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『アイスキャンディーの罠』

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「ちょ、ちょ! なに!?」
「はあ……お前、ほんと鈍感」
「涼斗ほどじゃありませんー! 女の子の気持ちが分からなくて、何人にも振られてきたくせに」
「言ったな? じゃあ、俺が何を考えてるのか、当てて」
「……はい?」

 エアコンの風の音が強くなった。部屋の温度が上がってきたかららしい。それと同時に、朱夏の体温も上昇し始める。涼斗は表情一つ変えず、冷静に朱夏の顔を覗き込んでいた。

(な、なんなのよー!)

 焦る朱夏に対し、余裕すら浮かべる涼斗という劣勢をどうにか覆すべく、朱夏は強がって涼斗を睨みつけた。朱夏が東京に行くというから、涼斗も東京に来る。それは単純に考えれば、涼斗は朱夏の近くにいたいということだ。

「わ、私のことが好きとか? 離れたくないんでしょ?」

 涼斗をからかうつもりで、朱夏はそう言った。手に持ったままのアイスから、溶けた白い液体が指へと落ちていく。テーブルの上のティッシュを取ろうと手を伸ばすと、涼斗がそれを掴んで止めた。

「なんだ。よく分かってんじゃん」
「……へっ?」
「朱夏が鈍いから、いつまで待っても気付かないと思ってた。それなら早くえばよかったな」
「は? いや、じょ、冗談だってば!」
「照れるなって」

 朱夏の指を伝っていく雫がソファに落ちかけたところで、涼斗はそれを舐め上げた。ざりざりとした舌の表面が肌に直接触れて、朱夏は飛び上がりそうになった。

「ひゃっ! なにしてんの!」
「お前さ、『東京に行ったら、素敵な恋ができるかも』とか思ってない?」
「え、な、なんで……それよりも! 触んないで!」
「図星か。こんな田舎くさい女、俺くらいしか相手にしないって。俺にしとけ」

 未だ手に滴るアイスの液体を舐めながら、涼斗は再び、にやりと笑った。自信家で、不遜な態度にはカチンとくるのに。対して、涼斗の触れ方は優しい。それに――。

(私のことが好きってことだよね……本気!?)

 恋に疎い朱夏の心臓は、本人の意思にそぐわず暴れ始める。緊張のあまり、身体ががちがちに固まっていた。涼斗の手が朱夏の頬に触れ、すりすりと撫でた。

「んっ……」
「朱夏はどうなの? 俺のこと、ちっともタイプじゃない?」
「そ、それは……」

 正直に言えば、苦手なのは変わらない。だが、こうも急に迫られては、意識せざるを得なかった。

「じゃあ、イエスかノーで答えて」
「はっ? ずるい!」
「なんとでも言えばいい。俺は逃がさないからな」
「ぐっ……」

 朱夏が顔を真っ赤にしているというのに、涼斗は表情を崩さない。その綺麗な笑みに急かされるように、朱夏は口を開いた。

「の、ノーで……」
「ってことは、少しは俺のことも考えたことあるわけだ?」
「涼斗に彼女ができたときに……ちょっと、もやってしただけ。それだけだから!」
「へえ?」

 涼斗は嬉しそうに目を細め、朱夏の手からアイスキャンディーを抜き取った。どろどろに溶けたそれを口に含んで、呆然とする朱夏の唇を塞ぐ。
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