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無邪気な婚約者と優しい執事
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「寧々ちゃん、おかえりー」
「ただいま、です」
梢さんの頬はほんのり赤くて、ちょっと舌足らずだ。アルコールが回っているのだろう。豪さんの肩に寄り添うようにして、堂々と頭を預けているのが羨ましい。豪さんも全然嫌がっていなくて、梢さんをエスコートするように、優しく扱いながら席に着かせた。当然のように、その隣に豪さんも座る。
何の疑問も抱かせないような、完璧なカップル。幼馴染みで、双方の親が決めた婚約者同士。有名財閥の御曹司と、名家出身の人気モデル。加えて、結婚しても違和感のない年齢、という条件が揃っていた。
片や、私はどこの誰だか分からない未成年で、まだ庇護されるべき場所に甘えている。親の顔すら知らない。社会的知識だって足りないし、優美さもない。豪さんの隣にいるべきなのは梢さんだと、誰の目にも明らかだった。
「秋彦、梢に水を持ってきてくれないか」
「かしこまりました」
秋彦さんが再び去って行く。一番の味方がいなくなって、不安になってきた。せっかくのハンバーグが、急に冷めたように感じる。お似合いな二人を、これ以上見ていたくない。この場ではもう、私のことは放っておいてほしい。それが本心なのに、言葉にすることなんて到底できなかった。
「寧々、おかえり」
「た、ただいま」
梢さんを介抱しながら、豪さんが私に話し掛けてくる。嬉しいような、悲しいような、不思議な気分だ。
「さっき帰ってきたの?」
「うん」
「そうか。今日は仕事が長かったね。疲れてるように見えるよ」
「ご飯食べたら、お風呂入って早めに休もうかと思って」
「……それがいいよ」
私が曖昧に笑って返すと、梢さんの頭がぐらぐらと動いて、テーブルに突っ伏した。ごん、と鈍い音が鳴る。向かい側にいる私のところまで、その振動が伝わってきたくらいだ。どうやら、かなり酔っているらしい。
「梢さん、大丈夫ですか?」
「うふふ、だいじょ~ぶ~」
驚いて声を掛けてみたものの、へらへらと笑う梢さんは全くもって大丈夫そうではない。普段はきりりとしたお嬢様なのに。私はお酒を口にしたことがないから、どんな気分になるのか分からない。けれど、取扱いには絶対に注意しようと心に誓った。酔って情けない姿を、こうして、好きな人には見られたくないから。
「ほら、梢。秋彦が水を持ってきてくれたよ」
「んー。豪が飲ませてー」
「何を言ってるの。自分で飲みなさい」
「……はーい」
甘えたい様子の梢さんだったが、豪さんが「人前だよ」と注意した。人前じゃなかったらするんだ、とまた余計なことを考えてしまって、食事の手が止まる。
「梢様、今日は泊まっていかれますか?」
「秋彦さんだ~」
「梢、ちょっと黙ってて。泊まるとは言っていなかった。秋彦、後で家まで送っていってくれないか」
「かしこまりました。では、そのように」
梢さんは、今晩は豪さんと過ごさない――そう分かっただけで、私の心は躍るようだった。二人が夜を共に過ごさないことを、喜んでいる。
素直に負けを認めて二人を応援する、それができない。自分がとてつもなく惨めに思えるけれど、本心だった。醜い気持ちを振り切るように、私は食事を再開した。
「ただいま、です」
梢さんの頬はほんのり赤くて、ちょっと舌足らずだ。アルコールが回っているのだろう。豪さんの肩に寄り添うようにして、堂々と頭を預けているのが羨ましい。豪さんも全然嫌がっていなくて、梢さんをエスコートするように、優しく扱いながら席に着かせた。当然のように、その隣に豪さんも座る。
何の疑問も抱かせないような、完璧なカップル。幼馴染みで、双方の親が決めた婚約者同士。有名財閥の御曹司と、名家出身の人気モデル。加えて、結婚しても違和感のない年齢、という条件が揃っていた。
片や、私はどこの誰だか分からない未成年で、まだ庇護されるべき場所に甘えている。親の顔すら知らない。社会的知識だって足りないし、優美さもない。豪さんの隣にいるべきなのは梢さんだと、誰の目にも明らかだった。
「秋彦、梢に水を持ってきてくれないか」
「かしこまりました」
秋彦さんが再び去って行く。一番の味方がいなくなって、不安になってきた。せっかくのハンバーグが、急に冷めたように感じる。お似合いな二人を、これ以上見ていたくない。この場ではもう、私のことは放っておいてほしい。それが本心なのに、言葉にすることなんて到底できなかった。
「寧々、おかえり」
「た、ただいま」
梢さんを介抱しながら、豪さんが私に話し掛けてくる。嬉しいような、悲しいような、不思議な気分だ。
「さっき帰ってきたの?」
「うん」
「そうか。今日は仕事が長かったね。疲れてるように見えるよ」
「ご飯食べたら、お風呂入って早めに休もうかと思って」
「……それがいいよ」
私が曖昧に笑って返すと、梢さんの頭がぐらぐらと動いて、テーブルに突っ伏した。ごん、と鈍い音が鳴る。向かい側にいる私のところまで、その振動が伝わってきたくらいだ。どうやら、かなり酔っているらしい。
「梢さん、大丈夫ですか?」
「うふふ、だいじょ~ぶ~」
驚いて声を掛けてみたものの、へらへらと笑う梢さんは全くもって大丈夫そうではない。普段はきりりとしたお嬢様なのに。私はお酒を口にしたことがないから、どんな気分になるのか分からない。けれど、取扱いには絶対に注意しようと心に誓った。酔って情けない姿を、こうして、好きな人には見られたくないから。
「ほら、梢。秋彦が水を持ってきてくれたよ」
「んー。豪が飲ませてー」
「何を言ってるの。自分で飲みなさい」
「……はーい」
甘えたい様子の梢さんだったが、豪さんが「人前だよ」と注意した。人前じゃなかったらするんだ、とまた余計なことを考えてしまって、食事の手が止まる。
「梢様、今日は泊まっていかれますか?」
「秋彦さんだ~」
「梢、ちょっと黙ってて。泊まるとは言っていなかった。秋彦、後で家まで送っていってくれないか」
「かしこまりました。では、そのように」
梢さんは、今晩は豪さんと過ごさない――そう分かっただけで、私の心は躍るようだった。二人が夜を共に過ごさないことを、喜んでいる。
素直に負けを認めて二人を応援する、それができない。自分がとてつもなく惨めに思えるけれど、本心だった。醜い気持ちを振り切るように、私は食事を再開した。
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