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嘘は使いよう

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「そっか……辛かったね」

一通り話し終えると、頭をそっと撫でられた。

「側にいなくて、ごめん」

優しい声音が、心地良い。

とっても落ち着く。
このまま眠ってもいいと思えてしまう。

「秦さんは、どうしたい?」
「え?」
「西山教授の…そのエスカレートしてる感じは、正直、危険だと思う。
何かあってからじゃ遅い。
そんなの、俺が嫌だ」

そう言って、またグッと頭を引き寄せられる。
鐘崎の鼓動が大きく聞こえた。

「……ありがとう、鐘崎くん。
でも、これは私の問題だから、自分で…」
「そう思って、失敗したんだろ?」
「っ………!」

身体を離して、辛そうに眉根を寄せる鐘崎。

「……俺に考えがある。
だから、無理しないで」
「鐘崎くん……でも、それは、鐘崎くんも無理するんじゃないの?
私、鐘崎くんに迷惑かけたくないよ?」

ジッと見つめると、鐘崎は困ったように苦く笑った。

「……これぐらい頑張らせてよ。
俺、結構出来る男だよ?」
「……うん、何となく分かる」

思わず笑みが溢れた。
鐘崎は出来る男だと思っていたから。
何でそう思ったかは、分からないけど。

「……それで、秦さん」
「え……」
「どっちのキスが、良いの?」
「っ……!?」

まだそれ、気にしてたの?

「返答によっては、またキスするけど」
「えっ、それは、どういう……」
「いいから早く」

ムッと口を尖らせて、催促されて。
あ、可愛いと思ってしまった。

「……鐘崎くんのキス、です」
「俺のキスが、何?」

頬に手を寄せられる。
顔が熱いの、バレそう。

「鐘崎くんのキスが、好き……っ!」

思ったよりも流れるように、唇にキスが降りてきた。

「……はぁ。
どっちと言われても、多分、キスしたかも」
「で、でしょうね」

今度は鐘崎が私の鎖骨に顔を埋めた。
バクバクしてるの、聞かれてしまう。

「……秦さん、笑うようになったね」
「え?」
「さっき、バイト先入ったとき、スゲー笑顔で…可愛かった……」
「……ああ、あの時」
「バイト先の…山さんだから笑うのかなぁとか思って、ちょっと嫉妬してた」

鐘崎はギュッと手に力を入れた。
だから、私と目を合わせようとしなかったのか。

「……鐘崎くん、可愛いところあるよね」
「っ!可愛いって思うの?」

驚いたように、顔を上げる鐘崎くんがまた可愛くて、フッと笑った。

「結構前から、可愛いとは思ってたよ?
どこら辺とか言われると、難しいけど…」
「でも秦さんの辞書では可愛いは『愛おしい』って……」
「あ……うん……そうだけど……」

鐘崎は、眉間にシワを寄せて、顔を逸らしてため息をついた。

「それ、天然なの?
駆け引きなの?
それとも真面目に言ってんの?
俺は……」

何かを言いかけて、鐘崎は目を逸らす。

「俺は、秦さんが…なんでもない」
「え?えっと……」

唸る鐘崎に、戸惑う。

何か、困らせている。
どうしよう。
嫌、なの?
何を、言いたいの?

「私、は……」

でも、今なら、言ってもいいよね?
自分に正直になっても、いいよね?

鐘崎の顔を、そっと両手で挟んでこちらを向かせた。
眉を寄せて、少し頬を赤くした、鐘崎の顔と、真っ直ぐ向き合った。

「鐘崎くんのことが、好き!…だから」

しっかりと、鐘崎の目を見て。
思い切った、告白をした。

「……言わなきゃ、伝わらないと思って…」

驚いてポカンとしている鐘崎を見て、自分でやっといて、恥ずかしくなって、顔を逸らした。

「……ほんと?」
「……うん」

言ってしまった……!
言葉にして、やっぱり恥ずかしいと思った。
私らしく無いだろうか。
鐘崎は、どんな反応をするだろうか?
なんて、返してくれるだろうか?

