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16.偽・平常運転
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「おはよう三谷さん」
「ひ! あ……お、おはようございます、城島さん……」
会社のビルのエレベーターの前で肩を叩かれ、思わず声を上げてしまった。
しかし城島さんはそこまで気にすることなく、むしろ両手を合わせて少し頭を下げた。
「一昨日はごめんね! 家近いらしいから部長に任せちゃって!」
「あ……あは…HA…..」
大丈夫です、とは返せなかった。
あれだけ部長の悪口を言った後に本人に介抱されて自宅に運ばれたなんて。
「あの後大丈夫だった? 部長のことだし、何にもしないと思ったから頼んじゃったんだけど……」
「え、えと……」
全くもって大丈夫なんかじゃなかった!
キスされて、刻印の相手だとか、俺は吸血鬼だとか言われてーー夢なら、冷めて欲しい、けど……。
「おい三谷」
「っ! ひっ!! お、おおおおはようございます杉村部長!!」
噂をすればなんとやら、だ。
エレベーターが到着し、扉が開くと同時に、目の前で待ち構えていたのはこの話題の張本人。
しかも、少し不機嫌でいらっしゃる。
眉を眉間に寄せ、腕を組み、ど真ん前で仁王立ちする辺り、普通じゃない。
それこそ私の低い目線からだと、巨人に見下ろされているかのようだ。
週初めの朝から、この調子か……と思いつつも、やはりそれ以上に彼の秘密の方が頭に引っかかり、萎縮する。
だって彼は、人間じゃないんだもの。
「何ひーひー言ってやがる。
ちょっと来い」
「え…は……ちょっと……!」
ビクッとしたところで、部長は引く気がないらしく、私の腕を掴むと左の廊下をつき進む。
後ろで城島さんが申し訳なさそうな顔をしているが……ホント助けて欲しい。
だって、「おい三谷」は説教の始まり文句だけど、理由を言わないことなんてほとんどないんだから……。
「っ……!」
連れてこられた3台の自販機に囲まれた休憩所で、スッと彼が動きを変えたと思えば、すぐに壁に押し付けられる。
片方の手は私の肩に、もう片方は入り口の壁に、まるで挟み込まれたように張り付いている。
壁ドン……そんな甘い、いつかやられてみたかった少女漫画あるあるも、人間じゃないこの人相手だと、恐怖でしかなかった。
早朝なこともあって、誰もこの場所を利用する人はいない。
コンクリートの壁で覆われたこの社内では音は漏れにくい。
エレベーターから離れたこの場所は、今一番人気の無いところ。
それが、救いであり地獄だ。
「す、杉村ぶちょ……」
「お前、なんで逃げんだよ」
「は……だって、それは……っ!」
勇気を振り絞って名前を呼んだのに、遮るように鋭い声で間を割られて、その上反論をさせる気は無いようで唇を彼のそれで塞がれる。
ひんやりした唇に、ほんのりと熱が灯るのを感じて、慌てて振り払おうとするも、グッと手首を押さえ込まれた。
「ん、んん……っぷぁ! 部長!」
息の仕方が分からずに苦しくなって顔を逸らし、叱咤するも、杉村部長は金色に輝く異質な瞳で私を見つめ、優しい手つきで頬を撫でる姿に目を奪われた。
まるで抵抗出来ない。
それはもう、私達の関係は、昨日で変わってしまったことを示しているかのようだ。
「刻印は絶対だと教えたはずだ。
それにもう、婚約した仲だろ?
お前は、俺から逃げらんねーよ。
だから、俺のモノになっとけよ」
そう言って、冷えた指で私の顔を固定して、食事を始める。
ああもう、夢なら覚めて欲しいのに。
昨日の婚約は嘘だと、言って欲しい。
「ひ! あ……お、おはようございます、城島さん……」
会社のビルのエレベーターの前で肩を叩かれ、思わず声を上げてしまった。
しかし城島さんはそこまで気にすることなく、むしろ両手を合わせて少し頭を下げた。
「一昨日はごめんね! 家近いらしいから部長に任せちゃって!」
「あ……あは…HA…..」
大丈夫です、とは返せなかった。
あれだけ部長の悪口を言った後に本人に介抱されて自宅に運ばれたなんて。
「あの後大丈夫だった? 部長のことだし、何にもしないと思ったから頼んじゃったんだけど……」
「え、えと……」
全くもって大丈夫なんかじゃなかった!
キスされて、刻印の相手だとか、俺は吸血鬼だとか言われてーー夢なら、冷めて欲しい、けど……。
「おい三谷」
「っ! ひっ!! お、おおおおはようございます杉村部長!!」
噂をすればなんとやら、だ。
エレベーターが到着し、扉が開くと同時に、目の前で待ち構えていたのはこの話題の張本人。
しかも、少し不機嫌でいらっしゃる。
眉を眉間に寄せ、腕を組み、ど真ん前で仁王立ちする辺り、普通じゃない。
それこそ私の低い目線からだと、巨人に見下ろされているかのようだ。
週初めの朝から、この調子か……と思いつつも、やはりそれ以上に彼の秘密の方が頭に引っかかり、萎縮する。
だって彼は、人間じゃないんだもの。
「何ひーひー言ってやがる。
ちょっと来い」
「え…は……ちょっと……!」
ビクッとしたところで、部長は引く気がないらしく、私の腕を掴むと左の廊下をつき進む。
後ろで城島さんが申し訳なさそうな顔をしているが……ホント助けて欲しい。
だって、「おい三谷」は説教の始まり文句だけど、理由を言わないことなんてほとんどないんだから……。
「っ……!」
連れてこられた3台の自販機に囲まれた休憩所で、スッと彼が動きを変えたと思えば、すぐに壁に押し付けられる。
片方の手は私の肩に、もう片方は入り口の壁に、まるで挟み込まれたように張り付いている。
壁ドン……そんな甘い、いつかやられてみたかった少女漫画あるあるも、人間じゃないこの人相手だと、恐怖でしかなかった。
早朝なこともあって、誰もこの場所を利用する人はいない。
コンクリートの壁で覆われたこの社内では音は漏れにくい。
エレベーターから離れたこの場所は、今一番人気の無いところ。
それが、救いであり地獄だ。
「す、杉村ぶちょ……」
「お前、なんで逃げんだよ」
「は……だって、それは……っ!」
勇気を振り絞って名前を呼んだのに、遮るように鋭い声で間を割られて、その上反論をさせる気は無いようで唇を彼のそれで塞がれる。
ひんやりした唇に、ほんのりと熱が灯るのを感じて、慌てて振り払おうとするも、グッと手首を押さえ込まれた。
「ん、んん……っぷぁ! 部長!」
息の仕方が分からずに苦しくなって顔を逸らし、叱咤するも、杉村部長は金色に輝く異質な瞳で私を見つめ、優しい手つきで頬を撫でる姿に目を奪われた。
まるで抵抗出来ない。
それはもう、私達の関係は、昨日で変わってしまったことを示しているかのようだ。
「刻印は絶対だと教えたはずだ。
それにもう、婚約した仲だろ?
お前は、俺から逃げらんねーよ。
だから、俺のモノになっとけよ」
そう言って、冷えた指で私の顔を固定して、食事を始める。
ああもう、夢なら覚めて欲しいのに。
昨日の婚約は嘘だと、言って欲しい。
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