハズレだ。
俺が生きてたのは戦国時代だよ」

「なっ…ちゃんと分かってるんじゃないですか！」

  ポン……というETCの高いベルが車内に響いたと思えば、部長はフンと鼻で笑った。

「当たり前だ。
俺を誰だと思ってんだ」

  ニヤリと口角を上げる部長に、はぁ…とため息を落とした。

「そうですね…侮ってました。
てことは、戦国時代が大体1500年前後として、部長の年齢はーー」
「27だ」

  久々に信号に会い、赤信号で車が停車したと同時に、目の前にバッと姿を現した部長によってシートと板挟みにされた。
  ビクッとして、油断していた為に一瞬空気を飲んでしまった。

「27歳だ、よな？」

  ヤバイ、目が圧をかけてくる。
  というか、口角上がってるのに目が笑ってない！！
  その牙見せた状態のその目、めっちゃ恐いから！！

「そ、そうですね…た、たぶん……」

  瞬きもせずにジッと見つめられた為に、とうとう声が裏返った。

「よしよし、いい子だな」
「……は、ははは……」

  部長はご機嫌に目を細めて、私の頭を大げさに撫でた為に縛っていた髪がボサボサになってしまったが、愛想笑いで事なきを得た。
 
  500歳に子供扱いされたら…相手がどんなに子供な性格でも、ね、言い返せないよね。