「?……っ」

ふと、あまり反応の無い鐘崎に、不安になって顔を向けて……胸が冷たくなった。

すごく、寂しそうに、辛そうに、笑っていたから。

「……もっと、早くに、聞けてたらなぁ」

ドクン……。

そう言って笑う鐘崎が、想像出来てなくて。
息をつくのが、苦しかった。

「……嬉しいよ。秦さん。
凄く、嬉しい」
「鐘崎、く……」

キスをして目を閉じる鐘崎の瞳から、涙が溢れた。
驚きで、目が丸くなった気がした。
頬に触れる鐘崎の手が、震えていた。

「……ごめん。
でも、凄く嬉しいんだよ」

息が、続かない。
私は、何か、悪いことを言ってしまったみたいだ。

「……ごめん。
セフレの権限、使ってい?」
「……鐘崎くん……?」
「秦さんを今すぐ抱きたい」


***


「っ……!」
「はっ、はっ……秦さん……!」

その日の私は、あんまり濡れなくて。
ゴムをつけたのもあって、人よりも大きめのソレの、鋭い痛みに、貫かれた。

「ごめん…秦さん……」
「ん……んん……っ!」

余裕の無い表情で、グッと腰を押し付けて、キスをする鐘崎を、身体は次第に受け入れていく。

それは、何に対しての、「ごめん」なの?

パン、パン、パン、パンパンパン……!

次第に、音が早く、大きくなっていく。
苦しい。
息が、出来ない。

「はっ……あ、あ、あぁ……!」
「っ……秦さん……秦さん……!」

手を握り、腰を支えて、自身を深く打ち付けてくる鐘崎に、何故か虚しさがあって。
鐘崎が、遠い……。

そうか、目だ。
名前を呼ぶ鐘崎は、目を閉じている。

「あ……イヤ……鐘崎くん……!」
「っ……ごめん……」

鐘崎の頬に、手を伸ばすと、一瞬目を開いて、すぐに私の首筋に顔を埋めた。
身体が、繋がっている。
汗ばんだ身体が、ぴったりと張り付いている。
でも、何か、遠い。

「もう、イクから……!」
「っ……あ………!」

早くイこうとしてるのが分かる。
ただのとして、私を使っている。

こんなの、嫌だ……!
私は、何を、間違えたの?

「鐘崎くん……かねざき、くん……あ!」
「っ……秦さんっ……」

中で、鐘崎の肉棒が大きく脈を打つのを感じた。
グッと力を込められて、ゴムの中に勢いよく欲が吐き出されてるのが分かる。

「あ……ぁあ………」
「はぁ…はっ……秦さん」

出し終えたのか、スルッとすぐに抜き取られて、キスされた。
 喪失感に、身体が冷たく感じた。

「ごめん……好きって言ってくれて、ありがとう」
「っ……鐘崎くん……」

目尻にキスされて、自分がまた涙を流していたことに気付いた。
ギュッと抱き締めて、キスをしたけど、鐘崎は受けるだけで返してはくれなかった。

「……風呂、入ってくる」

そう言って、早々と鐘崎は私を置いて行ってしまった。

身体が重くて、痛くて、固くて、震えている……。

自分を抱くように、鐘崎の後ろ姿を見送った。

私は一体、何を間違えたのだろう?
鐘崎に、近づいたと思った。
むしろ、鐘崎という円の真横にいるものだと思っていた。
勇気を出して、一歩踏み出したら、鐘崎の中の一部になれると思った。
でも、違った。
遠く、離れた外側に、弾き出されてしまったかのよう。
私はその、鐘崎の踏み入れていけない、大事な一線を、越えてしまった。
鐘崎の抱える何か、大切なものを、踏みつけてしまった。

「………うぅ……っ」

声を忍んで、ベッドの中で泣いた。
鐘崎と、同じ想いになったのだと、思っていた。
でも、遅かったみたいだ。
それはきっと、彼の心には、決まった人がいるということ。
そして、それを裏切ることは出来ないということ。
私は、セフレでしかいられないということだ。

初めて告白をした夜。
初めて身体が繋がった日。
それは私史上、最悪の夜になった。

あの時、鐘崎とちゃんと向き合っていれば、もう少し違っていたかもしれない。
何故、あんなに鐘崎が謝るのか、私は知らなかった。
知らずに、傷付いていた。
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