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104.レオの食事

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「……哀れなやつだな」
「っ……ほっといてください」
「やだね」

  小さくため息が聞こえてまた貶された、と思えば、また顔が近づいてきて、頬を握られ無理やり目を合わされた。
  先ほどとは変わり、口元に笑みを浮かべ、目をギラギラと光らせているレオに、背中がゾワゾワと危険信号を発する。

  これは…知ってるヤツだ。

 「……何ですか」
「殺しはしないけど、一時的にエサにするのはありだなと思って」
「はい?……っ!」

  レオが触れる首筋に、ヌルッと湿りがあるのを感じた。
  さっき、爪を立てたから……血が……!

「俺、こう見えて結構加減出来る方なんだぜ?
ちょっと、慰めてやろうか」
「な……何言って……あっ!」

  フッと圧がかかったと思えば、首筋にレオの顔が沈んで、さっきの傷口にビリッと痛みが走る。
  滑らかな動きに、舌が這っていると経験から理解した。

「やっ……!」
「自制は利くって言ってんだ。
安心しな。
噛みはしない」

  息が首にかかって、ゾワゾワする。
  レオにこうされると、いつもそうだ。
  部長とは桁違いの、本能的恐怖。
  草食動物にあるのだろう、食われるかもしれないという、恐怖。

「あっ……」

  ブルッと、身体が震える。
  現実を見たくなくて、ギュッと目を閉じた。
  気を、吸われている。
  傷口から血を吸い出されるのと同時に、指先が冷えていく。

  部長にされる時と、同じ感覚……

「ん……」

  ゾクゾクと、胸が震えて、思わず彼の服を握った。

  言葉は丁寧でも、頭部を抑えるレオの指先には、逃すまいと強く力が入っていて。
  少し動く度に、髪が乱れる。

  自制、されてる。

  それは時折皮膚に当たる彼の牙が物語っていた。
  部長は牙を当てない。
  一度見せられて以降、直接的に見たことも、今のように感じたこともない。
  キスの時ですらそうなのだ。 

  部長はきっと、私を恐がらせないように配慮してくれていたんだ。
  それを、今になって思い知り、また悲しくて、涙が滲んだ。

「はぁ……」

  レオの甘い吐息が耳に届いて、現実に引き戻される。
  としては、まだまだ足りないのだろうに──この傷口を抉って、更なる出血で己を満たしたいだろうに、傷のない耳元へ移動したと思えば、故意では無いだろうが首筋にキスを始めた。

  何故、この吸血鬼が憎い私を殺さぬように努力するのか、なんとなく分かってきている。
  
  この人は、部長を愛してるんだ。

  だから部長の苦しみを、最小限に抑えてやろうとしている。  
  
  私を部長から引き離すことが、部長への救いになると、信じている。
  400年という時間が、長いのか短いのか、吸血鬼の時間感覚は分からないけれど。
  部長が最初に刻印した時、そばにいたというレオの話を聞けば、それからの400年は、きっと見ているレオにとっても苦しいものだったもだろう。
  その愛が、恋愛的な意味を帯びているのかは分からないが。

  レオは、刻印の残酷さを理解している。
  
「はっ……はっ……!」
「…ごちそうさま」

  気づけば、身体が体温を上げようと心拍を早め、運動の後のように呼吸が乱れていた。

  身体を離し、電球による逆光の中、レオは満足そうな笑みを浮かべていた。 

  そして似合わず──とても優しい。
  本当なら、金で解決すればいいはずなのに。

  彼は本気で、私の転職先を選んできてくれた。
  
  それが堪らなく胸を締め付けて、私はまた涙を流した。
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