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『白き妖狐は甘い夢を見るか』

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 小春の一世一代の大告白。耳から煙が出そうなほどに顔を紅潮させた小春の前で、優祈は目を丸くした。聞き違いかと疑っているようだ。

「抱っ……え……?」
「わ、私は……出逢った時からずっと、ご主人様をお慕いしておりました。ですが、私は妖狐です。万に一つも、ご主人様と結ばれることはありません。ですから……」

 ならばせめて、卒業のご褒美に自分を抱いてほしいと、小春は懇願した。人間のよわいでいえば十八~十九ほどの小春の身体は、女性としては充分に成熟している。初めての月経を迎えた時はあまりにも驚いたものだが、普通の人間と相違ないほどに変化できていることに、小春は喜んだ。これなら、優祈と身体を重ねることもできる、と。

「……小春」

 いい返事をもらえるかどうかは、小春にも予想がつかなかった。いつも優しい彼は、できる限り小春の願いを聞き入れてくれたが、こんな無謀なことは初めてだろう。

 優祈は数瞬考えた後、険しい顔で咳払いをした。それが答えだった。

「……だめ、でしょうか?」
「ああ、だめだ。小春の気持ちは嬉しいけれど、その願いは聞いてあげられない」
「……はい」
「僕は小春の親代わりであり、保護者だ。そんなことはできないよ。ごめんね」

 小春は肩を落とした。やはり、優祈には自分への恋愛感情はないのだ。そう分かって、目に込み上げてくるものを必死に抑え込む。

「わかっ……分かりました。変なことを言って、ごめんなさい……」
「ああ、もう。泣かないで」

 ふわりと、小春は優祈の腕の中に包まれた。祈祷をしていた後だからか、優祈の着物からはお香の匂いがして、小春の鼻孔をくすぐった。この屋敷に来たばかりの頃は苦手だったその匂いも、今は好きな人の匂いになってしまったくらいだ。

「小春は、妖狐としてだけじゃなくて、人間としても生活していけるすべを身に着けた。こんなに可憐で立派になったんだから、僕ではない誰か素敵な人が、きっと小春を見つけてくれる」
「……それは、嫌です」
「そうかい?」
「私はまだ、ご主人様の傍にいたいです」

 優祈への恋慕は、いったいどこにやればいいのか。この先、彼以上に好きになれる相手など、小春には見つけられる気がしなかった。恋とは、難しいものだ。

「分かった。好きなだけ、ここにいるといいよ」
「……はい。ありがとうございます」

 優祈は小春の髪を撫で、そっと身体を離した。名残惜しさに小春が顔を上げると、優祈は笑っているのに、どこか虚ろな目をしていた。

「ご主人様……?」
「ああ、ごめん。来客があるから、僕は仕事に戻るよ」
「はい。では、私は夕食の準備をしますね」
「ありがとう。楽しみにしている」

 去って行く陰陽師の背中を見送り、小春は自室に戻った。全身鏡の前に立つと、人間の姿の自分が映る。ふと目を閉じて変化の術を解き、目を開ける。

 次に鏡に映ったのは、金色の瞳に純白の毛並を持つ、小さな白狐だった。
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