脱・悪役！ ～輝龍と命の契約を～

輝く龍に会いました。

鏡に映る他人顔

「あーなんということか！
姫様！私のことをお忘れで？」

  隣にいた男の人が頭を抱えながら叫んでいる。

「姫様ぁ………」
「おいたわしや姫様……」

  女の人たちがしくしくと着物で顔を覆い泣き出す。 

  ちょ……あたし、何かした！？
  てか、おいたわしやって…(汗)
  待って、冷静に。
  変なことを言うとまた何か問題が発生しそう。
   誰かと間違えてるみたいだし、こんな格好してる人たちだし…

  ちょっとは考えないと……

「あの……」

「そもそも、昨日から体調が優れないと申されておられたのに、早朝に一人で井戸へ行かせるなど間違っておりました！
一人がよろしいと見送ってしまったばっかりに重心を崩して落ちてしまうとは見当もつかず…この涼太郎、一生の不覚です」

  あたしの手を握りながら、演技のような言葉遣いで悔やんだ顔をあたしに向ける。
  ジャニーズ向けな爽やかな顔だ。

  んー…井戸？

  つまりあたしは、自分のドジで落ちた姫と間違えられてると？
  とんだ人違いだ。

  とりあえず、よくあるマンガみたいに、過去に飛ばされたと仮定しよう。
  この場合、ドッキリだとしてもその方が筋が通る。
  でも、姫と間違えられてるとしたら、それはどうなのか。

  顔が似てるとか、生まれ変わりだとか、子孫なのか、そんなとこかもしれないけど、もし違うとバレたら？
  今はこうやって心配してくれてるけど、もし違うってことで追い出されたら…それこそどうしていいかわからない。
  目の前のこの男の人も帯剣してるし、もしかしたら斬り殺されるかも。

  でも、嘘なんかつきたくないな。
  どうやったら一番穏便？

「あの…冷静に聞いていただきたいのですが……」
「何でしょうか？」

  皆がグッと顔を固めた。

  なんか、緊張する。

「あた…私は、姫ではございません。
皆様は、何か誤解をしていらっしゃるようですが…」

  そこまで告げたところで、皆の顔が青ざめた。
  
  あれ？
  言葉遣い気をつけたつもりなんだけどな…
  ショック受けすぎじゃない！？

「あの…」
「姫様…！」
「姫様が、丁寧な言葉を…！」

  女の人がそう言って口元を押さえながらオロオロしている。
 
  ん？
  あたしそんなに口悪かったの？
  いや、あたしじゃないけど。
  てか！  全く話を聞いてないじゃん！！

「違います！
私は姫などではございません！
これは何かの間違いで――――」

  さわ………

  体を起こそうとした時、それに続いて何かがついてきた。
  頭皮を引っ張るそれは…あたしの髪の毛。

「え…？」

  そう、間違いなく、あたしの髪。
  あたしは、ショートだったはず…それが、いつの間にかロングに変わっている。

  髪が長い…？

  髪を一回撫で、引っ張ってみたところで、あたしは慌てて自分の顔に触れた。

  頬、目の形、鼻の形…

「姫…様…？」

  女の人が不思議そうに覗いてきたところで、あたしはハッとした。

「鏡はございませんか！」
「鏡、でございますか？」

  一人の人が壁際にある棚の中から小さい鏡を取り出した。
  胸騒ぎがする。
  鏡を渡された時、あたしは息を飲んだ。
  顔は全く変わっていない。
  二重瞼も、すぐにアヒル口を作れるところも、頬に出来るえくぼも、小さめの鼻も。

  ただ……毎日見慣れていたハズの自分の顔だ。
  よく分かってる。

  これは…あたしの顔じゃない。