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52.嘘をついているのは?

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  触れるか、触れないか。
  耳元に近付けられた唇に、神経が集中していた時。

「……愛してる」
「え?」

  囁かれた言葉に、耳を疑った。
  部長は離れて、今にも泣き出しそうな弱々しい顔で、また呟く。

 「凛を愛してる」

  あ、愛してるって……なんでそんなことが言えるの?

「勘違いですよそれ…なんで部長がそんな嘘を言えるんですか!」
「嘘じゃ無い」
「嘘ですよ!  部長は自分に嘘を付いてますよ!
そりゃ、私が刻印の相手で、ガッカリして…そうやって嘘でも付かなきゃやってけないのかもしれませんが」
「俺がガッカリしてるように見えんのか?」

  輝く瞳を細めて、眉をひそめる部長に、何故かまた悲しくなって涙が滲んだ。

「だって、おかしいですもん!
最初だってあんなため息混じりで…それに、城島さんだっていて、好きな人が、いたはずなのに、なんでそんな虚勢を…」

「お前こそ、自分に嘘ついてるだろ」
「っ……!?」

  顔を隠そうとした腕を抑えられて、強制的に向き合わされた。
 逸らしたいのに、動けない。

  確信を突くかのように、部長は真剣な表情で私を見下ろしていた。

  私が、嘘をついている?  自分に??

「私、嘘なんて…!」
「お前は自分に自信が無さ過ぎる。
だから、俺が貰ってやるよ」

  貰うって……!
  
「やっ……部長……!」

  片手が外されたと思えば、簡単にシャツを脱がされ、自由になった腕で防ごうとするも、すぐに抑えられてしまう。

「隠すな」
「や!  嫌です部長……あ!」

  鎖骨にキスをされると、ドキッと心臓が高鳴った。

  抵抗出来ないのに、嫌なのに、なんで、ドキドキしてるの……?

「なんで?」
「なんでじゃないですよ!  
そりゃ恥ずかしいし、き、汚いです…」

  シャワーも浴びてない私の肌なんて。

  しかし部長は私の前髪をそっと撫でると、目尻にキスを落とした。

「…お前は綺麗で、魅力的な女だよ」
「……んっ……」

  そっと肌にキスが落ちれば、神経が過敏に反応する。

  部長のキスは本当に不思議だ。
  反感も、苛立ちも、恐怖も無くなって、心が穏やかになる。
  そして生暖かい唇に触れられるたびに、胸の奥が熱くなる。
  
  もっとして欲しいと、思ってしまう。

「そうじゃなかったら、側に置かない」
「っ…でも……」
「仕事もそうだ。
そうじゃなかったら、期待しない。
介抱の為といって自宅に連れ帰ることもない」

  甘味な声が、私の肌に吹きかけられる。

「……ずっと、近くに居たんだ。
これ以上の運命がどこにある?
この何億もいる世界で、短い人生の中で、俺に会う確率が、どれくらいあると思う?」
  
  部長が輝く瞳で見上げることに、ドクンとまた心臓が跳ねる。

  なんで、こんな気持ちになってしまうのだろう?
  嫌いなのに…好きみたいじゃないか。

「ずっと、お前に会うのを待ってた。
この数百年、お前を愛するために生きてきた」

  部長はまた身体を上げて、私の髪を撫でた。

「だから、お前も俺の為に生きろ。
それがお前の生きる理由にしろ。
絶対、死ぬなんて考えるな。
寿命を全うするまで、俺が側にいる」

  ーー死が2人を別つまで。

  そんな言葉が似合う、真剣な瞳だった。

  でも、本当にそれがいいことなの?
  私が死んだら部長は…どうなるの?

「部長…」
「名前で呼べ」
「ん……」

  腹部にキスが降りて、ビクッと身体が揺れた。

「……嫌です…部長……ホント、汚いですから……」
「……自信つけてやるよ」
「え?」

  スカートのチャックに手を伸ばされて、思わず息を飲んだ。

「全部、見てやる。
お前がどんなに綺麗で、魅力的か、俺が知っておいてやる」
「っ……部長……!」

  ズルッとスカートが降ろされて、抵抗するように部長の頭に手を乗せた。

  しかし部長はその手を取って、手の甲にキスをする。

「凛……お前は俺だけに見られていればいい。
俺だけがお前の良さを知っていればいい。
お前は、俺の生きる意味だ」

「っ、あぁ……」

  太ももを撫で上げる部長の手が熱く感じる。
  不思議と、息が漏れてしまう。

「部長……!  あ……」
「凛……」

  優しい声が降ってきて、キスされる。
  抱きしめる腕が、背中を回り、ホックを外した。

「あ……」

  漏らした声に反応して、瞼を上げた部長の惑わすような黄金の瞳は、フッと儚げに微笑んだ。

「綺麗だ……凛。
愛してる」
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