地味な私が天敵俺様イケメン部長に娶られそうなんですがそれは

天野 奏

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31.その名前で呼ぶのは

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「……私には、部長が分かりません」
「いいよ。
もっと俺のこと知ればいい」

  目を逸らすと、頭に大きな手がポンと乗せられた。

「疲れたろ?  ベッド使っていいから、今日はもう休め」
「……部長の、は……」
「して欲しいの?」

  顔を降ろされて目が合って、またドキッとする。
  
  何を言ってるんだ私は!!
  自分からき、キスしたいと、言っているようなものではないか!

「クク……今日は十分貰ってるからな。
あんまり吸い過ぎて明日も仕事中ミスされても困るし」
「そ、それは……」
「だから寝とけ」
「よ、夜のうちに襲ったりとか、しないですよね……?」
「しない。
俺はあっちのソファーで寝るから。
……ここを自分の家だと思っていい」

  なんだかいつもと違う、優しい表情を見せる部長に、目を逸らした。

「おやすみ、凛」
「っ……!」

  隙を付くように、額にキスされて、次の瞬間には突風が吹いて、息を飲んだ。

  ガチャン、と玄関が閉まる音がして、部長が外に出たんだと分かった。

  車の荷物、かな?
  さっき、私を抱いて来た時には持ってなかっただろうから……。

  キスされたところに手を触れて、時間差でジュ~っと顔が焼けるように熱くなった。

  今、今、凛って……!
  凛って、呼んでた、よね!?

  ドクン、ドクンと、心臓の鼓動が耳の奥まで響く。

  履いたままだったパンプスを、裏を合わせて床に置き、メガネをサイドテーブルに置いて、部長が帰ってくる前にと慌てて布団に入り、身を丸めた。

  私、チョロ過ぎ!  チョロ過ぎる!

  名前を呼ばれたくらいで。
  キスされたくらいで。
  笑顔を見せられたくらいで……。

  こんなに、ドキドキしてしまうなんて。

  どうせ私は、刻印の相手、だからなわけで。
  何も関係が無ければ、こんな風に接してもらえるわけではないのに。
  必死に振り向かせようとなんか、されるわけないのに。

  夢、見過ぎだわ、私。
  本気で相手されるわけ、無いのに。

  部長が帰ってくるまでに寝ないと、いけないのに。

  まだ、ドキドキしてる。
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