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50.死んだ方がいい
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「……いつから、気付いてたんですか?」
「何が」
帰りの車の中で、私はいつものように窓の外を眺めていた。
「合コンの件、です。
柳生先輩や、立川さんのこととか…」
何か知ってたから、部長はあの場所に来たのだと思った。
最初から、失敗すると思っていたのかも。
「別に…婚約者の相手が務まるような男はいねーと思ってたよ。
お前がいなきゃ家に居ても暇だし、時間潰してたつもりだったんだがな。
まさか3人と出てくるとは……」
「ち、違います!
あれはあの人達が勝手に……!」
「お前あの時メガネ外したろ」
部長は横目で私を見た。
あの時、誰かが勝手にポケットの中に入れてしまい、その後ずっと腕を組まれたりしていたから気づかなかったのだ。
「は、外してましたけど…」
「お前は自覚ねーんだろうけど、人を惹きつけるからな」
「意味が分かりません」
プイッとまた視線を逸らす私を見て、部長は穏やかな声で言った。
「…刻印するような女は、本人の意志に反して気を放ってる」
「気……?」
たまに部長が口にする言葉だった。
振り向くと、部長は私の手にそっと触れた。
「吸血鬼に見合う女は普通の人間より気が強い。
じゃねーと簡単に吸い殺されるからな」
「っ……!」
慌てて手を引っ込めると、部長は少し眉をひそめてまた正面に向き直る。
「……気は人にも影響する。
一番は目が合うことなんだ。
お前の場合そのダセーメガネで、あんまり人と目を合わせねーから、気付かれないだけ」
「……メガネ……」
あの時メガネを外していなかったら、私が泣いたりしなければ……?
一気にさっきのことが浮かんできて、グッと拳を握った。
「……そんなに私って、魅力無いんですね」
「は? 何言ってんだ」
「だって、メガネ外すまで、誰も私なんか見向きもしませんでしたよ?
部長もそう。
私がたまたまメガネをかけてなかったから、刻印しちゃったわけで、それが無かったら何も…」
「三谷?」
ズキズキと胸が痛んで、両拳を胸に押し付けた。
「私、引き立て役だったんです。
同期にも、先輩にも、利用されて……!
私が、地味で、バカで、何も分かってないから……!」
俯けば、またレンズにポタポタと涙が溢れる。
メガネを取って、落ちる涙を拭った。
「でも結局私も、利用するつもりでいたんです。
部長と離れるには、彼氏でも作るのが一番かなと思って。
今日しかないって、思ったんです。
職場の人と一緒に遊ぶとか、本気じゃなくて。
部長にも嘘つきました」
部長は何も言わず、ただ車を走らせていた。
だけど胸の奥から込み上げてくる衝動は、抑えられなくて。
「私、最低な女です。
地味でドジでバカなだけじゃなくて。
平気で人を裏切るし、傷付けるし、利用しようとして、でも失敗ばかりで、何の取り柄もなくて…ダメな女です。
メガネを外さないと人に見てもらえない残念な奴です。
なんで生きてるか、不思議なくらいです」
「…三谷」
部長に呼ばれても、顔は上げられなかった。
涙が止まらない。
そんな声で、呼ばないで。
「私、これからも部長を裏切ります。
裏切り続けます。
きっと、もっと最低なことします。
だって、私、最低な人間ですもん。
好きな人だって出来ないのに、急に結婚相手が見つかって、でも我儘だから嫌がってばっかで…絶対、傷付けます。
やめた方が良いです。
運命とかもう、いらないです。
部長は私を嫌ったままでいてください。
もう、私を構わないでください」
ちょうど車庫入れしたようで、車のエンジンが止まった。
「それでも俺は……」
その先なんて聞きたくなくて、ギュッと目を閉じて、叫んだ。
「私みたいな奴は、死んだ方がいいんです!!
もう、死んでしまいたいです……」
生きる価値なんて、無い……!
「何が」
帰りの車の中で、私はいつものように窓の外を眺めていた。
「合コンの件、です。
柳生先輩や、立川さんのこととか…」
何か知ってたから、部長はあの場所に来たのだと思った。
最初から、失敗すると思っていたのかも。
「別に…婚約者の相手が務まるような男はいねーと思ってたよ。
お前がいなきゃ家に居ても暇だし、時間潰してたつもりだったんだがな。
まさか3人と出てくるとは……」
「ち、違います!
あれはあの人達が勝手に……!」
「お前あの時メガネ外したろ」
部長は横目で私を見た。
あの時、誰かが勝手にポケットの中に入れてしまい、その後ずっと腕を組まれたりしていたから気づかなかったのだ。
「は、外してましたけど…」
「お前は自覚ねーんだろうけど、人を惹きつけるからな」
「意味が分かりません」
プイッとまた視線を逸らす私を見て、部長は穏やかな声で言った。
「…刻印するような女は、本人の意志に反して気を放ってる」
「気……?」
たまに部長が口にする言葉だった。
振り向くと、部長は私の手にそっと触れた。
「吸血鬼に見合う女は普通の人間より気が強い。
じゃねーと簡単に吸い殺されるからな」
「っ……!」
慌てて手を引っ込めると、部長は少し眉をひそめてまた正面に向き直る。
「……気は人にも影響する。
一番は目が合うことなんだ。
お前の場合そのダセーメガネで、あんまり人と目を合わせねーから、気付かれないだけ」
「……メガネ……」
あの時メガネを外していなかったら、私が泣いたりしなければ……?
一気にさっきのことが浮かんできて、グッと拳を握った。
「……そんなに私って、魅力無いんですね」
「は? 何言ってんだ」
「だって、メガネ外すまで、誰も私なんか見向きもしませんでしたよ?
部長もそう。
私がたまたまメガネをかけてなかったから、刻印しちゃったわけで、それが無かったら何も…」
「三谷?」
ズキズキと胸が痛んで、両拳を胸に押し付けた。
「私、引き立て役だったんです。
同期にも、先輩にも、利用されて……!
私が、地味で、バカで、何も分かってないから……!」
俯けば、またレンズにポタポタと涙が溢れる。
メガネを取って、落ちる涙を拭った。
「でも結局私も、利用するつもりでいたんです。
部長と離れるには、彼氏でも作るのが一番かなと思って。
今日しかないって、思ったんです。
職場の人と一緒に遊ぶとか、本気じゃなくて。
部長にも嘘つきました」
部長は何も言わず、ただ車を走らせていた。
だけど胸の奥から込み上げてくる衝動は、抑えられなくて。
「私、最低な女です。
地味でドジでバカなだけじゃなくて。
平気で人を裏切るし、傷付けるし、利用しようとして、でも失敗ばかりで、何の取り柄もなくて…ダメな女です。
メガネを外さないと人に見てもらえない残念な奴です。
なんで生きてるか、不思議なくらいです」
「…三谷」
部長に呼ばれても、顔は上げられなかった。
涙が止まらない。
そんな声で、呼ばないで。
「私、これからも部長を裏切ります。
裏切り続けます。
きっと、もっと最低なことします。
だって、私、最低な人間ですもん。
好きな人だって出来ないのに、急に結婚相手が見つかって、でも我儘だから嫌がってばっかで…絶対、傷付けます。
やめた方が良いです。
運命とかもう、いらないです。
部長は私を嫌ったままでいてください。
もう、私を構わないでください」
ちょうど車庫入れしたようで、車のエンジンが止まった。
「それでも俺は……」
その先なんて聞きたくなくて、ギュッと目を閉じて、叫んだ。
「私みたいな奴は、死んだ方がいいんです!!
もう、死んでしまいたいです……」
生きる価値なんて、無い……!
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