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13.それは……どういう意味ですか

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「そ、それは……どういう意味で……」
「そのまんまだろ。
俺の気が狂ってるように見えるか?」

  こともあろうにこのイケメン部長は眉間にシワを刻み真剣な表情で私を見ている。

  いやいや……大真面目におかしいこと言ってますって!!

「み、見えます!!  ちょっと、ヤバそうです!」
「は?」
「ひっ!  あ、あの、熱でもあるんじゃないですか!?  ちょっと病気っていうか……」

  どこぞのヤクザとも思えるような声音を出す杉村部長に狼狽えて、反射的に誤魔化す。
  動悸が起きてる上にグルグルと目が回り、頭がオーバーヒートしている中で自分で言った熱というワードだけを頼りに、無意識に部長の額に手を添えた。

  ピタッ……と手に触れた大理石のような白い肌に、ゾクッと背筋が凍る。

  う、うわ、部長に触ってしまった……自分から!!
  
  と思う反面で、その触れた肌に違和感を覚えて、息を飲む。

「ぶ、部長、体温低く無いですか!?
なんか、つ、冷たいんですけど……!」

  人の体温というのは大体36度に保たれてるはずだ。
  額のように露出した部分が標準時少し低いのはなんとなく理解出来る。

  ……が、部長のはその程度じゃない。

  私が熱くなっているからというのが関係しているにしても、部長のそれはまるで鉄に手をつけた時のような、冷えた金属に近い冷たさがあった。
  冬の雪道を帰る道中指が冷たいと感じるのと同じくらい、ほのかな体温で、凍死寸前なのではないかと思うくらい……。

  もう梅雨なのに、外気よりも低いと感じた。

「見ただろ?」
「え?」

  額に乗せた手の手首を引かれたと思えば、案外優しく首筋に移動させられて、ひんやりした肌に吸い付くように置かれる。
  
  トクーー……。

  少し温もりのあるーーそれでもやはり低体温だがーー部長の首の中で一瞬、血管が小さく脈を打つのが分かった。
  だが、それだけ。
  その音に続くべき脈拍が、聞こえてこない。
  そのあるべきものが無い違和感に、手が痺れるような気持ち悪さを感じた。
  
  杉村部長は嫌悪感に震える私を、瞬きもせず、一点も逸らさずに見つめていた。
  その瞳に魅入られた瞬間、目を逸らせなくなった。
  私の時が止まってしまったかのように、静かな時間が流れたと思えば、時計の代わりにもならない脈がようやくもう一度指を震わせた。

「俺の心拍はとは違う」

  ヒトーー頭の中で繰り返した時、今度はグイッと腕を引かれ、瞬きをする暇も無しに唇をそれで塞がれた。

「んっ!  ちょっと……っ!!」

  隙を突かれたことに焦って押し返すと、目の前の杉村部長に心臓が大きく跳ねた。

  キスの瞬間は閉じていた瞼がゆっくり開かれ、そこには先程目にした金色こんじきに輝く、まるで傾き始めた時の射し込む夕陽のような美しい瞳が私を見つめたのだ。

  その光のような瞳に息をするのも逃げることも忘れていると、光が見えたのはほんの一瞬で、またすぐ漆黒の深い瞳に戻った。

「それは……なんなんですか……」

  部長が瞬きするのを見てようやく呪縛が解けたかのように、肩でゆっくり息を吐きながら、気づけば思った言葉が漏れ出していた。

  まんまと腕の中に収まって怯えている私を前に、部長は恐ろしく楽しそうにニヤリと口角を上げ、目を細めて笑った。

  八重歯の位置に、少し長めの牙を見せて。

「俺は、吸血鬼ヴァンパイアだ」

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