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『アイスキャンディーの罠』

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「んっ!? んーっ!」

 逃がさない、という言葉の通り、涼斗は朱夏の後頭部を手で押さえた。唇をこじ開けて舌を滑り込ませてくる。アイスが熱で溶けて、甘いミルク味がした。

(ばかっ! ばかばかっ! ファーストキスなのに……!)

 朱夏は涼斗の胸を押し返そうとしたが、片手はアイスでベタベタになっていて、それで触れるのは憚られて動きを止めた。それに、初めてのキスもそんなに嫌なものじゃない。そんな迷いを悟ったのか、涼斗は喉の奥でクツクツと笑っている。

「朱夏のそういうとこ、可愛いと思う」

 唇を離しての第一声がそれだった。朱夏は目を白黒させ、涼斗を責めることを忘れて狼狽える。

「はっ!? え、え……これ本当に涼斗?」
「失礼な。まごうことなき桧垣涼斗ですが」
「顔が似てる別人とか!?」
「よく見てみろ。俺だから」

 ずいっと顔を寄せられ、朱夏はびくっと肩を揺らして目を閉じた。またキスされると思ったのだ。

「ぶっ……くくっ……」
「わ、笑わないでよ!」

 涼斗に笑うという感情があったのか。本当は人型ロボットで、そのせいで欠落しているかと疑うほどだったのだが。

「顔、めちゃめちゃ赤い。朱夏って名前、言い得て妙だな」
「っ……それは赤ちゃんの頃の話だから」
「いや、いまも赤い。俺のせいで赤くなってるんだと思うと、嬉しいって言ってんだけど」
「……ばか」

 涼斗はアイスを全て舐め取って、残った木の棒も先ほどと同じように捨てた。朱夏は半分ほどしか食べられなかったのだが、もうどうでもよくなっている。幼馴染みが見せる男の一面に、翻弄されかけていた。

 もう一度、唇が重なる。押しつけるような一度目とは違い、慈しみながら唇を食むような動きに、朱夏はうっとりとなった。

(やばい……気持ちいい、かも……)

 複数の女性経験がある涼斗のことだ。どうしたら女の子が喜ぶか、知り尽くしているらしい。少し嫉妬しながらも、今涼斗が自分に夢中になっているのだと思うと、朱夏の心に優越感が広がっていく。

「どう? ファーストキスの味は?」
「アイス食べたんだから、甘いに決まってるでしょ」
「嫌じゃなかった?」
「そ、れは……」

 朱夏が答えに困っていると、涼斗は朱夏の脚を撫でた。かすかに汗ばんでいた肌に、熱くて大きな手が触れて、朱夏は焦る。

「朱夏、好きだ」
「っ……涼斗」
「もし俺が東京に行けなくても、他の男を見つけたりするなよ」
「……う。分かった」
「よし。マーキングする」

 マーキングとは何か、それを聞く前に涼斗は朱夏のTシャツをたくし上げてしまった。
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