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29.アレだけは見られたくない
しおりを挟む「……部長?」
思わず声をかけてしまった。
まるでキスを待っていたかのような、急かしているかのような声掛けに、ヒヤッとする。
しかし、部長はフッと笑って、私の頭に手を乗せて一撫ですると、いつの間にかベッドから降りて立ち上がっていた。
「さて、帰るぞ。
どうせ寝てて準備も出来てねーんだろ?
飯も食ってねーんだろうし、なんか作ってやるよ」
「えっ、いや、私、行かないです!」
「は? なんで」
「だ、だって…私やっぱり、結婚は好きな人と、じゃないと……!」
ドスの効いた声と視線で凄まれたが、身体を起こして負けずに言い返すと、彼は呆れたようにフッと笑ってまたこちらに向き直る。
「俺以上の男には二度と会えないぞ?」
「そ、そんな自信どこから来るんですか!
だいたい、私は部長のこと…」
「俺のこと何も知らないくせに、嫌うのか?」
視線を合わせられて、慌ててタオルを抑えて身体を隠す。
しかし特にそのことには触れられず、そしてまた透き通った眼力で見つめられて息がつまる。
「し、知ってます。吸血鬼ですよね?」
「それは一部だろ?」
「ぶ、部長だって、私のこと嫌いじゃないですか」
「嫌ってるから仕事中辛く当たってるとでも思ってんのか?」
「違うんですか……?」
「ああ違う。
だから、もっと俺を見ろ」
頬をガシッと掴まれて、逸らしていた視線を戻される。
「お前は俺と刻印で結ばれてる。
俺以上にお前を理解出来る奴も、お前を愛せる奴もいねーんだよ。
絶対お前は、俺を好きになる。
後悔はさせない。
だから、一緒にいろ」
「あ、愛すって……」
そんな恥ずかしいセリフをよくも簡単に口に出して……と目を背けたくなるも、この命令口調の中で懇願するような掠れた声に、それ以上何も言えなかった。
胸が、苦しくなった。
なんだか、悲しんでいるように思えて。
「じゃないと、テキトーにその辺漁って荷物詰めて持ち帰るからな。
下着とか何から何まで全部な」
「は!?」
悪い笑みを浮かべてスッと手が離れたと思えば、ガタッという音と共に背後から音がして、ハッと気付いた時には「中々良い型の持ってるじゃん」と独り言を呟きながらスーツケースを開けようとする杉村部長がいた。
それ、押入れに入れてたやつ……!
まさか、ホントにやるつもり……!?
じゃあアレも、見られちゃうかも……!?
「ま、待ってください! 分かりました! 降参です!!
い、一緒に行きますから!
待っててくださいお願いします!!」
ペコペコと頭を下げる私を見下ろし、部長は太々しくニヤつきながら「分かればよろしい」と犬を扱うように頭を撫でる。
「じゃ、飯作るから、さっさと着替えて準備しろよ?」
そう言って牙を見せて笑いながら、人の速さで寝室を出て行った。
部長の鬼! 悪魔!!
そう内心悪態をつきながらも、胸のドキドキは止まらなかった。
胸元に手を当てて、手に響く心音を感じる。
ふと、疑問が生じた。
どうしてさっき、部長は温かかったんだろう?
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